104 ちびっこ王女のおウチ
わたしはエリエル殿下のおウチにきてるよ。エリエル殿下に招待されたんだ。エリエル殿下のおウチは、大きな木がある中庭をロ形の建物が囲んでいるこじんまりとした城館だった。
200年前に異空間に引っ越した時に、元の惑星にあった離宮を新しい住まいにすることにしたんだって。もっと大きな本宮殿なんかはマジックバッグに保管中だそうな。びっくりだね。
わたしは中庭の大きなガゼボに案内されて、女王陛下に今日の報告に行ったエリエル殿下を待っているところだよ。
そんなわたしの目の前には変な文字が浮かんでいた。
[奉納舞システムを起動するのクロ?]
[はいなのクロ][いいえなのクロ]
こっちの世界にも奉納舞システムはあるのかなって考えたら、ポムん♪というちょっと間抜けな音がして、この表示があらわれたんだ。
こういう表示はダンジョンのモノリスやスマホで慣れてるけど、こういうのはメグちゃんに聞いた方が良さげだね。
『メグちゃんにもジョーちゃんにも伝話がつながらないね。ダンジョンに遊びに行ってるのかも。女王陛下のことがあるから、奉納舞システムを起動できるなら、起動しちゃいたいんだけど』
わたしのシックスセンスが「大丈夫だよ、はいにしちゃったらどうだい。いっちゃえ、いっちゃえ」ってささやいているから、[はいなのクロ]を選んでみたよ。
表示が変わったね。今度は長めの表示だ。なになに。
[警告なのクロ。むかしむかしのことなのクロ。奉納舞システムを無制限で動かしていたら人口が増えすぎたのクロ。食料不足が起こったのクロ。大変なことになったのクロ。動かす時は限定起動にしておくのクロ]
[奉納舞システムの起動状態を選ぶのクロ]
[限定起動なのクロ][通常起動じゃないのクロ]
どっちを選んでも同じ気がするけど、ここはあえて[通常起動じゃないのクロ]を選んでみるよ。
[奉納先のデフォルトは、クローエイミリル様になってるのクロ。変更するのクロ?]
[はいなのクロ][いいえなのクロ]
『クローエイミリル様かー。イーちゃんが副触手の本体だって言ってた恒星生命体だね』
わたしのシックスセンスが「はいを選んだら、とっても大変なことになるぜ。止めておいた方がいいぜ」って言ってるよ。[はいなのクロ]を見ると、なんとなく背中がゾワゾワするから、ここは[いいえなのクロ]だ。
[奉納舞システムを起動したのクロ。通常起動じゃない1年間だけの起動なのクロ。世界が拡がったから、ちょうど良かったのクロ。またのご利用をお待ちしてるのクロ]
ポムん♪というちょっと間抜けな音がして、表示が消えたよ。
『これで奉納舞システムが使えるようになったのかな?』
病気治癒舞ができるようになったか試してみるよ。病気治癒舞の踊り方を[聖女じょードラゴン]のおまけアニメ動画で復習しないとね。
◇
「たなかしゃん、おまたせしたのじゃー」
エリエル殿下の声にわたしが振り向くと、エリエル殿下が元気よくトテトテとかけよってきていた。ツインテールに黒いドレスだからか、ダンジョンの黒ウサギを思い出すね。黒ウサギたち元気にしてるかな。後ろからはエルフ侍女レイナさんが追いかけてきている。
ちょうど病気治癒舞を踊って祝詞を唱え終えたところだったわたしの身体が淡く緑色に光りだしたよ。ふむふむ。奉納舞システムは使えるみたいだ。
「たなかしゃん、ひかっているなのじゃー。かっこいいのじゃー」
『ふっふっふー。病気治癒舞というのをやってみたら、身体が光ったんですよ。エリエル殿下もやってみますか?』
「びょうきちゆまいかやー? レイナ、やってみてもいいかえ?」
エリエル殿下がレイナさんに聞いたよ。レイナさんはなにやら検討中だね。
「姫さま、わたしが先にやってみます。田中さま、やり方を教えていただけますか?」
『いいですよ。まずこの動画アニメの踊り方を見てもらった方がいいですね』
[聖女じょードラゴン]のおまけ動画アニメでは、アニメ絵の三頭身の先生 (わたし)が三角メガネをかけてザマスザマスと言いながら、踊り方を教えるんだよね。
「病気治癒舞の踊り方を教えるザマス。踊る前に注意点があるザマス。この奉納舞は魔力を使うザマス。小さな子供は両手に魔石を持って踊るザマス。そうすれば自分の魔力を使わないザマス」
「ザマスのひと、たなかしゃんのこえといっちょなのじゃー」
『ちょっと頼まれて、アニメの声を担当したんですよ』
「しゅごいのじゃー」
「しっかり踊ってお願いしないと惑星神イーリベスーリル様にはわからないザマス。さあ始めるザマス。みんな立つザマス」
『この惑星神イーリベスーリル様は地球の神さまだから、こっちではクローエイミリル様になりますね。最後に唱える祝詞では、クローエイミリル様に変えてください』
「わかったのじゃー」
エルフ侍女レイナさんが、両手の人差し指で自分のほっぺたをグニグニし始めたよ。ああいう美容法もあるみたいだね。
「最初は、しっかり右手を上にこうやって伸ばすザマス。右手の小指をピンと立ててをクルクルまわしながら、治したい人を左手の小指で指差すのザマス。そして、奉納舞システムアクセス11番病気治癒舞を舞います、と宣言するザマス。ちゃんと大きな声ではっきり言わないと神様に伝わらないザマス」
「次に右の足を前に出して丸を描くように後ろに動かすザマス。左の足も同じザマス。丸を描くように前から後ろに動かすザマス……」
◇
「クローエイミリル様、お願いたてまつります。この者の病いの回復を。癒やしの光」
レイナさんの祝詞に合わせて病気治癒舞が発動したよ。レイナさんの身体が淡い緑色に光っている。病気治癒舞の実験台になったわたしの身体はピカピカ緑色に光っているよ。
「たなかしゃん、ピカピカなのじゃー」
『かっこいいでしょうー。治療された人はこんな風にピカピカ光るんですよ』
「レイナ、わたしもおどってみるのじゃー」
「姫さま、動画を見ながら踊った方が踊りやすいですよ」
最初はたどたどしい感じだったエリエル殿下の病気治癒舞も3度目で成功。わたしの身体がまたピカピカ光っているよ。
「たなかしゃん、ちょっとまっててほしいのじゃ。びょうきちゆまいをおかあしゃまにためしてきたいのじゃ」
『待ってますね。それと言い忘れてましたが病気治癒舞が使えるのは今日から1年の間だけみたいです』
「わかったのじゃー。すぐにもどってくるのじゃーー」
エリエル殿下はトテトテと元気にかけだしていったよ。やっぱりあの元気さも黒ウサギに似てるね。
病気治癒舞で女王陛下が治ってくれたらいいね。
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