25 ゴールデンウィーク
松高ダンジョンの1階層はまるで地上だ。青空には白い雲が浮かんでいて、草原は太陽の優しい光でみずみずしく輝いて見えるよ。白ウサギがこっちに駆けよってきた。のどかだね。
でもわたしはだまされないよ。島屋ダンジョンでさんざんわたしを角で刺そうとしたのを憶えているからね。
島屋ダンジョンのアルミラージゾンビなんて、ゾンビなのにここの白ウサギより動きが早くて、ミサイルみたいに次々と飛んできたよ。360度全方位から。
白ウサギが跳躍してきた。相変わらずヤル気満々だね。このままライトアローで迎撃してもいいけど、今日は高校のレクリエーションだから、このまま捕獲するよ。
ダンジョンに入って1時間、やっと遊びにきてくれたお客さんだからね。メグちゃんとジョーちゃんは30分くらいでお散歩ダンジョンに飽きてしまって、情報板領域の中に入って服作りの練習に励んでいる。
「撫子ちゃん、海里ちゃん。この白ウサギどうする」
白ウサギの両脇を持って聞いてみた。ふふふっ抵抗できまい。ピョコピョコと右前足も動かすよ。
「こうして見るとかわいいですわ」
「かわいい。まるまる」
「40キロもあるからね」
「肉づきいい。おいしそう」
「魔物は魔石と魔核になっちゃうから食べられないのが残念だよねー」
「撫子ちゃん、手ダメ。噛まれる」
「おとなしいから大丈夫だと思ったのですわ」
「白ウサギ、もう少しだけおとなしくしててねー」
「おとなしくなった」
「白ウサギ、リリースしようか?」
「美紀ちゃんが捕まえたから、美紀ちゃんが好きにするといいですわ」
「魔物。襲ってくる」
「襲ってきたら倒しちゃうよ。またな、白ウサギ」
「逃げた。めずらしい」
わたしたちはクラスの列の最後尾をのんびり歩いているところだよ。前は金髪派閥、赤髪派閥、青髪派閥、その他の4つの集団に別れている。
「菜々子さんは赤髪派閥のパーティに入るみたいですわ」
「とうとう決まったんだ。菜々子さんがかわいそうなくらいだったからね」
「菜々子さんの友達が、赤髪派閥のパーティに入ったからだそうですわ」
「これで静か」
「難しいかもしれませんわ」
「まだ何かあるの?」
「青髪派閥が決闘を申し込んだのですわ」
「バカ」
「決闘……試合みたいなやつ?」
「木剣を使った集団戦ですわ」
「うわー、それ絶対ダメなやつだ」
こんな感じでお散歩ダンジョンな高校レクリエーションは終了したよ。
赤髪派閥と青髪派閥は決闘騒ぎで警察のお世話になったけど、親の軍閥貴族が出てきて、おとがめなしになったそうな。
◇
ゴールデンウィークに入って、撫子ちゃんと海里ちゃんは帰省。親が帰ってこいってうるさいんだって。やっぱり女の子だからね。海里ちゃんの実家は愛媛県の今治市。撫子ちゃんの西条市のお隣さんだそうな。
わたしはひさしぶりに島屋ダンジョンにもぐってみたよ。成果はこれ。
31階層 レベル41 シャドウアルミラージ107体討伐
32階層 レベル43 シャドウゴブリン 91体討伐
33階層 レベル45 シャドウコボルト 94体討伐
34階層 レベル47 シャドウシープ 91体討伐
35階層 レベル49 シャドウハウンド 93体討伐
36階層 レベル51 シャドウホーク 94体討伐
37階層 レベル53 シャドウブル 95体討伐
38階層 レベル55 シャドウエイプ 94体討伐
39階層 レベル57 シェード 545体討伐
40階層 レベル65 シャドウファントム[ゲートキーパー]10体
階層が広くなったから、メグちゃんの案内でモノリスまでまっすぐ進んでも、1階層あたり1時間10分〜30分ほどかかったよ。
魔物の密度が減って討伐数は減ったけど、魔核の売却収入が結構あったから、トータルは1100万円を超えていた。養護院にたっぷり差し入れできるね。
39階層にはシェードがいたから、草原を走りまわって狩り続けたよ。シェードの魔核でマジックバッグを作って売るのもいいかも。
『何が出るかな♪何が出るかな♪何が出るかな♪』「みゃみぃーみゃ♪みゃみぃーみゃ♪みゃみぃーみゃ♪」「なにがでるかなー♪なにがでるかなー♪なにがでるかなー♪」
「みぃー」『魔法契約書のようち100枚と魔力で書ける魔力ペン10本にゃの。美紀ちゃんが前にほちがっていた物にゃの。良かったの』
『おー、これがあの有名な魔力契約書かー。魔力ペンで書かないとダメなんだよね』
「みぃー」『そうみたいにゃの』
『3人で山分けだね』
「みぃー」『わたちは魔力ペンだけでいいの。魔法契約書は使わないの』
「わたちもー。ぺんはー、みんなおそろいなのー」
『お揃いかー。みんなでお揃いもいいねー』
いつも通りジョーちゃんが、空き宝箱お持ち帰りで、次の階層へ移動したよ。
◇
「お前、ダンジョンの改札機の入退時間、退場時間の履歴がおかしくなっていたぞ。エラーが出ていたからアラーム解除しておいた」
「うぐっ……それは」
「みぃー」『改札機を通ったのがまずかったの』
「かいさつき、だめなのー?」
「みぃー」『美紀ちゃんがダンジョンから出てきて、ダンジョンに帰っていく変にゃ人ににゃってるの』
レギオンの転移秘宝で、寮の部屋から直接ダンジョンに転移してるからね。そのままダンジョンを出てスキンヘッドおじさんのところで魔石と魔核を売ったら変な履歴になるよね。
「お前のことだから、また変なことをやっているんだろう。他のダンジョンではやるなよ。すぐに調べられるぞ」
「すみません。気をつけます」
「みぃー」『スキンヘッドおじさんは許ちてくれたの。良かったの』
「ちらべられるのー」
「うちのダンジョンの監視カメラには南側の塀は映らない。まだ続けるなら憶えておけ。モノリス周辺の映像をチェックするのは、大きな異常が起こった時や事故事件の時だけだ」
「ありがとうございます」
『スキンヘッドおじさんが教えてくれたのは、こっち側の塀だね』
「みぃー」『魔石と魔核を売る時だけ普通にくればいいの』
『普通にくると宿敵たちの巣窟があるからね』
「みぃー」『美紀ちゃんが走ったら透明スライムは追いつけにゃいの』
『交通事故にはね、出会いがしらの衝突事故もあるんだよ、メグちゃん』
「みぃー」『もう説得はあきらめたの』
『いくよ。とおー』
「とおなのー」
わたしたちは華麗にダンジョンを囲む塀を飛び越えたよ。
寮の晩ご飯は、焼肉のタレを使った焼肉風野菜炒め、マカロニサラダ、ご飯、お味噌汁。
お肉おいしいね、焼肉のタレはご飯が進むよねとおいしくいただいていると、今日も紛争のニュースをやっていたよ。最近毎日だね。
「本日未明、アメリカ軍によるベネズエラ政府への軍事作戦が実行されました。これによりベネズエラ大統領の消息が不明となっております。ベネズエラ政府はアメリカ政府への非難声明を発表しました」
「北朝鮮軍は南下を続けており、韓国の2分の1が占拠されている状況です。韓国大統領府および韓国軍司令部は、韓国南部に拠点を移し韓国軍の再編を続けています。また中国海軍による在韓中国人救出のための韓国領海の海上封鎖は以前続いており……」
清美ちゃんたちは関係ないと思うけど、どうなんだろうね。
◇
わたしの頭の中には、さっき見たテレビ番組「プロジェクトZ技術者たちの挫折」のテーマ曲が鳴り響いていたよ。
「戦闘用付与魔法陣開発者たちは常に他国、他企業のスパイ、犯罪の危険にさらされている。あの火属性付与魔法陣を開発した悲劇の天才、白川技術者に悪夢が襲いかかった」
白川技術者は魔法陣の国際特許を出願したけど普通1年半は秘密にされるはずの魔法陣が、1ヶ月後には世界中に知られてしまっていたんだって。
「他国で先に特許出願していたという情報が、次々と白川技術者のもとに舞い込んだ。全て白川技術者と同じ魔法陣だった」
日本でだけ特許が取れたけど、他の国は全部ダメ。せっかく日本で取れた特許も、いろいろなところが不正利用して、白川技術者が裁判を起こしたけど、完成品に付与された魔法陣を確認することは難しいから敗訴。
「ある企業から勇気ある内部告発者が現れた。白川技術者は内部告発者と共に不正企業に立ち向かった。そして3ヶ月後、内部告発者が交通事故で亡くなった。また白川技術者も行方不明になっていた。住宅には血痕が残っていた。白川技術者の消息は現在でもわかっていない」
血痕を残して消息不明って、こわっ!
刻印魔法陣で特許をとって大儲けもいいねと思っていたけど、メグちゃん(アドバイスさん)に止めておくように忠告されたよ。
ついでに刻印魔法の魔法陣と、付与魔法の魔法陣に違いがあるか、メグちゃん(アドバイスさん)に聞いたら、刻印魔法と付与魔法の魔法陣は別物なんだって。ただ魔法陣の作り方や開発のしかたは、同じだから参考にできるそうな。
レギオン戦では、初級魔法のライトアローの攻撃力不足で長期戦になったから、次の中級魔法の魔法陣をどうにかしないといけないんだよね。
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