第7話 黒い思い
「リオネル様……今、少しだけお時間よろしいでしょうか」
数日、居城を開けていたリオネルはたまっていた仕事を片付けるために遅くまで執務室に籠もって仕事をしていた。そこにサラが、話があると現れたのだ。
「あぁ、話があると言っていたね」
「お仕事中に申し訳ありません」
「いや、サラとオベール卿が大分整理しておいてくれたから、ちょうど終わる所だったよ。それで、話っていうのは」
リオネルは嫌な予感がしていた。ここ数日のサラは、いつにも増してよそよそしい気がしていたからだ。
サラはリオネルの机の前に立ってリオネルの目を見て話し始めた。いつもはなかなか合わない目が少し潤んでいるような気がした。
「…………もっと、前に申し上げるべきでした…… 私、実はイーツにいた時に好きな方がいたのです……」
「知っている」
リオネルの返答にサラは驚いた顔をした。
「そんなことは、調べがついている。でも、その冒険者は亡くなってしまったんだろ?」
サラは首を横に振ったので、リオネルは血の気が引くのを感じた。
「最近、生きていた事が分かったんです。
……リオネル様、この婚約を白紙に戻していただけませんか?
支度金をお返しできなかったことは本当に申し訳なく思っています。ですので、初夏のリゾート地のオープンイベントを成功させたら、それで許してはくれないでしょうか」
サラは自分で受け取ってはいない支度金の事を気にしているらしい。しかし、リオネルにとっては好都合だった。
「……サラの気持ちは、分かったよ。
私も半ば無理矢理連れてきてしまったから、悪かったね。
オープンイベントが成功したら、君を見送る事を約束するよ」
勿論、嘘だ。サラを手放す気なんかなかった。
こう言っておけば、サラは益々事業に力を入れて働くだろう。オープンイベントには国王も来る事になっていた。その時に婚姻は許可されて、サラは逃げられなくなるのだ。
リオネルは、かつての自分にはなかった黒い想いが腹の中で渦巻いているのを感じた。
サラと出会うまで、こんな自分がいる事に気がつかなかった
でも、不思議と嫌な気分じゃない
サラは安堵の表情を浮かべて、リオネルに礼を言った。
「ありがとうございます。では、これで失礼させていただきます」
「あぁ、オベール卿に話があるからついでに呼んできてくれないか。隣の部屋にいる筈だから」
「承知いたしました」
サラは一礼して執務室を出ていった。
程なくしてオベール卿が部屋に入ってきた。
「お呼びでしょうか、リオネル様」
「サラに監視をつけろ。昼夜問わずだ。――卿の意見は受け付けないぞ」
オベール卿は怪訝そうな顔をしていたが、リオネルの深刻そうな表情を見て、言葉を飲み込んだ。
「承知いたしました……」
オベール卿はいつもと違う主の姿を心配しながら、執務室を出た。




