第53話【今、この瞬間を】
第53話【今、この瞬間を】
そして現在。
昼休み。
執事の長谷川さんが料理を運んできた。
「お前の分もあるから」
「え」
「おい、ちゃんと食え」
「いやいや、貰えないよ」
「私の料理が食べられねぇのかよ」
「作ってないよね」
「うるせぇ!」
「神奈月様、お嬢様が自ら栄養バランスを考えてシェフに伝えておりました」
「よろしければ、召し上がってあげてください」
ドーム型の蓋が開かれると、お弁当箱になっていた。
胸をなでおろす。
教室中に何かの香りが広がらなくて良かった。
安堵するとお腹が空いてきた。
窓際で日向ぼっこしていた、ニワトリ2号3号が固まった。
「おい、子分どもを見ろ。 鶏胸肉のソテーを見て震えてるぞ」
「・・・トラウマを植え付けないで」
「フンッ。 弱肉強食だ」
「美味しい」
「そうだろ」
「晴夏は男性みたいで話しやすいね」
「はあ!?」
ギロッと睨まれる。
「褒めたんだけど」
晴夏がガタッと席から立ち上がる。
反射的に僕も立っていた。
晴夏は優雅に弧を描きながら。
マサオの威嚇ポーズを取った。
数秒、静止。
滑らかに、右手でビンタの構えに移行。
こちらも防御の構えをとる。
静止のうえ沈黙。
晴夏は左手で扇子を開き、顔を隠す。
「腕を出しなさい」
「痛っ!?」
つねられた。
扇子から少し顔を出す。
「レディーに男性と言うお前が悪い」
「・・・確かに」
「ごめんなさい」
「フッ。お前のそういうところは・・・」
言いかけて止まる。
再び扇子で顔を隠した。
その瞬間。
爽やかな色のない風が吹いた。
晴夏の耳にノンホールピアスが煌めく。
左右の耳には、あの夕暮れで見た景色。
青紫と赤紫の星の形。
「そのピアス、似合ってるね」
晴夏がピタッと固まる。
ギギギと音が鳴りそうな動きで、こちらを向いた。
「・・・殴られたいの?」
「褒めたんだけど!?」
長谷川さんは微笑んでいた。
廊下を歩く岬さんが「なんか懐かしい感じがする」と晴夏を見ながら通り過ぎる。
心の温度が上がる。
今、この瞬間を大事に生きようと思った。
—END—
最後まで、ご覧いただき、ありがとうございました。




