婚約者に相応しい身分の令嬢は
アルフォンス様から婚約の申し出を受けたこと、そしてそれを承諾したことを両親に告げると、父は複雑そうな顔を見せ、母は満面の笑みを浮かべた。
「ううむ……。レオナが幸せになることは嬉しいが、二代続けて我が家から王妃を輩出というのは……反感を買いそうだな……」
「あら、旦那様。何弱気なことをおっしゃっているの? 国内にいる令嬢の中でスピナー公爵令嬢に次ぐ身分を持つのはレオナだけです。それに大分遠回りになりましたけど、好き合う二人が夫婦になるというのは喜ばしいことですわ!」
「それはそうだが……。いや、まだ一人いるだろう? 公爵家の令嬢が……」
「それはロバス公爵家の令嬢のことですか? 彼女は家を継ぎ、女公爵となる身ですのよ?」
「ふむ……それもそうだな。だが、一応は気にかけておいた方がいい」
「旦那様……それは、ロバス公爵令嬢が王太子殿下の婚約者として名乗り出るかもしれないということですか?」
「その可能性はゼロではない。当家が二代に渡って王妃を輩出することを良しとしない者が、家柄だけは上のロバス公爵令嬢を殿下の婚約者として推してくるやもしれん」
「まあ……ですが、そうなるとロバス家の跡継ぎの座が空席になります。直系はもう彼女しかおりませんのよ?」
「それこそ親戚の誰かがその座に就けばいい話だ。だが王太子殿下の婚約者となるとそうはいかん。我が国の法では王妃となれる資格を有するのは侯爵家以上の令嬢のみ。スピナー公爵令嬢が失脚した今、その資格があるのはレオナとロバス公爵令嬢だけだ。レオナ、ロバス家の動向には十分注意するんだぞ? 殿下がお前以外を望むとは思えんが……愛だけでは貴族の婚姻は成り立たんのだからな」
「もう、旦那様ったら……。せっかくレオナと殿下の積年の想いが実ったというのに、水を差すようなことを言わないでくださいまし!」
「う、すまない……。つい心配で……あ、分かった、悪かったから、扇で叩くのは止めてくれ!」
怒った母が手にある扇で父を叩いた。先ほどの父の発言は私の喜びに水を差すものだが、その内容は一理ある。隣国から帰国したロバス公爵令嬢……クリスフォード様の妹君が、王太子殿下の婚約者の座を望めば、それが叶う可能性はゼロではない。
叔母様に続いて私が王妃になることを、面白くないと思う者は当然いる。そういった人達がロバス公爵令嬢を王太子殿下の婚約者として推せば、私の立場が脅かされるかもしれない。
唐突に湧いた不安は私の心に瞬く間に広まっていった。
やっと想いが通じ合ったあの人が、奪われるかもしれないという不安。
だけど、それと同時にもう誰にもあの人を渡すものかという闘争心が湧いてくる。
「わたくし、一度ロバス公爵令嬢と会って話をしてみます」
私がそう決意を告げると父は驚いた顔を見せ、母は満足そうに頷いた。
「レ、レオナ……。なにもお前を蔑ろにしたクリスフォードの妹に会わなくとも……」
「先ほど散々娘の不安を煽るような台詞を吐いておきながら何をおっしゃっているんですか。レオナ、よくぞ言いました。その攻めの姿勢、実に素晴らしいわ……! それでこそ、国母にふさわしき淑女というものよ!」
アルフォンス様の婚約者の座を守るためには行動を起こさねば。
ただ不安に苛まれるだけの日々を送ることは、もう御免なのだから。




