106 光の玉
『ただいまー』
「おかえりーなの」
「みぃー」『おかえりーにゃの』
わたしを見たメグちゃんとジョーちゃんの目がまん丸になってるよ。
「美紀ちゃんが金髪になったの。最新トレンドファッションなの」
「みぃー」『大変にゃの。美紀ちゃんがグレちゃったの』
『この頭は最新トレンドファッションでも、グレたわけでもないからね。認識変換魔法の副作用だよ』
「みぃー」『認識変換魔法に副作用にゃんてにゃいはずにゃの』
『それだったらこの金髪は……』
その時わたしの頭上から、金色の光の玉が2個、ジョーちゃんに向かってふわふわと飛んでいったよ。
「この光の玉から、おそろしい異世界の気配がするのー」
『くっ、ウチにまで! わたしがあとをつけられてしまったんだ』
「こっちにきたらダメなのーー!」
ジョーちゃんの拒否の声に、2個の金色の光の玉は凍りついたように止まり、光を弱々しくチカチカと明滅させている。光の玉同士で話しあっているみたい。
わたしは金色の光の玉2個をアイテムボックスに収納しようとして失敗。
『収納できない! 領域魔法で囲むよ!』
わたしが2個の光の玉を閉じ込めようと、領域魔法を立方体の形で6枚同時発動させて囲んでみた。それに反応したのか、2個の光の玉はくっついて大きな光の玉に変化したよ。わたしの身体からスッと力が抜けたような感じがした瞬間、光の玉を囲んでいた領域魔法が消えて、光の玉が3個にわかれた。光の玉はさっきとはくらべものにならない速さで、わたしとメグちゃん、ジョーちゃんに向かって飛んだ。
わたしは光の玉をよけようと右に動きながら、光の玉の前に領域魔法6枚を同時発動。ジョーちゃんは自分の前に領域魔法12枚を展開、メグちゃんの前にも領域魔法12枚を展開。同時発動だ。わたしが床に置かれていたゴムボールに足を取られてポテンと倒れこむなか、光の玉は領域魔法を吸収でもしているみたいに消しながら、さらにスピードアップ。メグちゃんとジョーちゃんに飛んでいっている光の玉も同じように領域魔法を消してさらに加速。
飛んでくる光の玉を払いのけようとして、左手で光の玉にふれたら、光の玉はわたしの身体に吸いこまれるように消えてしまった。メグちゃんもジョーちゃんも光の玉に被弾だ。
わたしはイーちゃんがバランスボール代わりに使っているゴムボールを持って立ち上がったよ。
『メグちゃん、ジョーちゃん、大丈夫?』
「みぃー」『大丈夫にゃの。アドバイスさんに金色の光の玉がにゃんにゃのか聞いてるの』
『メグちゃん、お願いね』
「わたしも大丈夫なの。おそろしい気配が飛んできてびっくりしただけなのー」
『あんな気配を見逃していたなんて、認識変換魔法でわたしの感覚がおかしくなっていたのかも』
「美紀ちゃんの髪が元に戻ってるの」
『本当だー。黒髪に戻ってるよ』
「みぃー」『あの光の玉の正体がわかったの。異世界の管理権だそうにゃの』
「かんりけんなのー?」
「みぃー」『異世界の管理システムやコアを管理するための権限にゃの』
『そんなのあるんだー』
「みぃー」『普通は1つの世界に1つの管理権だけにゃの。でも異世界の管理権は3つににゃって美紀ちゃんとジョーちゃんとわたしのにゃかに入ったそうにゃの』
「メグちゃん、わたしの管理権あげるの。どうぞなの」
ジョーちゃんの額から金色の光の玉が浮かびあがったけど、また引っ込んでしまったね。
「ダメだったの。戻ってきちゃうの」
わたしもジョーちゃんみたいに出してみようとしたけど、どこにあるかわからないし、出し方もわからなかったよ。
「みぃー」『管理権は持っていても悪影響はにゃいから問題はにゃいってアドバイスさんが言ってるの』
『そっかー。だったらこのままでもいいのかな?』
「えいっなのー」
今度はジョーちゃんの額から金色の光の玉が2個浮かびあがってきて、また引っ込んだよ。
「なんだか2個にふえちゃったの。失敗したの」
「みぃー」『変にゃことにゃってるから、そのままにしておいた方がいいそうにゃの』
「メグちゃんに言われたらしかたないの。この場はひきさがっておくの」
『わたしの髪が金髪になっていたのも、あの光の玉のせいだったのかな?』
「みぃー」『たぶん、そうにゃの』
『だったら異世界に入った時に取り憑かれていたってことかー。宿敵たちのおそろしい陰謀の気配を感じるよ』
「おそろしい陰謀なのー」
「みぃー」『ジョーちゃん、おそろしい陰謀にゃんてにゃいの。美紀ちゃんの気のせいにゃの』
「メグちゃん、宿敵をあなどったらダメなの。あいつらには油断大敵なのー」
「みぃー」『困ったの。ジョーちゃんの洗脳が進んでいるの』
『イーちゃんはお出かけ中?』
「イーちゃん、また副触手に呼ばれたのー』
『またお仕事かー』
「みぃー」『今日は戻ってこれにゃいみたいにゃの。「お昼ご飯と晩ご飯とおやつは明日の朝に食べるのです。しまっておいてほしいのです」って連絡があったの』
『お土産、明日の方がいいかな?』
「お土産、クリームニョロリンなの?」
『そうだよ。もらいものだけどね。クロクリームニョロリンだよ』
「クロなのー。クロクリームニョロリンなのー。やったのー」
『エリエル殿下にもらったんだよ。エルフのちびっこ王女の。1500箱もくれたんだ』
「すごいのー」
『いつも侍女や騎士たちといっしょにおやつを食べるから、たくさん貯めてたんだって』
「みぃー」『美紀ちゃん、腹が減っては戦ができぬということわざがあるの。食べられる時に食べておかにゃいとダメだと思うの』
「イーちゃんの分は残しておくの。今はちょっと味見するだけなの。あとでいっしょに食べるの」
『食べきれないくらいあるから、普通に食べても大丈夫だよ』
◇
『これがクロクリームニョロリンかー』
「かわいい形なの。おいしそうなの」
「みぃー」『副触手に似てるの。イーちゃんがにゃにか言いそうにゃの』
『本当だねー。これ食べるのスプーンでいい?』
「美紀ちゃん、これは手で持ってそのまま食べられるのー」
ジョーちゃんの鋭い視線は、リビングテーブル上のクロクリームニョロリンをとらえて微動だにしないよ。ロックオン状態だ。口が半開きでヨダレがちょっと垂れているけどね。
『じゃあ、そのままでいいね。いただきます』
「いただきますなのー」
「みぃー」『いただきますにゃのー』
「おいしいのー」
『おいしいねー』
「みぃー」『舌をつつみこむようなやわらかな甘さと口溶けのなかに、後味のスッキリした酸味のきいた柑きつ系の香りにゃの。この生地に混ぜこまれている小さな粒はにゃにかのにゃっつにゃの。これはにゃの! にゃっつをはにゃで燻製してるの。よいお仕事にゃの。パティシエを呼ぶの』
「みぃー」『中のクリームは、フレッシュでジューシーでフルーティーでまろやかにゃの。それでいてエレガントでなめらかで重厚感のある絶妙にゃ味わいにゃの』
「みぃー」『にゃんだとにゃの。クリームのまんにゃかにプリンを仕掛けていたというのかにゃの。ペロリだぜにゃの。秋の恵みを凝縮した果実プリンの味に、春の野をかけぬける一陣の風のようなふくいくとした香りだぜにゃの。まさかこれは幻のあれにゃのかにゃの! この夕闇にかがやく一番星のようなきらめく味には脱帽だぜにゃの。シェフを呼ぶの』
メグちゃんが、またみぃみぃ独り言を言ってるよ。パティシエもシェフも、呼ばないからね。
『紅茶に合うお菓子だねー』
「もぐもぐなのー」
『緑茶もいいかもねー』
「もぐもぐなのー」
ジョーちゃんのほっぺたがハムスターみたいになってるね。
『たくさんあるから、ゆっくり食べたらいいよ』
「もぐもぐなのー」
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