↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
交錯のクロスガイア  作者: 青島喜一
五章「水底の真影」
25/49

5.

 <イヴァン海中宮殿・地下5階>。


 荘厳そうごんな内装を誇る古代の遺産に、火炎や雷撃が乱れ飛ぶ。

 炸裂する閃光に照らされ、複数の人影が荒々しいステップを刻み、金属同士が激しくぶつかり合う音が残響する。


 階段を下ること、すでに四度。

 エリアの奥へ進むにつれ、戦闘はより過酷なものとなっていた。



(LFを思い出すなぁ……)



 地下宮殿の通路を埋め尽くす人型のモブを眺め、ゼフィラは魔法を撃つ体勢に入った。新調した水晶球は魔力の通りが良く、スキルの行使を早めてくれる。


 敵の前衛は鋼の大盾を構えたシャドウガードが三体、槍を持つシャドウナイトが二体。後衛は黒い表紙の魔本を携えたシャドウマジシャンが三体、錫杖をこちらへ向けたシャドウプリーストが二体。


 十対三という戦力差。しかし、ゼフィラ達は愚直に前へ突き進む。

 退くつもりがあるのならば、こんなところまで来てはいない。



「凍てつくがよい、<フローズンスフィア>!」



 極寒の冷気を宿した水晶球が敵の前衛――その下半身に衝突する。

 思考操作に従って自由自在に暴れまわる魔法が、モブの脚部を凍結させ、動きを止めた。


 即座にシャドウプリースト一体が回復魔法の準備に入るが、発動する前に首筋を射抜かれ、魔力が霧散する。


 回復の邪魔をしたのは、ゼフィラの隣に立つ、もう一人の少女だ。



「遅いですよ」



 銀髪の狩人が放った二本目の矢が頭部を貫通し、黒い僧侶は消失した。


 和弓という本来の得物を手にしたノイエの射撃は、精度・威力共に向上している。彼女自身も手応えを実感しているようだった。



(ノイエちゃんもすごいけど――)



 ゼフィラは水晶球を手元に帰還させながら、前方を見やる。

 宮殿の照明を引き裂いて、紺色のシルエットが視界を横切った。


 韋駄天走りで通路をジグザグに駆け回るシウスの表情は、鬼気迫るものがある。恐るべき俊敏さに、モブの魔法スキルが全く当たらない。


 炎熱の塊をくぐり抜け、黒い重戦士に接近すると青年は剣を掲げた。



「<パワーブレード>」



 感情のこもらぬ低い声で、ショートブレードが振り下ろされる。

 氷の魔法で動きを封じられた前衛五体は、大型トラックの追突を受けたかの如く一撃で吹き飛ばされ、通路の壁面に叩き付けられた。


 飛び散る白色のエフェクトを意にも介さず、青年は右手の剣を消すと、思考操作で大剣を呼び出した。神速の踏み込みが向かう先は敵の後衛だ。



「<タイタンスマッシュ>」



 ――スキルが発動した瞬間、2メートル級の両手剣は長大さを増した。


 瞬間的に巨大化した、担い手の三倍はある剣による横一線の薙ぎ払い。

 前衛の守りを失ったモブ四体には、その攻撃を防ぎようがなかった。


 風花のような淡い白光を漂わせ、人型の腰から上がごとりと床へ落ちる。

 断頭台を想起させる光景。しかし、剣士は何の興味も示さなかった。



「はぁ……」



 それどころか、今の戦闘に不満があると言わんばかりのため息だ。


 ゼフィラとしては、百点満点の戦いだった。

 数的不利をものともしない快勝なのだから、素直に喜ぶべきである。



「やれやれ……。軍師、そなたはどこまで戦狂いくさぐるいなのだ?」


「あ――えっと……」



 剣士は煮え切らない態度で口をつぐんだ。


 どう返答するべきか決めかねているらしく、目線は取得経験値を教える空間投影ディスプレイと占術師の間を交互に行き来している。



「この人は最初からこうですから、いさめても無駄でしょう」



 そんな仲間に、ノイエは青い瞳を伏せて首を横に振る。

 声は普段と変わりないが、顔は笑っていた。


 厳密には、シウスはLFの頃から戦闘にこだわっているのだが。



(四年前からこれだもの……シウス君って、全然変わらないよね)



 LF時代の暴れっぷりを回想し、たまらず吹き出してしまう。


 彼もおかしかったが、自分はもっとおかしかった。

 実年齢はほぼ同じなのに、これではまるで近所のお姉さんではないか。

 

 くすくすと笑う女性陣に対し、青年は「二人には敵わない」と照れ笑いを浮かべながら頭を掻いた。





 <ラビリンス・ファンタジア>は、名前の通り迷宮探索が特徴である。


 そのLF出身のトッププレイヤーを二人擁するゼフィラ達は、エリアのさらに地下深くへと、すいすい潜り続けた。


 シウスが<スケッチブック>を展開してマッピングを行い、ゼフィラが経験を生かして危険を察知すれば、ノイエがモブに奇襲を仕掛ける。


 互いの特性が上手く噛み合えば、探索も自然にはかどる。

 三人は驚異的なスピードで、地下7階まで辿り着いていた。



「――気を引き締めよ。この場は妙だ」



 黒衣の少女は強い口調で仲間に警戒を促す。

 階段を下った先は、今までとは明らかに異なる様相をしていた。


 宮殿のだだっ広い1フロアは豪華絢爛で、舞踏会でも開けそうな雰囲気である。中央には、色取り取りの宝石で装飾された姿見が設置されており、何らかのギミックが施されていそうだ。


 剣士は呆れ返って半眼になり、直立する大型の鏡を指差した。



「怪しすぎるだろ、あれ……」


「触れた瞬間、エリアボスが出て来そうですね。

 あるいは、鏡の中に引きずり込まれるとか」



 白衣の少女も、分かりやすいイベントシンボルに嘆息する。

 罠だと理解していても、攻略のためには引っ掛かるしかないのがつらいところだ。



「仕方あるまい……触れるぞ?」



 思考操作で武装を呼び出し、戦闘態勢を取ってから、ゼフィラは自分を映す大鏡に手を伸ばした。


 ――鏡の中からはまばゆい閃光が放たれる。



「案の定ってか?」


「むしろ、様式美ではありませんか?」



 光を腕でさえぎりながら、剣士と狩人はのんきに会話を楽しむ。

 しかし、その余裕も長くは続かなかった。


 背後に何者かの気配を感じ、シウスは大剣を手にして180度回転する。

 果たして、敵らしき黒っぽい人型が三体、こちらを窺っていた。



「……俺?」



 その一つはアバター・シウスに瓜二つである。

 配色こそ全体的に暗くなっているが、外見も装備も同じものだ。


 シウスだけではなく、残る二体はノイエとゼフィラの姿をしていた。

 ここまで来れば、イベントの内容には容易に見当が付く。


 おそらく運営は、プレイヤーを自分自身と戦わせるつもりなのだ。



「なるほど……ドッペルゲンガーですか。

 それなら、モブがプレイヤーを模していたのも納得です」


「うむ。問題は彼奴きゃつらの性能――」



 ゼフィラが言い終わる前に、シャドウシウスの姿がぶれた。

 偽者が放つ神速の突きが、輝く金髪を持つ少女の喉笛を食い破る――


 ――瞬間、鈍い音と同時に大剣と大剣が交差する。


 占術師と漆黒の剣士の間に割って入ったシウスが、刺突を的確に防御していた。

 紺色の剣士は絶対零度の視線で、己のドッペルゲンガーを射抜く。敵は人形のような能面だった。



「性能は互角みたいです。全力で破壊・・しましょう」


「――ぐ、んし?」



 ゼフィラは震える声で応じた。間一髪で死亡を免れたから――ではない。

 青年の言葉に、身の毛がよだつ響きを感じ取ったからである。



(何で、そんなに怖い声なの……?)



 強敵を前にして、緊張しているなどという様子ではなかった。

 今のシウスは異常に殺気立っている。考えてみれば、今朝もそうだ。


 あれほど必死に剣を振るう彼を見たのは初めてだった。

 先程、シウスは変わらないと思ったが、大間違いである。


 ――きっと、彼の中では何かが変わり始めている――



「……詮索せんさくは後です。今は戦闘に集中しなければ」



 小声での忠告に、はっと我に返る。

 ノイエは重籐弓に矢をつがえ、ゼフィラの隣にいた。


 銀髪の少女も、仲間の変化を察したのだろう。憂いを多分に帯びた目で剣士の背中を見つめている。


 直接的な付き合いは、彼女の方が長い。彼を心配して当然だった。


 気合を入れ直し、三体の敵に向かって水晶球を構える。青年は己の影とつばぜり合いを演じたままだ。



(君は、独りじゃないよ……)



 ノイエがいて、フリードがいて、頼りないかもしれないが自分もいる。

 隠していることや話せないことも山ほどある。それでも、仲間なのだ。


 この戦いが終わったら、けるのだろうか。

 とても強くて、ちょっぴり危なっかしい戦友が、胸に抱く想いを――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。