21 卒院と新しいウチ
「みんな、整列ー。美紀ちゃんのこれからの活躍を祈って、敬礼!」
「けいれいなのー」
「みぃ」『けいれいにゃのー』
満開の桜の花びらが風で舞っている。わたしの1つ下の夏鈴ちゃんが合図を出して、みんなで一斉に敬礼してくれたよ。この前よりビシッと揃っているね。練習したのかな。わたしもビシッと答礼を返した。これで10年間住んでいた養護院とお別れだね。
院長先生、福田先生、マリア先生も見送ってくれている。院長先生にあいさつをした時に「わたしたちは、美紀ちゃんがいつきても歓迎するわ。でも、これからは美紀ちゃんの時間を、美紀ちゃん自身のために使いなさい」と言われたよ。週イチ訪問計画を月イチ訪問計画に変えてみたけど、これくらいはいいかな?
夏鈴ちゃんたち最上級生も、わたしのような威厳あふれる先輩がひんぱんにくると、やりにくいだろうからね。
『メグちゃん、ジョーちゃんもみんなにサヨナラを言ってきた?』
「くろにまたねっていったのー」
『あいさつできて偉いねー』
「みぃー」『近所のミケちゃんやニケちゃんたちに言ってきたの』
『メグちゃんも偉いねー』
「美紀ねえ、いってらっしゃいー」
「美紀ねえ、高校デビューがんばってー」
「美紀ねえちゃん……」
「美紀ねえちゃん、遊びにきてねー」
「みきねえちゃ、うわぁーん」
「みきねえちゃ、びえーん」
ちびっこたちよ。あまり泣かれると照れて養護院に来づらくなっちゃうぞ。泣き止んでおくれ。
いざ、さらばだ、みんな。
「みぃー」『こういう場面にふさわちい言葉があるの。ラノベで見たの』
『どんなの?』
「みぃー」『わたちたちの冒険はこれからだーにゃの』
『いい言葉だね』
「わたちたちのぼうけんなのー。これからしゅるのー」
『そうだよー。探索者高校でねー。いっしょにいろんなところにお出かけしてみようね』
「いっちょなのー。おでかけなのー。」
『由美ちゃんに高校デビューの秘訣を聞いてきたから、メグちゃんやジョーちゃんにも秘訣を伝授するよ』
「こうこうでびゅーなのー。わたちもしゅるのー」
「みぃー」『高校デビューは危険にゃの。ラノベで見たの。みんな失敗ちてたの』
『わたしは中学の時の座敷わらしの呼び名を返上するんだ。やりとげて見せるよ』
そんなことを話しながら桜舞い散る川沿いの道を、のんびり歩いて探索者高校にむかったよ。宿敵が出てくるまではね。それからは全力疾走だ。宿敵たちは走っているとあらわれないけど、歩いているとあらわれるんだ。困ったものだよ。
◇
『ここだよー。ここがわたしたちの新しいおウチだよー』
「みぃ~」『3階建てにゃの』
「あたらちいおうなのー。おおきいのー」
『この寮は2年前に建て替えられたピカピカの新築物件だよ。右側が男子寮、左側が女子寮、真ん中の1階建てのところが食堂なんかの共用部分だって』
「みぃー」『探索者の格好をした人たちもいるの』
『今からダンジョンに行くのかもね。2年生や3年生は今日が始業式だったから』
「せがたかいのー」
『3年生かな。高いねー。わたしも3年生になったら、あれくらいの身長になってるはずだよ。もうそろそろぐんぐんと身長が伸びる時期のはずだから』
「みぃー」『また美紀ちゃんが見られてるの。注目のマトにゃの』
『入試にきた時にあの視線には慣れたよ。しばらくすれば視線も散るはずだからね。中学の時にもあったんだ』
寮監の北島先生が寮の説明をしてくれた。北島先生はアラフォーくらいの茶髪のボブヘアの女性。
寮の共用棟の1階には寮監室、事務室、食堂、談話室がある。女子棟の1階にはそれぞれ大浴場、談話室、学習室もある。洗濯機室、トイレは各階毎に共用。寮には全校生徒の3分の1、300人ほどが入っているんだって。
「女子は男子棟に行くのは禁止。場合によっては退学になります。もし男子棟に連れ込まれたらすぐに大声で助けを呼ぶこと。女子棟で男子を見つけたら、すぐに職員に連絡してね」
「はい、わかりました」
『孝弘みたいなのは、すぐに捕まるね』
「のぞきまーたかひろー」
「みぃー」『孝弘は影魔法スキルをノゾキに使っていたそうにゃの。そんにゃのがいるかもしれないの』
『孝弘……軍学校でもやってそう』
「つかまるのーごようなのー。あーばよなのー」
「みぃー」『影魔法を使う時の魔力をちっかり隠蔽ちてるの。隠密も熟練レベルで軍人くらいにゃら気づかれにゃいそうの』
「いんぺいー? おんみつー?」
『やったよ、個室だー。自分の部屋だー』
「みぃー」『テレビもあるの。これで深夜アニメも見れるの』
「あにめー。ゔぁるきゅりあ、みるー」
「みぃー」『ヴァルキュリアの再放送はやってにゃいの。でもクーラームーンや魔法少女コノハはやってるの。いっちょに見るの』
「いっちょにみりゅー」
『テレビ、うれしいね。これで負け続きだったチャンネル争いに参戦しなくても済むよ』
「みぃー」『美紀ちゃん、じゃんけん弱いの』
『わたしが弱いんじゃないよ。あの三つ子が強すぎるの』
「みきちゃー、わたちもじゃんけんすりゅー」
わたしは3階の302号室なったよ。4畳くらいの部屋で、窓からは海が見える。自分のテレビまであるよ。これが高校生になるってことなんだね。
ジョーちゃんと、あっち向いてホイで遊んだよ。じゃんけん強いね、ジョーちゃん。
◇
わたしは探索者高校内の売店の奥で、探索者高校の制服を試着していた。上着はブカブカで袖は余りすぎてブラブラ。膝下丈のスカートのはずがくるぶし丈のロングスカートになっている。
「ごめんなさいねー。これが一番小さいサイズなの。やっぱりブカブカね。スカートの方は詰めればなんとかなるかな?」
「ダメね。プリーツがおかしくなるわ。靴も合わない」
「ちょっと身体のサイズを測らせてね」
「伝話で確認してくるから、ちょっと待っていて」
売店のおばちゃんが、どこかに伝話して探索者中学校の制服、靴、体操服他一式を取り寄せてくれることになった。
探索者高校、探索者中学校の制服は、全国の探索者学校共通で、ボタンだけ各学校ごとの物になっているそうな。明日の昼には届くんだって。入学式に間にあって良かったよ。セーフだ。
自分で買う時は、中学校の最小サイズを注文すればいいって。わたしはこれからぐんぐん成長するはずだから、次に買う時はサイズが変わっていると思うよ。
聞いてるか、わたしの身体。そろそろ大きくなるんだ。
◇
お風呂セット、鏡、ハンガー、タオル、スリッパ。買ってきた物を並べて部屋を眺めてみる。ベッドの上の棚は右側がメグちゃんの場所、左側がジョーちゃんの場所に決まったよ。2人は自分たちで選んで買った物を並べてうれしそう。
でもちょっと待ってね。そんなところに置いたら地震でベッドの上に落ちてきちゃうから。もっと棚の奥の方に置こうね。
「みきちゃー、たからばこ、ここにおきたいのー」
『机の横? いいよー置いちゃってー』
机の横に置かれた大きな宝箱を眺めるジョーちゃんは満足気だ。新しいわたしたちの城には宝箱まであるよ。
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