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ちび白猫と小さな赤ちゃんと現代ダンジョンへ  作者: 南瓜と北狐


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112/114

112 クロちゃんの名前

「美紀ちゃん、クロがクリームニョロリンのお礼を言いたいって言ってるの」

『お礼なんて別にいいのに』

「クロは礼儀正しい、いい子なの」

『そっかー。水槽のところに行けばいい?』

「クロを呼ぶの。クロー」


 小さな花飾りをつけた黒金魚のクロがパタパタと泳ぎながら飛んできたよ。まだ飛ぶのになれてないのか、尾びれをパタパタ一生懸命動かしている割りには、あまり進んでないね。


「ジョーちゃん、なんでしゅクロ」

「クロ、美紀ちゃんなの。認識阻害をかけていても、美紀ちゃんにはクロが見えてるの」

『こんにちは。わたしは美紀。よろしくね』

「みきちゃ、ボクはクロでしゅクロ。くりーむにょろりん、ありがとうでしゅクロ。とってもおいちかったでしゅクロ」


 クロの声は普通に聞こえるね。幼い子特有の高いソプラノの声だ。


『どういたしまして。また食べたくなったら、いつでもわたしかジョーちゃんに言ってね』

「おねがいしゅるでしゅクロ」

『クロは花飾りをつけているんだね』


 クロのサイズに合わせた小さな幼ドラシル花飾りには、小さな小さな空間ネットワークコアまでついてるよ。ジョーちゃんが作ったのかな。


「ジョーちゃんにもらったでしゅクロ。かわいいのでしゅクロ。クロコとクロミとおそろいでしゅクロ」

「クロもおしゃれをしたい年頃なの。わたしがつけてあげたの。クロのお気に入りなの」

『おしゃれをしたい年頃かー。男の子でもおしゃれをするのは楽しいよね』

「ボクおとこのこじゃないでしゅクロ……」

「クロはかわいい女の子なの。クロがショックを受けたの。美紀ちゃん、ひどいの」

『クロちゃん、ごめんね。ボクって言ってたからちょっと勘違いしちゃったよ』

「最近の女の子は自分のことをウチやボクっていうの。大規模匿名掲示板調査なの。大規模調査なの。まちがいないの」

『クロちゃん、本当にごめんね』

「クロ、おとこのこのなまえって、クロコとクロミにいわれたでしゅクロ……」

「クロの名前は美紀ちゃんがつけたのー」


 ◇


 中学3年生の時の金魚すくいの場面が、わたしの脳裏に浮かんだよ。あれがクロとの出会いだったね。


「だーうー、まーうー」

「そこだーー。てい」「やるねクロ。てい」

「だーあー」

「クロ、こっちの水はあまいよー。てい」「てーい」

「美紀ねえちゃん、下手っぴー」

「みきねえちゃ、ぼくがとってあげるー」

「ありがとう。もう少し自分でがんばってみるからね」

「クロ、君がそこまでやるとは。わたしの完敗だ。てい」

「油断したねクロ。てい」

「チャーンス! てい。やったーー、とうとうやったよーー」

「だーうーーだぁ」


 ◇


 たしかにわたしがクロって呼んでいたよ。このままじゃまずいね。クロがきずついちゃってるよ。うなれ、わたしの頭脳。せっぱつまったわたしの頭脳が強引な解決方法を導きだしたよ。


『クロちゃんのクロは愛称なんだよ』

「愛称なの?」

「あいしょうでしゅクロ?」

『クロちゃんの名前はクロエイミーっていうんだよ』

「ボク、クロエイミーだったでしゅクロ……」


 クロエイミーと言った瞬間、身体からスッとなにかの力が抜けていったよ。なんだろうね。クロちゃんの身体がちょっぴり大きくなった気がしないでもないね。


『エイミーは若草物語の四女からとった由緒正しい名前で、長女はメグちゃん、次女はジョーちゃん。一番小さな末っ子がクロエイミーのクロちゃん』

「クロ、わたしの妹だったのー!」

「ボク、しゅえっこでしゅクロ!」

『クロエイミーちゃんだったら、女の子らしい名前だから、クロコちゃんとクロミちゃんも男の子みたいな名前だって言わないよ』


 また身体からスッとなにかの力が抜けていったよ。なんだろうね。

 ジョーちゃんの額から金色の光の玉がひとつふわっと出てきて、クロちゃんの身体に吸い込まれていった。あれって異世界の管理権じゃないか。どういうことさ。

 クロちゃんの身体が黒く光って、身体の周りにあらわれた金色の粒つぶがキラキラしているね。今度は養護院の朝のチャイムが鳴り出した。たまにあるんだよね。変な時間に鳴るの。

 光がおさまって、チャイムも鳴り止んだけど、ジョーちゃんとクロちゃんは、びっくりしたのか、目がまん丸のまま元に戻らないね。クロちゃんの目は最初からまん丸だけどね。わたしもちょっと混乱ぎみだ。


「異世界の管理権が1個になったのー。クロ、もう1個あげるの。どうぞなの」


 ジョーちゃんの額から金色の光の玉が浮かびあがったけど、また引っ込んだよ。


「もう1個はガンコなのー」

『ジョーちゃん、変なことしたらまた増えちゃうよ』

「そうだったの。メグちゃんに言われていたのー」

「きんいろのひかりでしゅクロ?」

『さっきの金色の光は、異世界の管理権だって。異世界でいろいろするものらしいけど、こっちの世界ではなにもないみたいだよ』

「なんとなくわかったでしゅクロ」

『気にせず持っていればいいみたい、たぶんね』

「美紀ちゃん、三女は誰なの?」


 なかなか鋭い質問だね、ジョーちゃん。誰にしようかなー?


『えーと……イーちゃんかなー』

「イーちゃんもわたしの妹だったのー!」

「イーちゃんもねえちゃでしゅクロ」


 イーちゃんに事情を説明して口裏合わせを頼まないと。先にメールを送っておこう。メグちゃんにもメールだ。

 あとでイーちゃんに三女の話の了解をもらえたよ。イーちゃんは『わたし長女の方がいいのです』ってにゃうにゃう言ってたけどね。

 やっぱり適当なことを言うと、あとが大変だね。でもクロちゃんが元気になったからヨシだ。


 ◇


「美紀ちゃん、もうひとついいことがあったの」

『ジョーちゃん、どんなこと?』

「クロたちが花飾りをつけたら、わたしが見えるようになったの。わたしの声も聞こえるようになったの。アバターじゃなくてもいいの」

『マジで?』

「マジなのー」

『すごいねー。あの花飾りにそんな効果があったんだー。さすが異世界の不思議花飾り。びっくりだよ』


 メグちゃんやジョーちゃんの本体(霊素体)の姿や声は、なぜかわたし以外の人には、見ることも聞くこともできなかったんだよね。

 それをくつがえすとは。やるね、幼ドラシル花飾り。つけたら幼く見えてしまう効果だけじゃなかったんだ。


「クロたちといっしょにクリームニョロリンを食べられたの。いっしょに食べたの初めてだったの。うれしかったの」

『本当に良かったね。これからはいつでもいっしょに食べられるよ』


 ジョーちゃんやメグちゃんのアバターは、味もニオイもわからないから、クロちゃんたちといっしょに、ご飯もおやつを食べられなかったんだ。

 クロちゃんたちと、初めておやつをいっしょに食べることができたジョーちゃんは、小さな手を握りしめて、なにかを決意しているみたい。


「今度、クロたちといっしょに食い倒れツアーに行くの」

『クロちゃんたちは、レベルが上がっていても金魚だから、食い倒れツアーは無理だと思うよ』

「だったら食べ放題ツアーにするの」

『食べ放題ツアーも無理かなー』

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