13 院長先生
院長先生が病気治癒ポーションと体力回復ポーションを飲んで1週間、すぐにあらわれるはずのポーションの効果が全くあらわれていなかった。
わたしは島屋出張所に行って、スキンヘッドおじさんに万能薬をお願いした。スキンヘッドおじさんは長い長いシンキングタイムの末、あきらめたように長い長い溜め息を吐いて、万能薬を探すことを約束してくれた。ただミスリルブレスレットだけでは、万能薬のお金が足りないそう。
ダンジョン禁止なわたしは魔道具作りの副業を始めることにしたよ。
材料は安い魔鉄製の物をチョイス。ホームセンターで買ってきたよ。魔核はスキンヘッドおじさんの出張所で注文。探索者免許証がクレジットカードみたいに使えるというのを初めて知ったね。簡単便利だ。刻印する魔法陣はメグちゃん提供。アウターネットのアドバイスさんに教えてもらってね。効果魔法陣の上に欺瞞用魔法陣を乗せているから、刻印された魔法陣を見て盗用してもムダだそうな。ダンジョン産魔道具に多く使われている技術なんだとさ。
そうして作った物がこれ。各3個ずつ作った。お金が足りなければ追加する所存。
○物理攻撃力10%増の魔鉄指輪(サイズ調整機能付) 市場価格500万円
材料費 指輪1万円、魔核3万円 加工費 0円
○物理防御力10%増の魔鉄指輪(サイズ調整機能付) 市場価格300万円
材料費 指輪1万円、魔核2万円 加工費 0円
○魔法攻撃力10%増の魔鉄指輪(サイズ調整機能付) 市場価格800万円
材料費 指輪1万円、魔核2万円 加工費 0円
○魔法防御力10%増の魔鉄指輪(サイズ調整機能付) 市場価格500万円
材料費 指輪1万円、魔核2万円 加工費 0円
○状態異常耐性10%増の魔鉄指輪(サイズ調整機能付) 市場価格1000万円
材料費 指輪1万円、魔核2万円 加工費 0円
○鑑定板(レベル、スキルのみ表示) 市場価格500万円
材料費 魔鉄板3万円、魔核1万円 加工費 0円
スキンヘッドおじさんに作って渡したら、眉間に深いシワをよせながら、しばらく目をつむって考え込んでいたのが印象的だった。わたしの最優先は院長先生の万能薬で、他は後回しだ。
◇
『やったよ、メグちゃん、ジョーちゃん。万能薬が手に入ったって手紙がきたよ。2人が手伝ってくれたおかげだよ。良かったーー。本当に良かったーー』
「まーうーあ」
「みぃー」『わたちもラノベをたくさん買ってもらえて良かったの。積ん読が200冊を超えて幸せにゃの。悪役令嬢に婚約破棄にゃの。追放にざまあにゃの。おもちろいの』
『わたしもメグちゃんのオススメを少し読ませてもらったけど、ざまあのところを先に読んだりしちゃったよ。時代はざまあだね』
「あーうーう」
「みぃー」『ラノベを読んでわかったの。やるからには徹底的に潰すの。隙を見せたら、ざまあ返ちされるの。やり返されちゃうの』
『メグちゃん、メグちゃん。あれはお話だからね』
「みぃー」『スキンヘッドおじさんに聞いた探索者協会はラノベよりひどかったの。事実は小説より奇にゃりにゃの。アドバイスさんも注意するように言ってたの』
『そっかー。わたしも気をつけないとね』
実は万能薬を待つ間に、院長先生が吐血したのを見てしまって、あわてて2本目の治癒ポーションを買ってきたんだよね。院長先生には飲むのを断られてしまったけど。
「美紀ちゃんの気持ちはうれしいわ。ありがとう。でも、わたしは大丈夫だから、美紀ちゃんが病気にかかった時に飲みなさい」
こっそりお茶に混ぜて飲んでもらおうとしたけど、メグちゃんのストップが入った。ポーションや万能薬は、他の物と混ぜると、魔力が薄れたり魔法式が壊れたりして、効果がなくなるそうな。
万能薬が手に入ったと聞いたわたしは考えた。また院長先生に飲むのを断られるんじゃないかと。
悩んだわたしはスキンヘッドおじさんが、院長先生と顔見知りということを思い出して、マリーアントワネットな計画「わたしがダメならスキンヘッドおじさんがいるじゃない」を立案。
スキンヘッドおじさんが、万能薬を海外で新しく作られたポーションだと言って、院長先生に飲ませることが、わたしの中で決まった。
わたしがスキンヘッドおじさんに理由を話してヘルプをお願いすると、不承不承うなづいてくれた。ここまで付き合ったんだから最後まで付き合ってくれるんだと。
本当に迷惑ばかりかけてごめんなさい、スキンヘッドおじさん。わたしの中では院長先生に万能薬を飲ませることが最優先だから。後で必ずお返しします、ご勘弁を。
◇
養護院の応接スペースで、わたしは院長先生の隣に着席中だ。目の前にはスーツ姿のスキンヘッドおじさんがいる。当初の計画ではわたしは、ここにいないはずなのに院長先生に呼ばれてしまったよ。おかしいね。
院長先生とスキンヘッドおじさんは世間話を交わし中。メグちゃんはわたしの隣でフワフワ浮きながらラノベ中。ジョーちゃんは食堂のテレビでアニメ鑑賞中。ジョーちゃんは食堂の食器棚の棚の上がお気に入りの場所みたいだ。そこに座ってよくテレビを見てるよ。
「みぃー」『スキンヘッドおじさんがいつもと全然違うの。格好も違うし、いつもこーんな顔ちてるのに、今はこーんな笑顔にゃの』
『メグちゃん、笑っちゃうから変顔するのは止めてよ、ね。今は院長先生とスキンヘッドおじさんがお話ししてるから』
「せっかくの機会ですから、この子にも伊集院さんに改めてお礼を言わせておこうと思いまして。ほら美紀ちゃん、あなたがプールで溺れた時に助けていただいた方よ。車であなたを運んできてくださったの」
『なんですとーー!! スキンヘッドおじさんが毛深い足の人だとーー?? 足と頭は比例しないの??』
スキンヘッドおじさんはなんだか困ったような表情だね。
「あの時に助けていただかなかったら、わたしはそのまま亡くなっていたはずです。改めてありがとうございました」
『毛深い足の人改めスキンヘッドおじさん、ありがとう。思い出したよ、あの時、宿敵に倍返しすると決めたことを。それ以来、週イチで宿敵と遭遇するようになったことを』
「みぃー」『ラノベテンプレの命の恩人と出会って恋に落ちるパターンにゃの』
『ナイナイ。スキンヘッドおじさんは奥さんも子供もいる40歳超えの人だよ。フラグじゃないからね。それにしても院長先生が見ているせいかムチャクチャやりにくいよ。これが授業参観の時の気持ちかー』
「美紀ちゃん、それだけじゃないのよ。用水路に落ちて倒れていたあなたを助けて、ウチまで送っていただいたこともあるの」
『あの時のお坊さん! スキンヘッドだったから勘違いしていたよ』
「重ね重ねご迷惑を。あの時も助けていただいて本当に助かりました。宿、透明スライムが頭にぶつかってきたせいか、意識が朦朧として自分で起き上がれませんでした。あのままだったら用水路で溺れていたかもしれません」
スキンヘッドおじさんがますます困った顔に変わった。
「いえ、お礼は十分に言っていただきました。もうすっかり元気になられたようで良かったです。ところで本日お伺いした件ですが、4月に倒れられた時に島屋病院の高橋医師が対応したと思います。高橋医師は私と親交がありまして……」
「いえ、わたしは別に結構……」
院長先生とスキンヘッドおじさんの間で火花が散っているように見えるよ。海外製のポーションだと言って飲ませようとするスキンヘッドおじさんと拒否する院長先生の戦いが続いている。スキンヘッドおじさん、こんなにいろいろ調べてくれていたんだね。
院長先生の顔が青白くなってきたよ。体調がまた悪くなってきた! スキンヘッドおじさん、ごめんなさい。作戦変更します。
「院長先生ごめんなさい。伊集院さんもありがとうございました。院長先生、このポーションはわたしが伊集院さんに手に入れてもらうようにお願いした物なんです。怪しい物ではありません。わたしから頼んでも飲んでもらえないと思って、伊集院さんにお願いしました。騙して飲まそうとしてごめんなさい。これを飲めば必ず病気が治ります。飲んでください。お願いします」
わたしは立ち上がって院長先生に頭を下げ続けたよ。院長先生の服が内側から白く光っているね。なんだ、これ?
「みぃー」『院長先生が万能薬を飲んだの。治癒の光にゃの。直接見たらまぶちかったの』
頭を上げると、院長先生にガバっと抱きしめられたよ。前が見えないからスキンヘッドおじさんの顔は見えない。
「ありがとう。美紀ちゃんのおかげで、病気が治ったの。ずっと心配してくれていたのね。ありがとう」
院長先生の声が涙声になっていて、わたしも泣きそうになったけど、わたしは平征女子。人前で涙は見せないよ。
スキンヘッドおじさんは、わたしに「良かったな」と声をかけて、万能薬交換で余った分だと言って、大きなダンボール箱を3箱も置いて帰っていった。中にはミスリルブレスレットが3個とシェードの魔核が5千個も入っていたよ。万能薬は伊集院一族が保有していた物を1億2000万円換算で計算したそうな。
スキンヘッドおじさんには、今回と小学生時代のお礼にアイテムボックスを作って渡すことに決めたよ。
ブックマークや★★★★★評価をいただけるとうれしいです




