第2話「混乱」
第五章は、時間軸的に第三章の後半と重なります。第三章でガラたちが砂漠のお城、パラノ城の中で、ギーザ王との騒動が描かれました。第五章は、その騒動をもう一つ違った視点で描かれています。タイムリープ的な楽しみがあるかと思います。ええ、書いててめっちゃ楽しかったです。
「将軍閣下…例の軍隊が到着したとのことです…」
伝令の兵士は、額に汗を滲ませながらナヴァロ将軍にそう報告した。
ナヴァロ将軍は、それを聞いた瞬間、ピクッと目が動いた。
シイルはナヴァロ将軍に言った。
「例の軍隊だと?何のことだ?」
ナヴァロ将軍は、シイルの肩を掴み、少し強張った顔付きで言った。
「シイルよ…俺は、帝国の命令とは言え、あんな胸糞悪い連中と行動を共にするのは最大の屈辱だ。奴等に伯爵が倒されたことを即刻伝えよう…!」
シイルはナヴァロ将軍が何のことを言っているのかさっぱり分からなかった。それは、後ろにいたフリンも同じである。そして、エズィールは何やら不穏な気配を薄々と感じ取っていたのである。
その時、テントの外から甲高い女性の声がした。
「将軍ー!?将軍さまぁ〜!?ここにいるんだろう!?」
すると、テントの中にぞろぞろと数人の人間が入ってきたのである。テントの入り口の番をしていた兵士は慌てて彼らを制止しようとしたが、構わずに入ってきたようだ。
「何と無礼な…場を弁えろ!貴様ら!」
ナヴァロ将軍は声を荒げた。
目の前に現れたのは、奇抜な格好をしたダークエルフの魔女であった。髪型は銀髪で、アシンメトリーにサイドを刈り上げており、耳には大きなピアスをしている。体格は非常に豊満で、全身の至る所に禁忌の呪文や怪物の形のタトゥーを入れている。服装は、肌の露出が極端に多い黒と真紅のボンテージ風のドレスに身を包んでいる。
そして魔女は、鈍く赤い瞳をギラギラさせながらテントの中を見回している。
さらに彼女の右隣には、背丈の大きい黒いウェアパンサーの男、左隣には、謎の覆面に包まれた魔法使い風の男、そして、ウェアパンサーの男の肩には、小さなウェアモンキーの男が乗っかっていた。
「いやん、そんな怒らないでよ将軍様♡」
ダークエルフの魔女は、ニヤニヤしながらナヴァロ将軍に言った。
「なぜここに暗殺部隊のお前らがよこされたかは知らんが…残念だったな。たった今、伯爵が失脚したとの報告が入った。よって、今回の作戦は中止になった…」
ナヴァロ将軍がそう言うと、魔女は少し目をパチパチとさせて、横にいる者たちに話しかけた。
「マジで!みんな聞いたかい?あのじーさん倒されちまったってよ!ハハっ!凄いな!あんな奴倒すのがいるんだ!」
すると、ウェアパンサーの肩に乗っかっているウェアモンキーの男が言った。
「ウキキ!どうせデマだ!俺たちを早く帰しちまいたいだけなのさ!」
すると、ウェアパンサーの男が低い声で話し出した。
「ナヴァロ将軍よ、我々“コーン”の手に掛かればこんな国などあっという間に滅ぼすことが出来るぞ。何を逡巡している?」
ナヴァロ将軍は、呆気に取られた。
「しゅ、逡巡?お、お前たちさっきの話を聞いてなかったのか?そ、それに…我々の作戦は、サーバス軍への威嚇のみであったはず。いいか!余計なことはするなよ!」
ナヴァロ将軍は彼らに向けて語気を荒げて忠告した。
その時、エズィールが声を上げた。
「よろしいかな将軍、我々はハンネ皇后の命を受けてここへ参った。ランディー伯爵がいなくなった今、皇后がこの国の最高権力者である。そなたたちよ、わしは何者かは存ぜぬが、ここは大人しく引き上げてくれんかのう」
すると、魔女が鼻をくんくんさせて言った。
「やれやれ、どうもエルフ臭いなと思ったらあんただったのかい?」
そして、覆面の男が話し出した。
「何と!皇后はまだ生きていたのか!あのあばずれはとっくに処刑されたかと思ったぞ」
その言葉を聞いた瞬間、シイルは目にも止まらぬ速さで剣を抜き、覆面男の喉元に突き付けた。しかし、それと同じくらいのスピードで、ウェアパンサーの男は腕に付いている鉤爪かぎづめをシイルの喉元に突き付け、また同等のスピードで、フリンがウェアパンサーとその上にいるウェアモンキーの喉元に双剣を突き付けた。
まさに一瞬の出来事であった。
シイルは凄まじい形相で覆面男を睨み付けて言った。
「貴様、皇后陛下に向けて何と言った!」
その時、魔女が甲高い声で笑った。
「キャッハッハーッ!!いいねぇ!!何ならここでおっ始めたっていいよ!」
魔女はギラギラと目を輝かせながらパチパチと手を叩いた。
ナヴァロ将軍が声を荒げた。
「やめないか貴様ら!とんだ無礼者どもめ!大人しく引かなければ全軍で貴様らを潰しても構わんのだぞ?」
魔女は凄まじい迫力のナヴァロ将軍をニヤニヤと見つめながら言った。
「おお、怖い怖い…分かったよ。ここは引くとしよう。よし、お前ら行くよっ!」
魔女はくるっと振り向いて立ち去ろうとした。すると彼女の背中に向けてナヴァロ将軍が言った。
「貴様、いいか、何か騒動を起こしてみろ。ただじゃあおかないぞ…」
魔女はゆっくりと振り向き、にたーっと不気味な笑みを浮かべながら言った。
「キサマなんてよしてよ♡あたしゃシルヴィって可愛い名前があんだからさ、将軍様♡」
その名前を聞いた時、エズィールは何やら遠い過去の記憶が蘇ってきた。まだエルフの国トトが建国される前、一人の魔法使いのエルフの女性がいた。強欲な彼女は禁忌の魔法を使い、エルフたちをそそのかして国を乗っ取ろうとしたが、追放されたのであった。
「確か、あの時のダークエルフがシルヴィとかいう名前だったはず…だがしかし、まさかな…」
すると、フリンは何やらぶつぶつと言っているエズィールに言った。
「ん?どうしたんだエズィール」
「いや、何でもない…」
そして、“コーン”という名前の彼らは、テントから出て近くに繋いである真っ暗な馬に跨った。
するとウェアパンサーの男が言った。
「シルヴィ、まさか本当に帰るのか?」
「くっははは!フィル!何あんなやつのこと鵜呑みにしてんだい!そんな訳ないよっ!」
シルヴィはケタケタと笑った。
「そうだ、ジョナ、マンク、あのライオン野郎、さっきサーバス王国の城に伝令を送るとか言ってたろう?」
するとジョナという覆面男が言った。
「分かってるさシルヴィ、そんな伝令は届かなかった。そう言いたいんだろう?」
すると、マンクという小さなウェアモンキーの男が言った。
「既に使いを出したぜシルヴィ、きっと数分で追いつくはずだ!」
シルヴィはマンクの方を向いて言った。
「やるじゃないの!つまり、まだまだ作戦は続行中ってことさ!それに、あんたたち!あのランディーのじじいは何処に行っちまったか分からないが、わざわざ特命札を渡してまであたしたちに何を命令したか覚えてるかい?」
彼らはニヤリと笑った。
シルヴィは、両手を上げて叫んだ。
「混乱させろだ!!!」
その直後だった。野営地にいる兵士たちが何やら騒ぎ出した。頭を抱えて暴れ出す者や、笑いながら武器を振り回したりしだしたのである。しかもそれは野営地全体から聞こえてくるのであった。
フィルの肩に乗っているマンクは、懐から一つの瓶を取り出した。
「キキキ!だんだんと効いてきたぞ!この野営地中の樽に仕込んだからな!」
すると、フィルは叫んだ。
「よし、では俺は相手の軍にけしかけてくる!」
そう言うと彼は、馬を颯爽と飛ばした。
シルヴィが言った。
「じゃあジョナとあたしは、城に向かうとするかねぇ…」
そう言うと、シルヴィとジョナはサーバス王国のパラノ城目指して馬を飛ばした。
エズィールたちは、外が何やら騒がしいと思った。すると、ナヴァロ将軍が突然笑い出したのである。
「ガッハッハ!う…ん?何だ…何か…おかしいぞ…ゲハハ!!」
シイルはナヴァロ将軍の様子がおかしいと思い、肩に手を当てた。
「おい!ナヴァロ!大丈夫か?一体どうしたんだ!?」
ナヴァロ将軍は、笑いながら体をブルブルと震わせた。
「ハハハ!シイル!キヒヒヒ!!」
すると、ナヴァロ将軍は、立てかけてある大剣をおもむろに掴んだかと思うと、シイル目掛けて斬りかかってきた。
「危ない!」
フリンは咄嗟にシイルを抱えて床へ飛び込み、大剣の太刀筋を間一髪で躱したのである。
その時、大剣はテントの天井を突き破ってしまった。フリンはシイルを抱えてテントから飛び出した。
エズィールも一緒に飛び出し、辺りを見回した。すると、野営地中の兵士たちが騒がしく暴れ回っていたのである。お互いに斬りかかったり、発狂したりしている。血が吹き出し、笑い声が飛んだ。まさに混乱の極致であった。
「こ、これは…一体何があったんだ!?」
シイルがそう言った時、彼に気付いた兵士が剣を振り回して飛びかかってきた。
シュバッ!
フリンはすぐさまその兵士を斬り捨てた。
エズィールはドラゴンの姿になり、二人に言った。
「乗れ!」
エズィールは二人を乗せて野営地の上へと飛び上がった。
3人は、野営地全体が見渡せる程の高さに上がり、辺りをもう一度見渡してみた。
「な、何だこの光景は!?兵士たちが錯乱している!」
シイルはゾッとした。
「さっきのあいつらの仕業じゃないのか!?」
フリンは、辺りを見回した。
「既にあいつらはいないぞ!」
エズィールが鼻をクンクンさせながら言った。
「うむ…これはどうやら薬を盛られたようだのう」
するとフリンもエズィールと同様に嗅覚を研ぎ澄ませた。
「確かに…何だか嫌な臭いだ!」
シイルは倒れている樽を指差した。
あそこ…エズィール!あそこに降りてくれ!
エズィールは二人を乗せて、樽が積まれている物資置き場に向かい、降り立った。
シイルはすぐに倒れている樽からこぼれ出している不思議な液体を取ってみた。
「これは…水に何か混じっているな…この臭いは…“アディドゥスの実”だ!」
フリンはシイルに言った。
「アディドゥスって、あの強力な麻薬のことか?」
「ああ、あの実を煎じて希釈させたのを麻薬として闇売買されたりするが、これはかなり濃度が高いな…」
【アディドゥスの実】
鮮やかな黄色の果実。生食すると強い興奮、幻覚、全身の麻痺などを引き起こす危険な毒果。果実を煎じて希釈した抽出液は強い陶酔作用を持つ麻薬となり、高い依存性から各地で厳しく規制されている。
(『南方植物誌』より)
エズィールが言った。
「あんな空高く上がっても臭ってくるんだからのう、どうやらこの野営地全ての樽や給水桶に混入させられてるようじゃの」
フリンが言った。
「まずいよ…これじゃあ撤退なんて出来ないよ」
すると、錯乱した兵士たちがフリンたちに気付いたようで、一斉に襲いかかってきたのである。
「シイル!フリン!ここは一旦離れるぞ!」
エズィールは、すぐさまドラゴンになり、二人を乗せて再び飛び上がった。
*
日が沈み、砂漠の王国サーバスの首都アイウォミにある絢爛豪華なパラノ城。城中の松明が灯り、城の窓からも灯が見えた。どうやら今夜も城の中では、宴が行われているようである。
アイウォミの城下町は、路地裏を入ると絢爛豪華な城とは打って変わって、みすぼらしい身なりの人々が徘徊する貧困街の顔が現れる。餓死者の亡骸にはハエが群がり、そのすぐ横では、骨と皮だけの母親から、出ない乳を吸う痩せ細った赤子がいる。商店のゴミを漁る老人や、泣き叫ぶ子供、それに対して見て見ぬフリをしてゴミを拾う男性。
サーバス王国の貧富の差は激しく、民は王の課す重税に悲鳴を上げていた。商店街では、店じまいをする店主たちがパラノ城の灯を見ながらため息混じりでぼやいている。
「ケッ!今夜も宴か…贅沢三昧の豚王め…」
「しーっ!…お前、声がデカいぞ!」
「やってられっかよ!ったく、俺たちは生きていくのがやっとだってのに…もうとうとう原料を仕入れるだけですっからかんだぜ!」
「だな…何でも今日は遥々クァン・トゥーから使者が来たらしいぜ…特別に大きな宴が開かれるだろうよ…」
「はぁ…クァン・トゥーでも何でもいいや、早くこの国の王を殺っちまってくれよ…」
「…そしたらお前も殺られるぞ?」
「…くそっ」
その時、どこからともなく馬の走る音がした。
黒い馬が2頭、それに二人の人間が乗っている様である。それは、物凄い勢いで商店街をすり抜けていった。
「なんだ?あの不気味な連中は…」
「魔女みたいな奴と、変な覆面を付けてたな…」
「王宮でサーカスでもやるのか?」
2頭の黒馬は、パラノ城に向けて駆けて行った。
城の門の前に着くと、二人はさっと馬を降りた。
「神聖ナナウィア帝国より参った。テイラー妃に面会されたし」
ジョナがそう言うと、門番は怪訝な顔つきになった。
「うん?使者が来るのは聞いているが、本当にお前らなのか?」
すると、シルヴィはニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「あら失礼しちゃうわね、こう見えてもアラヤ王の勅令特士なのよ♡」
そう言うとシルヴィは、帝国の紋章が描かれた札を見せた。
「うん?何だそれは?この国にはそんな札など通用せんぞ」
門番がしっしっと手を振りながら彼らを追い返そうとすると、シルヴィは両手を開き、掌を合わせ、何やらぶつぶつと唱え始めた。
「しゃらくさいわね、そんなんじゃあレディーに好かれないわよ〜…」
するとシルヴィの目が赤く光りだした。門番の男は彼女の目を見た瞬間、動きが止まった。
「さあ、あたしたちを中に入れるんだよ…特級のお客として迎えるんだ」
「…わ、わかった…これは特士殿…ようこそ我が城へ…」
門番の男は、虚な目をしながらふらふらと動き出し、城の門を開いた。
そして、城の中へ入ると、王宮の奥へと向かった。
「ここが、テイラー妃の後宮か」
「まったく…バカ広い王宮だわねっ!足が疲れるっての!」
シルヴィは、テイラー妃のドアを叩こうとした瞬間、ドアが開いた。すると、大きくゆったりとした椅子に腰掛けたテイラー妃の姿があった。傍には、美女が大きな扇でゆっくり彼女をあおいでいる。
「来たわね、ようやく…」
テイラー妃は、少し不機嫌そうな顔付きで二人に目線を注いだ。髪の毛は上で束ねられ、金の首輪と腕輪、指輪に耳飾りを身に付けている。
すると、テイラー妃は部屋にいる従者たちに声をかけた。
「皆の者、わらわはこの者たちと話があるの、外してちょうだい」
腰を曲げてうなずいた従者たちは、さっと席を外し、部屋の中はテイラー妃とシルヴィ、ジョナだけになった。
「では、王妃よ。始めるとしましょう…」
シルヴィが両手を広げると、テイラー妃は、少し困った様な顔をした。
「実は…少し予定外のことが起きたのよ…」
「?それは何です?」
テイラー妃は、二人の顔を順に見ながら言った。
「ついさっきのことよ、クァン・トゥー王国から使者が来たのよ…案の定、王様は急遽宴を開くと決めたわ。何でも特別に美しい妾を連れてきたとか…あの男!今日は珍しく宴のない夜だったのに…」
「すると…王は、突然の夜襲に対応出来んな…」
ジョナがそう言うと、テイラー妃は頷いた。
「困ったわね…そうなると突然の夜襲で王が殺されるというシナリオは難しくなるわ…」
シルヴィは、ニタリと笑った。
「では王妃、今殺してしまいましょう」
テイラー妃は驚いた。
「な、何ですって!?この王宮を血の海にするのはごめんよ!」
シルヴィは人差し指を王妃の目の前に立ててゆっくりと横に振った。
「チッチッチッ…だぁ〜いじょぶよ王妃様♡血は流しませんわ…この宴…かえって好都合よ…」
そう言うとシルヴィは胸元の谷間から小さな瓶を取り出した。その瓶には紫色に光る不思議な液体が入っていたのである。
「この毒はね、とってもステキな植物とあたしのとっておきの魔法で精製したの。一滴でも口にすれば、たちまちあっという間に地獄に真っ逆さまってわけ♡」
ジョナが言った。
「宴をしている馬鹿な王と、その取り巻きごと一掃できると言うわけだ。あとは、ゆっくりと新しい王座を準備すれば良い…」
テイラー妃は、少し驚いた表情をしたが、だんだんと笑い出した。
「ほ…ほっほっほ…これは愉快じゃ…これで、わらわの天下が目の前に…」
*
一方その頃…サーバス王国の南東に位置する不思議な三角錐の建物。そこは砂漠のドラゴン、アディームの神殿であり、古の勇者の墳墓でもある。
そこに一頭のペガサスが舞い降りた。
「ここか!勇者の墓ってのは…」
「ああ、カラスたちに案内してもらった。やはり彼らは頭が良い。ここが何なのか何となく理解してるらしいぜ」
それは、クァン・トゥー王国の勇者英雄隊、アントニーとフルシアンであった。
「エズィールによれば、ガラたちもペガサスに乗ってこの国まで来たそうだな。あともう一人ドラゴンがいるらしい」
彼らはガラがセレナと出会う前からクァン・トゥー王国の使者として神聖ナナウィア帝国へと向かっていた為、セレナやドロレス、ヴェダーと面識がなかった。
「だが、ここには誰もいないようだな…ペガサスもいない…中に入ってみるか?」
二人は神殿の中に入ってみた。中には広い空間が広がっており、壁面にはドラゴンと不思議な球体が描かれた絵が飾られていた。しかし、人の気配はまったくしなかったのである。
ふと、アントニーは、神殿の奥にある大きな扉に気が付いた。
「何だ?この扉は…」
押してみたが、開きそうになかった。どうやら鍵がかかっているようである。
「ダメだ。開かない…本当にここにドラゴンがいるのか?」
フルシアンは大声をあげてみた。
「おーい!アディーム!俺たちはエズィールに言われてここに来たんだ!いるなら返事をしてくれ!」
しかし、何の返事もなかった。その時、神殿の隅でささっと何かが通った。
フルシアンは、それを見つけると、さっと駆け寄ってそれを捕まえた。
「…っと!良いとこに来たなネズミくん。ここの主人のドラゴンは何処にいる?」
フルシアンは獣心眼を使いネズミに聞いてみることにした。
「…で、何て言ってる?」
アントニーが聞くと、フルシアンは答えた。
「やはり、今は留守だそうだ。何でも王宮に彼らが来たと…迎えに行ったらしい…」
「彼らとは?」
「ネズミは分からないそうだ…」
アントニーは頭をポリポリとかいた。
「仕方ない。その彼らってのはおそらくガラたちだろうぜ、だとしたらここにいるより、俺たちも城に向かうべきじゃないかな?」
そう言うと彼らは再びペガサスに乗り、城へと向かうのであった。
*
エズィールたちは、神聖ナナウィア帝国の野営地からサーバスの首都アイウォミへと向かっていた。
「何としても戦争を起こしてはならんぞ!もし起きてしまえば、おそらく魔物の出現は早まってしまう!そうなればこの苦労は水の泡だ!」
「エズィール!それならばアディームに会って、早いところ勇者の秘密を教えてもらった方が良いんじゃないか?」
「それは今、アントニーとフルシアンが会いに行っている。彼らが状況を伝えてくれれば、アディームもこちらに来るはずだ。ともかく、今はこの戦争を食い止める方が最優先だ!」
エズィールは、そう言うとさらにスピードを上げた。
サーバス王国の首都アイウォミ。その街の入り口付近には、サーバスの兵士たちの宿舎がある。停戦状態とはいえ、サーバス王国は隣国である神聖ナナウィア帝国の襲撃に備えて、常に兵力を温存していたのである。そして、門より少し離れたところに、小規模の野営地があった。今夜の作戦の為に、密かにテイラー妃が配置していたものであった。
そして、そこに一頭の黒馬が入ってきた。馬にはウェアパンサーの男と、さらにその肩には小さなウェアモンキーの男が乗っていた。フィルとマンクである。
彼らは、野営地に向かって突然大声を張り上げた。
「奇襲〜!!奇襲だぞ〜!!神聖ナナウィア帝国から奇襲が来たぞ〜!!皆の者迎え撃て〜!!」
すると、野営地がバタバタと騒ぎだった。
「な、何事だ!?」
野営地のテントから一人の兵士が飛び出してきた。
「奇襲だと!?今夜は威嚇のみの訓練と聞いているが!?」
その時、遠くの方からワーワーと人の掛け声と、無数の馬の足跡が聞こえてきたのである。
「なっ!ま、まさか…本当に夜襲なのか!?帝国の奴等め!何と卑怯な手を!!」
なんと野営地は、エズィールの恐れていたように、そのまま戦闘体制に入ってしまったのである。
読者の中には、ガラやセレナたちの冒険を楽しみにしていた方々がいらっしゃる(多分)かもしれません。彼らはそのうち出てきます。エズィールやフリン、アントニーらとガラたちが合流し、コーンなような悪い奴らにどう対抗するか見ものですね!次回お楽しみに!




