109 大人の威厳
養護院に遊びにきたよ。今週の差し入れはクリームニョロリンだ。みんな異世界のお菓子を思う存分に味わうがいい。
「美紀ちゃん、わたしクロたちのところに行ってくるの」
『クリームニョロリン、あげるんだったね。クロたちが飛ぶのを養護院の子たちに見られても大丈夫?』
「クロたち、みんな認識阻害魔法を使えるの。だから大丈夫なの」
『そっかー、認識阻害魔法、使えるんだ……。食べさせすぎたらダメだよ』
「わかってるのー」
ジョーちゃんはピューッと飛んでいったよ。
「みぃー」『美紀ちゃん、わたしもクロたちのところに行ってくるの』
『メグちゃんが? めずらしいね』
「みぃー」『ジョーちゃんに頼まれたの。クロコとクロミのデータをパソコンの中に取り込むの。クロみたいにするの』
『あー、パソコンの中の隠れキャラだっけ?』
「みぃー」『そうにゃの。それで詳細解析データがいるの。美紀ちゃんも隠れキャラににゃりたかったらいつでも言うの。今だったら新しいパソコンに組み込めるの』
『わたしは隠れキャラにならなくてもいいかなー』
「みぃー」『2頭身美紀ちゃんを作っておいたのに残念にゃの。行ってくるの』
メグちゃんもピューッと飛んでいったよ。
◇
院長先生たちへのあいさつを済ませて、学習室、遊び部屋、食堂をめぐってクロクリームニョロリンを配っていったよ。
「みきねえちゃ、わいろ〜」
「くりーむにょろ? わいろ?」
「にょろにょろわいろ〜」
「それボクのわいろ〜」
「みきねえちゃん、もっとわいろ〜」
「みきねえちゃん、わいろは〜」
「美紀ねえ、トランプやろうよ」
みんな変な言葉を憶えちゃってるね。原因は何を隠そうわたしだ。先週、金色コイン型チョコを差し入れした時に「わいろだよー」と言って配ったんだよね。あいさつした時にマリア先生が「美紀ちゃん、子供たちに変な言葉を教えないでね」って注意された理由がわかったよ。子供って変な言葉が好きだから、あれだけで憶えちゃったみたい。
まずい、マリア先生が見てる。わたしをじっと見てるよ。ここは幼児部屋に戦略的転進だ。
「みきねえちゃ、なんねんせいー?」
「わたしはもう学校を卒業してるんだよ」
「ちがうよー、5ねんせいー」
「6ねんせいー」
「みきねえちゃ、4ねんせいっていってたー」
幼児部屋で新たな事実が発覚したよ。幼児部屋のちびっこたちが、わたしのことを近所に住んでいる小学生だと思い込んでいたんだ。わたしの大人としてのあふれる威厳が、ちびっこたちにはわからなかったらしい。これは要改善案件だ。
◇
ポップル社の工場の事務棟3階にある講堂にきたよ。デザイナーズ工場の講堂らしく、この講堂も中世の西洋風劇場をモチーフにした変なデザインだ。この工場の設計をした建築家は、去年別の建物で日本建築学会賞を受賞したそうな。
間接照明だけつけて暗くした講堂の中で、わたしはゆっくりとテーブルに両ひじをついて、手を組み合わせた。両手の親指をピンと立ててその上にあごを乗せれば、威厳のあるポーズの完成だ。
『養護院警備隊、岩本社長家族警備隊の諸君、いそがしいところ集まってくれて感謝する。臨時会議を始めるよ』
わたしは威厳のある低い声で、会議の開催を重々しく宣言してみたよ。
講堂にはイーちゃんのお友達たち300人がふわふわと浮かびながら、わたしに視線を向けている。居眠りしている子もいるけどね。
ちび黒猫なイーちゃんのお友達たちからは『なんで部屋が暗いのです?』、『また美紀ちゃんが変なことを始めたのです』という声がみゃうみゃう聞こえるけど気にしないよ。
『隊長。報告を頼むよ』
ちび黒猫なイーちゃんのお友達たちからは『隊長って誰なのです?』、『なにを報告するのです?』、『知らないのです』、『明日の午前当番の子たちにしておくのです』、『月曜の午前当番は10人いるのです』、『くじ引きにしておくのです』という声がみゃうみゃう聞こえるけど気にしないよ。
「みゃう」『報告なのです。いつも通りなのです』
『うむうむ。よくやってくれた。諸君たちの報酬は、いつものようにスイス銀行の秘密口座に振り込んでおいた』
ここで重々しくうなづいて見せたよ。完璧だね。
ちび黒猫なイーちゃんのお友達たちからは『スイス銀行の秘密口座ってなんなのです?』、『クレジットカードのことなのです?』、『知らないのです』という声がみゃうみゃう聞こえるけど気にしないよ。
『がんばってくれている警備隊の諸君たちには、臨時報酬を準備した。1人1箱だ。持っていってくれたまえ』
「みゃう」『お土産なのです。ありがとうなのです』
「みゃう」『クロクリームニョロリンなのです。やったのです』
「みゃう」『プレミアお菓子なのです』
「みゃう」『メグちゃんがシェフを呼んだお菓子なのです』
「みゃう」『シェフじゃないのです。パティシエを呼んだのです』
「みゃう」『どっちでもいいのです。食通メグちゃん推薦のお菓子なのです』
「みゃう」『わたし、これにするのです』
「みゃう」『それはわたしのなのです』
「みゃう」『わたしが先にとったのです』
「みゃう」『わたしが先なのです』
『みんなー、箱の中は同じだから、どれでもいっしょだよー。ケンカしないでねー』
「「「「「みゃう」」」」」『『『『『はーいなのです』』』』』
大人としての威厳を見せつつ、警備隊のみんなに異世界のお土産を配ったよ。
これでわたしの大人の威厳力も上昇したはず。待ってろ、幼児部屋のちびっこたち。わたしの大人の威厳を見せてあげる。
◇
異世界のことで気になってることがあるんだよね。空間ネットワークのニュースに載ってるかな? クローエアリエル聖樹国のニュースサイトはっと……ここだね。
[女王陛下が奇跡のご快癒! 病気治癒舞とは?]
あった。エリエル殿下のお母さん、完治したんだ。良かった。
他にもいろいろなニュースがあるね。なになに。
[生まれ変わった世界と聖樹さまの旅立ち]
[拡がった聖樹国、面積が3倍に]
[エリエル王女殿下が聖樹の守護者に! 史上11人目の奇跡!?]
[エリエル王女殿下はアリエルさまの再来? それとも聖女さま?]
[レッツダンス! 病気治癒舞編]
[空中神殿戦艦クローエ浮上!?]
[聖樹の湖に異変! 透明スライムが10倍に増えた!?]
聖樹の湖ってわたしが行った完成式典の湖じゃないか……。
岡山のユグドラシルの根元にも、大きな湖ができていたけど、こっちの湖は大丈夫だよね。宿敵の巣窟にならないよね。頼むよ、ユグドラシル。
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