↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方といると、お茶が不味い  作者: わらびもち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/18

エリナ様の事情

「はい……そうなのです。私は幼少の頃、兄に虐げられていました。それを見かねた両親が私を隣国の親戚の元へと避難させたのです」

「まあ……そんな!」

「そのおかげで安心した生活ができましたが、今思えば、両親の対応は最善とは言えません。両親は私を避難させて終わりにするのではなく、自分より弱い者を平気で虐げるような兄の性根を直すべきだったのですよ。それを放置した結果、貴女を蔑ろにして別の女性を優先させるような屑に成り果てた」


 私はこの時までクリスフォード様が変わってしまったのはスピナー公爵令嬢が原因だと思っていた。でもエリナ様の話を聞く限りだと、彼は元からそういった人間だったようだ。彼にとって、身分が下の私はどう扱ってもかまわない存在で、自分より立場が上のスピナー公爵令嬢は優遇するべき存在だったのだ。


「わたくしも貴女も、あの方のせいで人生が変わってしまったのね……。エリナ様は隣国の学園に入学する予定だったのでしょう? そちらはどうされるの?」


 難関試験にせっかく合格したというのに、当主になるため諦めなければならないのだろうか。

 だとしたら、彼女の努力が無駄になってしまう。


「ふふ、ご心配には及びません。父には入学を辞退しろと言われましたけど、それは絶対に拒否しました」


 そう言ってエリナ様は不敵に微笑んだ。

 彼女の聡明さと強かさを現したようなその笑みに不意にドキッとした。


「兄を更生させずに放置し続けた両親には、親として責任があります。なのでその責任をとってもらい、私が学園を卒業するまでは当主の座には就かせぬよう、父に誓約書を書いてもらいましたの」

「まあ……ふふ、それはよかったです。貴女の努力が無駄にされずにすんで、本当に」

「ええ、それともう一つ。これを承諾しないのなら、私は跡継ぎの座に就かないと約束させたことがありますの」

「あら? それは何ですの?」

「それは、ロバス家の爵位を伯爵位にまで引き下げることについて、陛下のご承認をいただくことです」


 爵位を引き下げる、という言葉に思わず息を呑んだ。

 自らの家を少しでも栄えさせようとする貴族ならいくらでもいる。だが、自ら爵位を下げたいと願う貴族など、今まで聞いたことがない。


「エリナ様、なぜ降爵を……?」

「それは……ロバス家を存続させるためです。公爵位のままでは家を維持することが出来ず、私の代で爵位を返上するやもしれません。そうならない為に必要な処置なのです」

「ロバス家を維持するため? それはどういうことです?」

「ええ、理由は二つあります。まず一つは当家とミスティ家の事業提携、こちらはミスティ家の方が資金も労働力も高い比重を占めておりますよね。兄とレオナ様の婚約はこの不公平な部分を補うものでした。……あんな男の妻になることで補えるとは到底思えませんけど。その婚約が破棄された今、本来でしたら爵位が上である当家が負担を増やすべきなのです」


 これは同じようなことを父から説明されている。 我が国の事業提携は本来であれば爵位が上の方が負担も大きいのが普通だと。 だが懐事情が我が家よりも寂しいロバス家に配慮したうえでの婚約だった。つくづく我が家にそこまで利益のない婚約だったなと改めて思う。ちなみに、婚約は破棄されたが事業提携はそのままだ。


「恥ずかしながら、当家には十分な資産がございません。なので、みっともないことではありますが、爵位を下げることで辻褄が合うかと。かなり強引な方法ではありますが……」

「はあ……なるほど」

「そしてもう一つの理由。私が王太子殿下の婚約者となる資格を放棄するためです」

「それは……ロバス家が伯爵位にまで下がれば、王太子殿下の婚約者になる資格が失われるから、ということですか?」


 私の発言にエリナ様は静かに頷いた。


「はい。私を王太子殿下の婚約者に担ぎ上げようとする、厄介な連中がいるのです。確かに資格はありますけど、そんなの無理です。当家は持参金すら払えないほど逼迫しているというのに……王家に嫁ぐなんて出来るわけがない。なのに、私を公爵令嬢という高位の身分だけを材料に無理矢理殿下の婚約者の座に捩じ込もうとするなぞ愚の骨頂。その行為が殿下の婚約者となる貴女とミスティ家に喧嘩を売るものだと理解しないような奴等の想い通りになぞ、なってたまるものですか……」


 きっぱりとそう言い切る彼女は実に頼もしかった。

 周囲の甘言に流されることなく、家の繁栄のために必要な決断を下せる彼女は、若くして当主にふさわしい資質を備えている。顔は似ていても、器の大きさはクリスフォード様とは比べ物にならない。

 

「既にミスティ侯爵令嬢は王太子殿下の婚約者に内定されていると聞いております。そんなお二人を引き裂くなんて、まるで『悪役令嬢』のようではないですか」

「『悪役令嬢』……? それは何かしら?」

「ああ、これは隣国で流行っていた恋愛物語の本に出てきた言葉なんです。愛し合う二人を引き裂く悪役の令嬢のことをそう呼んでおりました」

「まあ、そうなのですね? 『悪役』に『令嬢』がつくなんて斬新だわ」


 そのエリナ様の言葉に、ふとスピナー公爵令嬢を思い出した。

 私とクリスフォード様の婚約や、他にも数多の婚約を引き裂いた彼女はまさにそう言えるのではないだろうか。別に愛し合ってはいなかったけど。


「『悪役令嬢』か……。まるでスピナー公爵令嬢のことみたいだわ」

「ふむ。ですが彼女はどちらかといえば、ただ恥知らずで男好きなだけかと。『悪役令嬢』はプライドは高いけど、立派な淑女ですから」

「へえ、そうなのですか? 一度その本を読んでみたいですね」

「私が見立てたものでよろしければいくつか贈らせていただきます」

「まあ、是非お願いします」


 どんな人なのかと神経を尖らせていた自分が馬鹿みたいに思えるほど、エリナ様は器の大きい才女だった。そしてとりとめのない会話を楽しめるほど、気が合う。


 帰り際に彼女は一際深く頭を下げ、ロバス家のミスティ家に対する態度を詫びた。


「ミスティ家にはご負担ばかりかけて申し訳ございません。事業の資金も結局はそちら頼みのまま。当家からは僅かばかりの慰謝料しか支払えず、本当に不甲斐ない……」

「いえ、それはもうお気になさらないでください。公爵夫妻からも貴女からも謝罪はして頂きましたし、爵位を下げてくださるということでわたくしも婚約者の座を奪われる心配が無くなりましたもの。これ以上は、当家もわたくしも望みませんわ」

「何とお礼を申し上げてよいのか……本当にありがとうございます」


 真っ直ぐにこちらを見て話す彼女を好ましいと感じた。

 クリスフォード様との婚約は時間の無駄だったが、こうして彼女と知り合えたことはよかったと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。