第43話【氷の鏡】
第43話【氷の鏡】
豪邸の一室。
大嫌いな父親は海外にいるので悠々自適のはずだった。
「はぁ。 つまらないわね」
私は毎日、退屈していた。
傍には、執事のじいと、侍女の2人が控えていた。
黒髪ロングの切れ長の目。ハスキーボイス。
人を見下したような極寒の冷たい威圧感を放つ。
父親を嫌うようになったのは理由があった。
海外で屋敷にいない父親。母親は私に興味がなかった。
だけど傍にいる肉親が母親しかいないので、いつも近くにいた。
近くにいることは許されていた。
一度、目の前で泣きそうになったことがある。
母親が嫌そうな顔をしていた。
私は泣いてはいけない、甘えてはいけない、と思った。
弱いと、傍にいることも拒絶される気がした。
―—強くあらねばならない。
幼少期、私は目を覚ますと屋敷中で母親を探す。
あちらから私に会いに来ることは無かった。
「お母さま」
「・・・」
いつも、ぼんやりして目の生気がなかった。
居心地はあまり良くない。
それでも近くに居続けたら愛される気がした
定期的に父親から贈り物が届いていた。
私は「要らない」と言った。物なんて欲しくなかった。
私が6歳の頃。
ある日を境目に、母親の姿が見えなくなった。
「じい、お母さまは?」
「・・・遠くに行かれました」
私はこの言葉の重みを知っていた。
大人が子供に言うものだ。
(死んだときの比喩表現だわ)
(子供の私を甘く見ているわね)
執事の言い辛そうな様子を見て、それ以上は聞かなかった。
「ふぅん」
私は数か月前から母親の様子がおかしかったこと。
頭の中で思い出していた。
母親がいなくなったのは、私の責任ではないはずだ。
執事のじいや侍女は優しかった。
だが肉親にさえ甘えられないのに、他人に頼れるわけがなかった。
―—強くあらねばならない。
「なるほど、ね」
元々好きではなかった父親が、その一件以来、大嫌いになった。
だから、父に勧められた私立を蹴り、公立高校に入学するのは
私にとって当然の選択だった。
しかし。
中学校の時と同様に、周りの同級生は私に全く近寄らなかった。
「学校でも、私に釣り合うような人間はいないのよ」
強がる私に、誰も突っ込めない。
友達など今までまともにいないのに。




