第22話【残り276日:キャッチ&リリース】
第22話【残り276日:キャッチ&リリース】
エメラルドグリーンの川のほとり。
マサオは麦わら帽子を被って仁王立ちしていた。
「いいか子分ども!ここは外界から遮断された特訓場だぁ!」
「ただの高級リゾート旅館だよね?」
「うるせぇ!文句を言うな!」
マサオの背後には、執事のコスプレをアルバイトでしている長谷川さん。
銀のトレイに「最高級の炭酸水」を載せて控えていた。
「慈愛とは、生命の循環を理解することだ!」
マサオは宣言した。
そして、川辺でイワナを狙い始めた。
「よし、子分1号。あいつを捕まえろ。そして逃がしてやれ」
「え、キャッチ&リリース?」
「そうだ!獲物をあえて見逃す心の余裕!これぞ強者の慈愛!」
僕は必死に冷たい川に入り、素手でイワナを追い回す。
ようやく捕まえた一匹を、マサオの目の前で放流した。
「逃がしたよ。これでいい?」
「そうだ!俺も捕まえる」
マサオが水面に入った瞬間。
大きなイワナにカプッとヒレを噛まれた。
「ギャァァァ!!なんて無礼な魚類だぁぁ!!お前は許さん!!」
マサオがキレて追い回した。
強者の慈愛とは一体何だったのか。
長谷川さんがそっと網で回収。
その日の夕食はイワナの塩焼きになった。
――
夜、旅館のテラス。
マサオと並んで星を見ていた。
ヒヨコたちは長谷川さん特製クッションの上で爆睡している。
「なぁ、マサオ」
「なんだ」
「あのカウントダウンの日にちと、慈愛を理解するのって関係あるの?」
「・・・」
「・・・」
「まぁな」
「すごい間があったね」
「・・・お前さ」
「なに」
「なんでもねぇ」
「なんだよ」
「星って綺麗だな」
「・・・そうだね」
マサオがプシュッと炭酸をあけて飲み始める。
「カーッ!」
仕事終わりにビールを呑む中年男性のように見えた。
こんなに綺麗な満天の星の下でも、いつもと変わらないその姿勢に。
僕は吹き出した。
――残り276日




