第22話 襲来、ファイヤードラゴン
真っ白な身体のユニコーンが、ダンジョンの中を駆けていく。
カッ、カッ、カッ、カッ。
地面を叩く蹄の音。
そしてユニコーンに跨るのは二人の女。
一人はサイドテールを黒と白のリボンで留めている、キュロット姿の女性。
奏天寺澄見歌である。
澄見歌の前にいるのは銀髪ボブのメガネの女、湯歌だ。
スキニーパンツにニットのセーターを着ていて、さらにはバケツを片手で抱えている。
さすがの紅亜もバケツを持ったままでは走れないので、紅亜から預かっているのだ。
さらにはその姿をトンボほどの大きさのドローンが追いかけてきている。
そのユニコーンを追いかけるようにして、紅亜は走っていた。
ホウキとチリトリを両手に持ち、
「フッ、フッ、ハッ、ハッ!」
小学生のときにならった二回息を吸って二回吐く呼吸法で、猛スピードで走るユニコーンに軽くついて行っている。
〈なんだこれ〉
〈すげー速さだ〉
〈時速80キロは出ているんじゃね?〉
澄見歌は配信を開始していた。
追い詰められているシーコに見せるためである。
あとどのくらいでたどり着くか、それがシーコに分かれば、なんとか耐え抜くだけのメンタルを保てるかもしれない、という理由だった。
――体育の授業はずっと苦手だったのに、なんでダンジョンの中だとこんなに速く走れるんだろう?
紅亜は自分でも不思議だ。
だけど、そんなことは今どうでもよかった。
一刻も早くシーコさんを助けなきゃ!
〈絶対人間の走る速度じゃない〉
〈この子すごすぎる〉
〈さすがあのミエスタを完封した女〉
湯歌などはユニーにしがみついているだけでも精一杯なのに、同じスピードで人間が並走しているのだ。
ユニーのタテガミをしっかり握って湯歌が叫ぶ。
「ひぃぃ~~怖い~~~~! このスピードで走る紅亜さんが怖すぎるぅ~~」
「……まあわかるよ」
澄見歌はボソッと呟いた。
★
三人と一頭は、あっという間に地下二階への階段にたどり着く。
ユニーは軽くジャンプしてその階段を飛び降りた。
次いで、紅亜も大ジャンプ。
階段を降りていく、というよりも飛び降りる、と言ったほうが近い。
と、地下二階に降りたところで、なにか大きな爬虫類のようなものが道をはばんだ。
「ファイヤードラゴン!」
恐怖に怯えた声で湯歌が叫ぶ。
〈ぎゃーー〉
〈なんで地下二階に!?〉
〈地下十階くらいのモンスターだぞ〉
〈モンスターレーティング1950〉
〈ほんとに稀だけど、たまに餌を求めて浅い階に出てくるんだ〉
〈こんなのと戦ってたら時間が足りない〉
〈シーコ死んじゃう〉
〈逃げられないか〉
〈そうだ、逃げろ、ここで時間をくってられないぞ〉
だが。
「トカゲさん、邪魔ぁ!」
紅亜は大きく叫んだ。
紅亜にとってみれば、こんなのは小梅のダンジョンによく出現するトカゲに過ぎなかったのである。
少しスピードを緩めるユニー、それを追い越すようにして紅亜が前に出る。
大きな牙を見せてファイヤードラゴンが口を開け、そこから灼熱のファイヤーブレスを吐き出す。
「もー、邪魔しないでっ!」
紅亜がチリトリを一振りすると、その炎は霧散した。
さらにホウキを振り上げ、
「どいてーーーッ!」
とファイヤードラゴンの横っ面をひっぱたく。
すると、ファイヤードラゴンはコマのように回転して壁にふっとばされた。
〈はあ?〉
〈ミエスタのときもこんなだったな〉
〈戦闘時間5秒だった〉
〈ホウキ女、実は人類最強じゃね〉
〈やっべ顔もいいし強いし完璧人間じゃねえか〉
〈ホウキ女さん、俺ファンになるわ〉
〈がんばれー!〉
もちろん、急いでいるから流れていくコメントを見る余裕なんてない。
紅亜は自分が褒められていることなんて気づかずユニーにむかって大声で、
「さあ行くよユニー! 速くシーコさんのところまで案内して!」
と言うと、ユニーは、
「ヒヒーン!」
と答えてさらに速度を上げた。
★
本当はもうダメだった。
シーコは限界を迎えていた。
左足は膝上で切り落とされ、右手首から先も同じく切り落とされている。
痛みなんてものではない。
もうないはずの左足と右手が炎を吹き出しているかのように熱く感じた。
アカリが口から吐きだす糸を、左手に握ったムチで叩き落とす。
だけど出血がひどくてもう力が入らない。
もやがかかっているかのように視界がぼんやりとする。
体力はもはや限界だ。
息も苦しい。
もう、楽になりたい。
楽になってしまいたい。
だけど。
タブレットに映る、ホウキ女の姿がシーコに希望と勇気を与えた。
ただの一撃でドラゴンをふっとばすホウキ女を見て、瀕死のシーコはニヤリと笑みを浮かべた。
もう少しだ。
もう少し頑張れば、この規格外がここにやってきてくれる。
「ウチはまだ死ねないよ!」
自分に言い聞かせるようにしてシーコは叫ぶのであった。
あと十分か、十五分か。
それだけ持ちこたえればいいのだ。
しかし。
シーコの予想外なことに、『その時』はもっと速く訪れることになった。
おおよそ五分後、アカリがいる場所の壁がドロドロと溶けて崩れてきたのだ。




