第42話【隣にいる】
第42話【隣にいる】
晴夏の机の上には、おもちゃらしき物しか無かった。
「・・・小湊さん」
「晴夏だ」
「小湊さん」
「名前で呼べよ!」
教室内がシーンと静かになった。
晴夏はわざとらしい咳払いをして、扇子を開きだす。
ジロリ、とこちらを見ている。
名前の呼び方は。
晴夏じゃないとダメみたいだった。
「・・・晴夏」
「何だよ」
「教科書はどうしたの?」
「忘れた」
「え」
「見せてくれ」
晴夏が教科書を覗き込む。
「あ、今ここら辺なのか」
「問題、分かるの?」
「教科書は一応、全部予習したからな」
「今から習うのに?」
「私は忙しいんだっ!」
「今の今までシャボン玉で遊んでたよね」
「うるっせぇな」
僕は、だんだんと落ち着いてきていた。
「・・・死にかけたんだぞ」急に、ぼそっと呟く
「時間は有限だ」さらに小声だった
「高校生活なんて、あっという間だろ」
晴夏のつぶやいた声の後半は殆ど聞こえなかった。
「私はな―—」
バンッ!
「授業中もめちゃめちゃ忙しいんだよ!」
両手を机に叩く。懐かしい仕草だ。
異なるのは、晴夏の手が痛そうなこと。
僕はマサオを大事な相棒のように思っていた。
だけど。
見慣れない女性は、やっぱり慣れない。
晴夏の声がハスキーボイス、髪が短い。
助かったかもしれない。
そして授業が始まった。
晴夏はなぜか僕と。
ニワトリ達をじっと見ていた。
忙しいとは何だったのか。
皆目、分からない。
人間の晴夏との高校生活が始まる。
あの時の白い光――隣にいた“あれ”は。
今度は、ちゃんと隣にいる。




