12 夏祭り
「みぃー」『お祭りにゃのー。夏祭りにゃのー』
「だぁーお、だぁーう」
今日は養護院のみんなといっしょに、近所の神社の夏祭りに来たよ。スピーカーからは、祭り囃子の軽快なメロディーがぴーひゃら流れている。メグちゃんとジョーちゃんは、手足をパタパタしながら神社の境内を飛びまわっているね。
みんなに渡すお財布代わりの巾着70個(1000円入り)も準備万端だ。浴衣は無理だったけど。
わたしプロデュースの夏祭りイベントは、夜は無理だから午後2時〜午後4時までの2時間。ちびっこたちの暴走を制御するために、中学1年、2年組も全員参加だ。清美ちゃんたちはダンジョン合宿中。軍学校に入るのってここまでしないとダメなんだね。去年、佳代ねえや哲雄にいがいないことが多かったのも納得だ。
夏祭りイベントは院長先生に頼み込んで許可をもらった。わたしのことを心配されたから、ダンジョンに行った2日間の収入書も見せて説得したよ。それでも「美紀ちゃんの気持ちはうれしいけど、探索者高校や将来のために貯金をしておいた方がいいのよ。自分のために使うことを考えなさい」って忠告されたけどね。
ここの出店は、地元の町内会と子供会の保護者が、今日1日だけのボランティアで出してくれているから、ぼったくりもなくて安心安全なんだそうな。だから院長先生が許可を出してくれたんだよね。金魚すくいや射的、ヨーヨー釣りみたいなゲームは1回100円。ジュースは1本100円。かき氷、綿菓子は1個200円、焼きそば、お好み焼き、チョコバナナは1個300円、タコ焼き、イカ焼き、りんご飴は1個400円。どこの出店も安くてボランティアみたいな感じだって。
「巾着は落とさないようにねー。大きい子は小さい子を見てあげてー」
「「「は〜い」」」
「何かあったら、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちに言うんだよー」
「「「は〜い」」」
「美紀ねえ、ありがと」
「みきねえちゃ、ありがとう」
「美紀ねえちゃん、ありがとう」
「おまつり〜」
みんなは、タコ焼きや焼きそば、綿菓子、かき氷、りんご飴、チョコバナナみたいな食べ物系の出店から攻めるようだね。それもまたヨシだ。
メグちゃんは綿菓子のところで綿菓子がクルクルと作られている様子を見ていたよ。おもしろいし、甘いニオイがおいしいんだって。ジョーちゃんは金魚すくいの子供たちに混ざってビニールプールにくっついていたよ。真剣な目をして金魚を見つめている。わたしにはわかるよ、あれは狩人の目だね。
『ジョーちゃんも金魚すくいやってみる? わたしが手伝うよ』
「あーうー」
『金魚すくいをやりたいんじゃないんだ。金魚が欲しいの?』
「だーうー」
ジョーちゃんは赤い金魚たちの間を機敏に泳ぎぎまわっている小さな黒い金魚に手を伸ばした。あれが今回のターゲットのようだ。
『そうなんだ。わたしが代わりにすくってあげようか?』
「だーうー」
ここはわたしの腕の見せどころだね。ジョーちゃんにわたしの頼れる姿を見せてあげる。金魚すくいはやったことがないけど。
金魚すくいは町内会長さんがやってるんだね。1回100円、良心的なお値段だ。たぶん原価ギリギリかも。
「おじさん、1回お願いします」
「まーうー、あーう」
ポイを右手にお椀を左手に、わたしは静かに構えた。ジョーちゃんも応援してくれている。ターゲットは動きが早くて元気いっぱいだ。
「ていっ!」「もう1回お願いします」「ここだーー。ていっ!」「もう1回お願いします」「その油断が命とりだーー。てい」「もう1回お願いします」
ポイを水に勢いよく入れたけど、黒金魚にスルリとかわされて失敗。ポイも破れたよ。2回目のチャレンジは黒金魚に底に潜られて、それを追いかけてポイが破れて失敗。
「お嬢ちゃん。その黒い金魚より、こっちの赤い金魚の方が動きも遅いし、水面のところにいるからすくいやすいよ」
「いえ、この黒い金魚がいいんです」
『そうだよね、ジョーちゃん』
「だーうー、まーうー」
初志貫徹だね。いばらの道だとわかっていても、わたしとジョーちゃんは進むよ。
「そこだーー。てい」「やるねクロ。てい」
3回目、4回目は逃げる黒金魚をポイで追いかけて失敗。おかしい、ポイがすぐ破れやすぎるよ。水の中でバシャバシャしたらあっと言う間だ。もっと丈夫なポイを開発すべきだね。
ここで町内会長さんが救援の声をかけてくれたよ。
「その黒い金魚なら、とってあげるよ」
「ありがとうございます。もう少し自分でがんばってみます。これは黒金魚とわたしの1対1の真剣勝負です」
「だーあー」
「真剣勝負……」
「てい」「もう1回お願いします」
「こういうようにプールの横の壁のところで待っていて、上にきた金魚を横からすくってお椀に入れれば上手くいくよ。ポイの端だけつけて、ポイの枠を使ってすくうんだ」
町内会長さんが、金魚すくいのプロの技を教えてくれてやってみせてくれたよ。すばらしい技だね。これでわたしもいけるよ! この技を物にしてみせる。
「クロ、こっちの水はあまいよー。てい」「てーい」
養護院の子たちが集まってきたよ。
「美紀ねえちゃん、下手っぴー」
「みきねえちゃ、ぼくがとってあげるー」
「ありがとう。もう少し自分でがんばってみるからね」
養護院の子たちが次々と赤い金魚をゲットしていく中で、明鏡止水の心で静かにチャンスを待つ。町内会長さんは、ポイが足りなくなってきたたからか、破れたポイの紙を貼り直しているね。
「クロ、君がそこまでやるとは。わたしの完敗だ。てい」
「油断したねクロ。てい」
黒金魚クロが追いかけられ過ぎてもう疲れたよ、という感じでフラフラと水面に上がってきた。わたしの目がキラリと光ったよ。
「チャーンス! てい。やったーー、とうとうやったよーー」
「だーうーーだぁ」
黒金魚がお椀の中におさまっていたよ。ジョーちゃんが満面の笑顔でわたしを見上げている。
ほんの少し疲れたような顔をした町内会長さんが、クロを水といっしょにビニール袋に入れてくれた。ジョーちゃんはクロの動きを眺めているよ。
その後は合流したメグちゃんやジョーちゃんといっしょに、ヨーヨー釣りや射的も満喫した。
養護院に持ち帰ったクロや赤い金魚たちは、院長先生が倉庫から昔使っていた大きな水槽やポンプを出してきてくれて、そこで元気に泳いでいる。
クロたちの世話は、みんなが交代ですることになった。玄関に置かれた大きな水槽には、たまにジョーちゃんがくっついてジッと眺めているよ。
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