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第3話 初めての街

「見えてきたよ!」


 しばらく歩くと、リリアが前方を指さした。

 木々の向こうに、大きな石造りの壁が見える。

 その中央には、馬車が何台も通れそうな大きな門があった。


「おお……!」


 これが異世界の街か。

 ゲームや小説で何度も見てきた光景が、今は目の前に広がっている。


「ここがエルセリア王国の街、ミレアだよ」

「ミレア……」

「ほら、行こう」


 リリアについて門へ向かう。

 門の前には何人もの人が並び、鎧を着た兵士が出入りする人々を確認していた。

 やがて俺たちの番が来る。


「身分証を見せてくれ」

「はい」


 リリアは腰の袋から小さな金属板を取り出した。

 どうやら、冒険者証らしい。

 兵士はそれを確認すると、俺に視線を向けた。


「そちらは?」

「あ、俺は……」

「身分証は持っているか?」

「……持っていません」

「持っていない? 出身はどこだ?」


 まずい。

 異世界から来ました、なんて言えるわけがない。

 言ったとしても頭がおかしいやつと思われるだけだ。


「遠くの方から来たんですけど、途中でいろいろあって……」

「具体的には?」

「えっと……」


 言葉に詰まる。

 そもそも、この世界の地名すら知らないのだ。適当なことを言えば、かえって怪しまれるだろう。

 兵士は俺の服装を見て、眉をひそめた。


「見慣れない服だな。荷物もほとんど持っていないようだが」

「森で魔物に襲われていたところを見つけたんです」


 隣からリリアが口を挟んだ。


「私も詳しい事情は知りません。ただ、彼が嘘をついているようには見えませんでした」

「そうか……」


 兵士は少し考え込んだあと、俺に向き直った。


「よし。今回は仮の入街記録を作る。名前と、滞在中に身を寄せる場所を申告してくれ」

「名前は悠斗です。滞在する場所は……まだ決まっていません」

「ユウトか、宿を探すつもりか?」

「はい」

「なら、まずは宿を確保しろ。身元の確認が必要になった場合は、詰所に来てもらうことになる。街の規則は守れよ」

「あの、そんなことでいいのですか。」

「この世に身分が証明できないやつはたくさんいるからな。そういう者に対する対応は決められているからな。」


 兵士は記録用の紙に何かを書き込み、俺に確認させた。


「これで通っていい」

「ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。

 どうやら、ひとまず街には入れるようだ。

 異世界に来て早々、面倒なことになるところだった。


 街の中は、想像していた以上に賑やかだった。

 石畳の道の両側には店が並び、食べ物の匂いや人々の話し声があちこちから聞こえてくる。

 武器を背負った冒険者らしき人もいれば、荷物を積んだ馬車を引く商人もいる。


「すげぇ……」

「ふふっ。そんなに珍しい?」

「いや、まあ……」


 珍しいに決まっている。俺にとっては初めて見る異世界の街なのだから。

 あまりきょろきょろしていると田舎者だと思われそうなので、慌てて前を向いた。


「まずは冒険者ギルドに行こう。冒険者証があれば、身分証の代わりにもなるからね」

「なるほど。冒険者になれば便利なんだな」

「うん。でも、別に冒険者にならなくても街で暮らすことはできるよ。仕事を探すなら、ギルドに登録しておくと便利ってだけ」


 どうやら、冒険者になることは街で暮らすための絶対条件ではないらしい。

 俺は少し安心した。

 その途中、俺は店先に並んだ商品を見て、あることを思い出した。


「なあ、リリア。この世界のお金って、どんな種類があるんだ?」

「お金? 銅貨、銀貨、金貨が基本だよ。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚」

「なるほど……」


 俺は《万物売買》の画面を思い出した。

 購入するには、銅貨が一枚足りないと表示されていた。

 これが日本円でどのくらいかはわからないが、手に入れるのにそこまで苦労しなさそうだな。


「冒険者って、そんなに稼げるのか?」

「依頼によるかな。簡単な採取依頼なら報酬は少ないけど、危険な魔物の討伐なら高い報酬がもらえるよ」

「じゃあ、俺も冒険者になれば稼げるんだな!」

「うーん……。まずは、ちゃんと自分の身を守れるようにならないとね」


 ……ごもっともです。


「ここが冒険者ギルドだよ」


 リリアが立ち止まった先には、大きな建物があった。

 木製の看板には、剣と盾を組み合わせたような紋章が描かれている。

 扉を開けると、賑やかな声が一気に耳に入ってきた。

 壁には依頼書が貼られた掲示板があり、受付カウンターの前には冒険者たちが並んでいる。


「おお……!」


 まさに、想像していた冒険者ギルドだ。


「そんなに驚くこと?」

「いや、ちょっと感動してる」


 リリアは不思議そうに首を傾げた。

 俺たちは受付へ向かった。


「こんにちは。リリアさん、今日はどうされましたか?」

「こんにちは。この人、冒険者になりたいみたいなんですけど、登録できますか?」

「かしこまりました。新規登録ですね」


 受付の女性が紙とペンを差し出してきた。

 俺は名前を書く。

 ユウト。これでいいはずだ。

 待てよ、普通に会話できていたから思いつかなかったが、文字は同じなのだろうか。


 そのような俺の思いとは裏腹に、俺は見たこともない言語をスラスラと書く。


「ユウトさんですね。こちらの説明を確認していただけますか?」


 どういうことだ?もしかして他にもスキルがあったのか?

 後で確認しないとな。


 説明によると、冒険者は依頼を受けて報酬を得る仕事らしい。依頼には危険度に応じたランクがあり、実績を積むことで、より難しい依頼を受けられるようになるという。

 登録料がかからなくてよかった。


「内容は分かりました」

「では、こちらが冒険者証です」


 俺は金属製のカードを受け取った。

 そこには名前と、最低ランクであるFランクの文字が刻まれていた。


「これで悠斗さんも冒険者ですね」

「おお……!」


 ついに冒険者になれた。

 だが、喜んでばかりもいられない。お金を稼がなければ、《万物売買》は使えないのだ。


「まずは簡単な依頼から受けてみようか」


 リリアが掲示板を指さす。


「薬草採取なら、初めての人でも受けやすいよ。街の近くで採れるし、危険も少ないから」

「それにする!」

「ふふっ、やる気満々だね。私も一緒に行くよ」

「いいのか?」

「うん。私もちょうど依頼を探していたところだから」


 リリアは受付へ向かい、薬草採取の依頼書を差し出した。


「この依頼を二人で受けたいんですけど」

「かしこまりました。では、こちらが依頼の詳細になります」


 こうして、俺の異世界での初仕事が決まった。

 まずは銅貨を稼ぐ。

 そして、いつか《万物売買》の力を使いこなしてみせる。

 異世界での生活は、まだ始まったばかりだ。

 それと俺はあることに気がついた。


 この依頼で稼げないと俺生きていけなくね?

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