第52話【「最高の自分」をプロデュース】
第52話【「最高の自分」をプロデュース】
退院から1か月。
小湊家の屋敷では、異様な光景が繰り広げられていた。
「美しすぎるのが問題なのよ!」
鏡の前で、私は自分の長い黒髪を掴んで忌々し気に叫んだ。
かつては誇りだったロングヘア。
「これじゃ、あのヘタレ(冬太)が気後れして、まともに会話もできないじゃない」
私が、マサオだった頃の記憶。
近くにいる時の体温。
マサオの暴言、傍若無人な振る舞いに困り果てながらも。
ずっと傍にいてくれた。あの優しい笑顔で。
「よし、決めたわ」
バサッ。長い黒髪が床に落ちる。
鏡の中に現れたのは。
凛々しくも、どこか少年のようにも見えるショートボブの私。
「フンッ。これで威圧感も控えめ、話しやすさ最大化ね」
髪を切った後も「再会準備」は続く。
私には致命的な問題。
―—ペンギンの癖が残っていた。
ペタペタペタ
「お嬢様、またガニ股になっています」
「気づいていたわ!」
ヨタヨタ
「お嬢様、もっと膝をお使いください。左右に揺れないように」
「分かってるわよ!」
気持ちだけが焦る。
「ぜぇ・・・はぁ・・・足の構造が急に変わったんだから仕方ないじゃない!」
屋敷の廊下で、頭の上に厚い本を載せて歩く練習をしていた。
体力も、もっとつけないと。
「1年の癖を直すのは一苦労だわ」
冬太と一緒に床下の秘密基地でヒヨコ達と共に過ごした。
あの生産性のない無意味な時間が愛おしくてたまらない。
私は窓の外、冬太がいるはずの学校の方角を見た。
「待ってなさい。 私を失った悲しみなんて、一瞬で上書きしてやる」
あの日、“ペンギンの私”で出会わなければ。
隣のクラスの弱そうな男子生徒としか思わなかっただろう。
「他の女性、いいえ、人間含めた動物に目移りできないくらい」
「振り回してやる!」
私は、リュックサックに付けるペンギンのキーホルダーをギュッと握りしめた。




