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魔法が使えない令嬢ですが、私の描いた魔法陣を最高峰魔法師が発動してしまいました。ー最高峰魔法師×魔力0令嬢、ただし魔法理論最強。ー  作者: 稀葉
season1【全29話】魔法が使えない令嬢ですが、私の描いた魔法陣を最高峰魔法師が発動してしまいました。

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偽装だった婚約を、本物にしたいと思います。①

 目を覚ましたシフリーナは、枕から頭をあげることなく視線を巡らせた。

 ウーシェダの邸だ。

 夢を、見ているんだろうか。


 魔法陣を描いていた。描いても描いても正解にたどり着かない。

 

 どちらが夢だろうか。


「シフル? 起きたのか?」


 遠慮がちに掛かった声に顔を向けると、ベッドの横で椅子に座ったウーシェダがこちらを見下ろしていた。


 首輪はない。

 

 酷い夢だった。……──夢?


「シフル? 大丈夫か?」


「これ、夢ですか?」


 目を瞠ったウーシェダは、言い聞かせるように「夢じゃないから安心しろ」とシフリーナの頬を撫でた。

 掌の温かさが心地良くて、目を閉じたらそのまま眠ってしまいそうだ。

 けれど、確認をしなくてはいけない。とても大切なことだ。


「どこも、痛くないですか?」


「ああ」


「魔法も、大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。シフルのお陰で、もう全部、大丈夫だ」


「よかった……」


 どこも痛くなくてよかった。

 魔法が使えるなら、もう大丈夫だ。


 眠気に抗う必要のなくなったシフリーナは、再び瞼を閉じた。



 次に目を覚ました時には、窓の向こうは薄暗かった。

 橙色の淡い光が、柔らかに室内を照らしている。

 身を起こすと、体がひどく重い。

 ベッドの横に椅子が置かれているが、部屋の中には誰の姿もなかった。


「シェダ様?」


 先ほど居たはずのウーシェダをそっと呼んでみる。

 どくんと心臓が嫌な音を立てた。

 ベッドから降りてみると、足にうまく力が入らず、へたりと座り込んでしまう。


 その時。かちゃりと音がして、隣の書斎へと続くドアからウーシェダが顔を覗かせた。

 

「シフル? ──……っ! どうした!?」


 床に座り込むシフリーナを見てサッと顔色を変えたウーシェダが、足早に近づいてくる。

 長かった髪が短く切り揃えられている。

 そうか、あの時切られたんだった、と思うシフリーナの前に、ウーシェダが膝を突いた。


「大丈夫か?」


 シフリーナを抱き上げてベッドの上に下ろす。そうして額に手を当ててきて「まだ高そうだな」と呟いた。

 短くなった白銀の髪に手を伸ばす。サラサラの感触を確かめていると「シフル?」と心配そうな声で名を呼ばれる。

 

 夢じゃ、ない。


 ひとつ瞬いてから、まじまじとウーシェダを見たシフリーナは「部屋を、明るくしてもらえますか?」とお願いしてみた。


 淡い照明が心許なくてそう言うと、ウーシェダはすぐに魔法で照明を切り替えた。

 ああ、魔法だ。

 室内の明るさと、ウーシェダが魔法を使えたという事実に、シフリーナは安堵の息を吐く。その息の熱さを感じて、自身が熱を出しているのだと理解する。


「スープくらいなら飲めそうか? とりあえずマーサを呼んで……」


 ベッドから離れて行きかけたウーシェダの服を、咄嗟に掴む。

 振り返ったウーシェダよりも驚いて、シフリーナはすぐに手を引っ込めた。


「いったん一緒に階下(した)に行くか」


 言うが早いか、ウーシェダは椅子の背もたれに掛けていたショールをシフリーナに着せかけてそのまま抱き上げた。


「あ、歩けます」


「熱でふらついているのに階段は危ない。マーサたちも心配しているから、いったん顔を見せに行こう」


 どうにか帰ってくることができたらしいということはわかったものの、シフリーナは今ひとつ事態が飲み込めない。


「あの……あの後、どうなったんでしたっけ?」


 自分がどの程度覚えているのかもよくわからず、抱かれて歩きながら尋ねてみる。

 

「まず、あれから二日経っている」


「二日……。あ、腕っ! シェダ様、刺されたのに……私歩けるので!」


「こら、暴れるな。腕なら治ってる。治癒魔法で、もうなんともない」


 べったりと血に濡れた光景が脳裏を過り、シフリーナの体がふるりと震えた。


「寒いか?」


「大丈夫です」


 食堂に行くと、マーサとダリアンがすぐに駆け寄ってきた。

 いつもの席に下ろされると、途端にお腹が鳴った。恥ずかしさのあまり俯くシフリーナの前に、ポタージュという名のミルク粥が供された。


「犯人は三人とも拘束されてる。今は魔法師の拘置所だ」


「どうやってここまで帰ってきたんですか?」


「魔法で塔に救援を求めた。塔の方でも捜索してくれていて、かなり近くまでは来ていたんだ」


「そうだったんですね」


 スプーンで掬い上げたミルク粥を舐めるように少しだけ口をつける。

 温かくて甘い。じんわりと体が温もっていく。


「詳細はまだ取り調べ中だが……まあ恐らく、近日中に俺とシフルに魔法塔から召集がかかる。当事者だからな」


「召集……」


「なんにせよ、体調が戻ってからだな」


「シェダ様、具合が悪いんですか?」


 慌てて尋ねると「君のだ」と笑われてしまった。


「シェダ様は、食事は済ませたんですか?」


「ああ、俺は済ませたんだが、見ていたら食いたくなった」


 すぐにウーシェダの前にも、シフリーナと同じミルク粥が運ばれてくる。

 一口食べて「懐かしいな」と呟く。


「懐かしい?」


「ファート家(うち)は熱を出すと大抵ミルク粥(これ)だった」


 ウーシェダが子どもの頃から食べていた味。

 そう思うと、先ほどよりもおいしく感じるのが不思議だった。


毎日7時頃・12時頃・21時頃更新!

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