第26話 全員ぶっ殺す
井上アカリは、床にぺったりと座ってその光景を見ていた。
なんだか知らないけど、すごく顔のいい女性が銀髪の女性にキスをしていた。
その様子を見て自分自身を指さしているサイドテールのこれもまた顔のいい女性。
いったい、なんだというのか。
ここはどこだろうか。
今はいつだろうか。
この人たちは何をしているんだろうか?
なんにもわからなかった。
と、そこで自分がスマホを首にかけていることに気づいた。
その画面を見る。
どうやら自分は配信中だったらしい。
〈お? 生きてる〉
〈こっちも生きてるな〉
〈二窓で見てたけど〉
〈結局お前も死なないのか〉
〈死にたかったんだろ、死ねよ〉
〈早く死んでくれ、風邪をひいちまう〉
〈あほかもう死なねーよ〉
〈ホウキ女たちが全部助けちゃったからな〉
コメントを見て、アカリは思い出した。
そうだ、死のうと思ったんだった。
それで、最後に注目を集めようと思って自殺配信をしたんだった。
自分の手を見る。
傷だらけだ。
でも、大きなケガはしていない。
パーカーとカーゴパンツを身に着けた顔のいい女が、ホウキを持って近づいてきた。
すごく整った顔の、大人っぽい女性だった。
ホウキ? なんでホウキ?
とにかくなにもかも意味がわからない。
ホウキ女が話しかけてくる。
「大丈夫?」
外見とはうらはらに、その声はどこか自信なさげだった。
アカリはコクンとうなずく。
女はほっと息をついて笑顔になった。
そして、
「えっと、あの、あのね……」
うん?
なんだかしどろもどろしている人だなあ。
ほんとうに、なにがどうなっているんだろう。
配信していたはずだけど、通路を普通に歩いているところまでしか覚えていない。
途中からプッツリと記憶がないのだ。
どうなったんだろう?
なんだか口の中や喉の奥が痛い。
「えーとね……」
あとこの人、オドオドしすぎ。
「あの、なにがどうなってるんですか?」
アカリが尋ねても、ホウキの人は挙動不審に、
「えっと、えへへ、あの……いやあ、JKとかJCってなんか怖くてさ、ごめんね……」
とか言っている。
そこに、もう一人のサイドテールの女が近づいてきた。
こちらの方は明るい性格が顔にまで出ている、華やかな雰囲気の女性。
アイドル配信者みたいな恰好をしている。
「よかった! あなたも無事みたいね。私、奏天寺澄見歌っていうの。この人は田中紅亜さん! 名前、教えてもらえるかな?」
「あの、井上アカリです」
「アカリちゃんね! セーラー服だし、高校生? 中学生?」
「高校一年生です……」
「立てる?」
「あ、はい……」
足に力を入れると、なんとか立てそうだった。
なにか言ったほうがいいのだろうか?
「えーと……」
そして言いよどむ。
ほんとは、死にたかったのだ。
自殺するはずだったのに、助けられてどんな言葉を発すればいいというのだろう?
そこに、澄見歌が明るい声で言う。
「よかったよかった! みんなであなたを助けに来たんだよ?」」
「助けに……?」
「うん、いろいろあったけどみんな無事でよかった! 今日は帰りましょ、ね?」
「でも、私は……」
死ぬつもりだったのだ。
いや、死ぬつもりなのだ、今でも。
きっと私はモンスターにでも襲われて、そこをこの人たちに助られたのだろう。
でも。
助けてくれてありがとう、なんて言葉は口に出せないし、一緒に帰ろうと言われてもあの浮気女――母親のいる家になんて帰りたくない。
「私……死にに来たんです。助けてなんて言ってないです。みなさんだけで帰ってください。私は一人でもっと潜ります」
それを聞いた途端、澄見歌の表情が変わった。
怒りの表情だった。
「あなた! 何を言ってるの!? シーコさんがわざわざ助けに来たのに――」
「そいつは自殺志願者なんだよ……ゲホッ、ゲホッ……ウチはそいつの母親に頼まれたけん、助けに来たんだ」
奥の方で横になっている、ギャルみたいな人が起き上がりながらそう言った。
「そうなんです。だから、私の邪魔をしないでください」
アカリの言葉に、怒りを露わにしたまま澄見歌が言う。
「家族に迷惑をかけて! シーコさんにも失礼だし!」
家族ってあの浮気女のこと?
シーコって誰よ。
アカリの頭の中ではいろいろな考えがグルグルする。
余計なお世話よ。
「あなたね!」
さらに何かを言おうとする澄見歌を、ホウキを持った女――紅亜が制した。
「待って。待ってあげて」
そしてアカリの方を向いて、でも視線は合わさずに、
「えっとね、あの……私も、死にたかったの」
「…………」
「でも、えっとね……あのね、……お酒を飲むと忘れるの」
「は?」
「推しの歌を聴きながらお酒を飲むと、その時だけは楽しいの!」
「は? は?」
「だから、お酒を飲める年齢まで、少し我慢しない? しない……よねえ?」
言い切りなさいよ、なんでそんなに自信なさげなの!
もう話にならない!
大人ってやつは、絶対に絶対に私の意見を尊重しない!
絶対に押し付けてくる!
私というものを絶対にバカにしてるんだ!
力づくでも死んでやる!
「私はもう行くわ」
「待って!」
「うるさい! もう死ぬんだからどうでもいいのよ! あんたら殺すわよ! 光機の剣!!」
アカリが叫ぶと、その両手に二本の青く光り輝く剣が出現した。
15歳といえど、地下五階まで一人で潜れる実力があるのだ。
そのレーティングは1746。
女子高生にしては、破格の高さと言えた。
全員ぶっ倒してもっと地下深くで死ぬんだ!
いや、ぶっ倒すんじゃない、ぶっ殺す!
私の意志を尊重しないやつらは全員、殺す殺す!
もしかしたら私より多少レーティングが高いやつらなのかもしれないけれど!
こいつらは私を助けにきたおせっかい女どもだ。
きっと手加減するだろう。
でもまさか私がレーティング1746もあるとは思っていないはず。
この私相手に手加減する余裕を見せたら、その隙に全員殺してやる!
まずはこのコミュ障ホウキ女からだ!
アカリは両手の剣を構えると、全力で振り下ろした。




