第38話【ペンギン銅像の前で】
第38話【ペンギン銅像の前で】
ベッドの上に人が横たわっていた。
機械音が、規則的に鳴る。
マサオは、ふらつきながら進む。
ベッドの前に立った。
「・・・よお」
小さく呟いた。
その瞬間、空気が変わった。
マサオの体が揺れる。
とっさに支える。
時間が、ゆっくりと流れる。
機械音が乱れる。
ピッ――ピッ――
「冬太」
名前を呼んだ。
「・・・っ」
喉が詰まる。
「ありがとな」
ヒレが、わずかに動いた。
僕の服を、掴もうとして空を切った。
力が抜ける。
「マサオ!!」
「行くな!」
「・・・生きろ」
かすれた声。
ほとんど声にならない。
それでも確かに、聞こえた。
――ピ――――
音が、伸びる。
止まる
静寂。
――マサオの死亡が告げられた。
目の前のことが受け止められない。
呆然としていた。
どんどん冷たくなるマサオを抱きしめたまま。
あんなに騒々しかった毎日が。
――終わった。
その後のことは、よく覚えていない。
ただ。
静かだった。
―――
数日後。
海の見える丘にいた。
風が強い。
等身大のペンギン銅像。
やたら偉そうだった。
生きてた時みたいに。
「・・・お前だな」
ふんぞり返った姿。
リアルだ。
泣き出しそうになる。
ストックの白い花を供える。
自然の中に違和感なほど。
ペンギン銅像は景色の中で浮いていた。
長谷川さんが差し出した箱の中に「手紙」があった。
震える手で開く。
――冬太へ
汚い字、短い文。
「冬太へ」
「俺がいなくなったら」
「俺のような最高の人間を見つけろ」
「そいつを捕まえろ」
「あと、ちゃんと飯食え」
「生きろ」
「相棒 マサオ」
涙が落ちた。
「ふざけるなよ」
その場に座り込む。
「お前の代わりなんて、いるわけないだろ」
頬を涙がつたう。
風の音だけが、響いていた。




