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交錯のクロスガイア  作者: 青島喜一
三章「雨雲の彼方」
13/49

4.

「前にも言ったが、高すぎる! 元はタダなんだぜ!?」



 テーブルを叩きながら悲鳴を上げたのは、赤毛の<鍛冶師>――フリードだ。

 そんな彼の様子に、対面側に座るチェインメイルを身に着けた<騎士>は、にやにやと意地悪くわらっていた。


 <鉱山都市ユーニスタ>の宿屋は、アウレリアのそれと違って、現実のホテルのようだった。

 歓談かんだんスペースも同様で、拠点ごとに街の景観けいかんが大きく異なるのかもしれない、と想像する。


 フリードの斜め後ろに立ち、シウスはちらりと周囲をうかがう。<騎士>と同じようなにやけ顔のプレイヤーが十人ばかり見て取れた。どれも事前の調査で確認されたアバターだ。



「この街と鉱山を最初に見つけたのは俺達だ。雨ん中、エリアを必死で探索して辿り着いたんだから、優先権があって当然だろ?」


「アルベルトさんの言う通りだ。こっちがお前らに遠慮してやる義理はねぇんだぜ? 口の利き方には気を付けろよ」



 はやし立てる男によれば、リーダー格の<騎士>はアルベルトというらしい。これも調査通りである。


 シウスは無法者の一味がひどく子供っぽく見えてしまい、あくびを噛み殺すのに苦労していた。

 こんな低能そうなやからに付き合うのは、今回で最後にしたいと本気で思う。



「シウス! 何とか言ってやってくれ!」


「ん……すまん、聞いてなかった」



 フリードへの返答に、爆笑の渦が巻き起こった。

 頼りない仲間を連れて来るしかなかったあわれな<鍛冶師>を馬鹿にしているのだ。


 しかし、二人は内心で、逆に彼らを嘲笑あざわらっていた。相手がこちらの思惑通りに油断してくれたのだ。利用しない手はない。



「よく分からんが、商談は決裂なんだろ。さっさと帰ろう」


「けど! こいつらの勝手にさせるわけには――」


「俺達だけじゃどうにもならないさ。他のプレイヤーを集めて出直そうぜ」



 そう言ってフリードの肩を叩き、宿屋を出るよう促す。浅く一礼する間に見えたアルベルトの表情は、明らかにこわばっていた。それは取り巻きも同様だ。



虚勢きょせいを張ってはいるが、小心者だな……だからこそ、こんな事件を起こしたのか)



 彼らもデスゲームに囚われているのだ。生きて現実に帰還するため、他のプレイヤーよりも優位に立ち、安全を確保したい――その想いはシウスにも共感できた。


 しかし、拠点とエリアを占拠し、人質まで取っているとなると、いささか度が過ぎている。

 罪の意識を微塵みじんも感じさせない態度といい、シウスはこの一味を心身共に叩き潰したい衝動に駆られた。



不味まずい……目的は人質の救出なんだ、落ち着け。戦いは手段に過ぎない)



 かつて、ノイエに偉そうに語った自分が、ここで暴走するわけにはいかない。自制しつつ、フリードを伴って宿屋を出る。


 アルベルト達は、見事なまでにばればれの尾行を始めていた。

 「足音くらい隠せ!」と注意しそうになって、一瞬慌ててしまう。



(あいつら、冗談でやってんのか?)



 正直、全く判別がつかなかった。

 横目でフリードを見ると、視線が合う。



「なあ、笑っていい?」


「奇遇だな。俺も同じことをこうとしてた」



 二人して、ぷっと小さく吹き出す。気の合う友人の存在が嬉しくて、赤毛のアバターの背中を軽く叩いた。


 <鉱山都市ユーニスタ>はアウレリアよりも近代的な街並みだった。


 <ライオネル鉱山>から産出される鉱石を魔法で加工している――という設定なのか、空に向かって高々とそびえる建築物はコンクリートのような物質で構成されており、光を宿さぬ街路灯は、なんとも現代風な意匠である。


 舗装された通路は灰色で、どこか無機質な印象を与える。

 運営が魔法技術と科学技術を折衷せっちゅうしたデザインを模索した結果、こうなったのかもしれない。


 そんなことを考えながら、シウス達はユーニスタの外へ出た。

 後方の集団は、PK禁止の拠点エリアに走って逃げ戻られる可能性を考慮してか、まだ手を出してこない。



「……転移されるとか、考えないのか?」


「そこまで頭が回らないんだろう」



 フリードのもっともな指摘に苦笑を返した。シウスが彼らの立場なら、獲物が<テレポート>で<央都アウレリア>に転移しない時点で罠を疑う。

 CGのサーバに閉じ込められ、追い詰められているのは分かるが、これでは流石に弁護の仕様がない。



「あー、もう無理。腹痛い」



 くつくつと笑い、鍛冶師の青年は背後を振り返る。

 気配を察知されたと思ったのか、アルベルトは焦った様子で二人を包囲するよう仲間に命じていた。



「さっさと来やがれ! お前らどんだけチキンなんだよ、むしろヒヨコか!?」


「あははははっ! 何だそりゃ!」



 フリードの挑発に、シウスは大声を上げて笑う。

 半分演技で半分本気だった。


 しばらく待つと、アルベルトとその仲間達に完全包囲された。


 馬鹿にしていた相手に、逆にあなどられるのはお気に召さなかったのだろう。怒りで顔が紅潮している。



(十六人か……まだまだ予備戦力を残してるな)



 シウスは、おびき出せた相手の数が想定より少ないことに、内心で舌打ちをする。


 三日前から開始した調査で確認された無法者は、全部で三十四人。見落としがなければ、十八人も足りないことになる。

 ユーニスタに近づくプレイヤーの発見、鉱山の占拠、人質の監視のために人手をいているにしても、予想外に少なかった。



「舐めた口利きやがって……ぶっ殺されてぇのか!?」


「お前メール見てないのかよ。復活の仕様は元通りなんだぜ?」



 激昂する<騎士>とは対照的に、フリードは努めて冷静な口調で語った。



「そういう問題じゃねぇよ!」


「いや、そういう問題だろ。アバターが死んでも意識が消滅しないってことは、証明されてるし」



 フリードは「何を言っているのやら」と肩をすくめる。


 8倍の人数に包囲され、絶体絶命の状況にもかかわらず、<鍛冶師>は余裕を崩さない。

 我慢できなくなったのか、アルベルトは思考操作で斧槍を呼び出すと、それを一振りして叫んだ。



「もういい! まとめてPKしちまえ!」


「最初からそうすりゃいいんだよ。――システムウィンドウ」



 小声で文句をれて、フリードは音声認識でメニュー画面を開いた。

 <テレポート>から<央都アウレリア>に触れると、その体が渦巻く光に包まれる。



「後は任せた」


「ああ、任された」



 友人と軽快なやり取りを交わし、赤毛の青年は姿を消した。

 残されたシウスは右手に呼び出したショートブレードを天にかかげ――



「どこからでもかかって来い。一人残らず潰してやるよ」


「な…………」



 ―― 一息で振り下ろすと、切っ先を絶句するアルベルトに向けた。


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