第20話 ミラクル・オペレーション
シーコの足が切り落とされたのを見た瞬間、紅亜は何も考えずに叫んだ。
「私、助けに行く!」
それを聞いた澄見歌が、紅亜の顔をパッと見た。
驚きで目を見開いている。
紅亜を見つめるその瞳がキラリと光った。
そんな澄見歌に、紅亜ははっきりとした声で言う。
「ホウキもチリトリも持ってきているし! 掃除セットが入ってるバケツだってあるよ! 今私たちがいる、このダンジョンだよね? 今すぐ行けば間に合うかも!」
その言葉に澄見歌は紅亜の顔を見つめたまま、ほっぺたをぽうっと赤くして、
「私も行く! この人、私を助けに来てくれた人だもん! 私も行かなきゃ!」
「澄見歌ちゃんはダメ! 危ないから!」
「でも私も行きたい! だってこの人、私をボランティアで助けにきてくれたんだよ?」
「危ないよ! 澄見歌ちゃんにそんなことさせられない」
「でも!」
「いいから! 私一人で行くよ」
澄見歌は口をへの字にして紅亜の顔を数秒間見つめたあと、タブレットをパパッと操作してコメントを入力した。
〈奏天寺澄見歌です。今、ホウキの人と一緒に新宿ダンジョンにいるの。今からそこに行きます〉
それを見て紅亜はびっくりした。
「澄見歌ちゃん!?」
「行こう! 私も一緒に行く! 紅亜ちゃんって治癒魔法使える?」
「う……」
紅亜は返す言葉に詰まってしまった。
魔法らしい魔法などなにも使えないのだ。
「で、でも妖命酒があれば……」
紅亜が苦し紛れに言うのに対して、澄見歌が尋ねる。
「今持ってきてるの?」
「ない……今日はそんなつもりで来てないし……」
紅亜はか細い声でそう答えるしかなかった。
それでも紅亜は何とか言葉を絞り出す。
「でもほら、家に帰れば小梅ちゃんがまだ持ってるかも」
「今から多摩川河川敷に戻るの? 全然間に合わないよ!」
「う……」
その時、澄見歌のスマホが鳴動した。
湯歌からの着信だった。
澄見歌は応答ボタンを押してスピーカーにする。
『お姉ちゃん! あのね、シーコさんの怪我、お姉ちゃんの治癒魔法でどうこうできる怪我じゃないよ!』
湯歌の声が紅亜にも聞こえてくる。
「でも止血くらいはできるよ!」
澄見歌が言うと、湯歌は諭すように、
『止血するくらいじゃダメだよ。だって片足切り落とされていてこんなに出血してるんだよ?』
その時だった。
『アウッ!』
画面の中からシーコの悲鳴が聞こえた。
紅亜が慌ててそちらに目をやると、糸による攻撃だろうか、シーコの右手首が切り落とされているのが見えた。
ドパッ! と血が流れ出る。
シーコはムチを使って自分の腕を縛り上げ、止血をしながら叫んだ。
『ダメだ、ウチはもうもたない! ホウキ女、見ているなら頼む、この子は操られてるんだ、セーラー服の女子高生だ、モンスターに身体を支配されちょる! こいつだけでも……こいつだけでも助けてやってくれ! 地下五階の南西エリアだ!』
紅亜は立ち上がった。
もう時間の猶予なんかない。
一刻も早く行かなければ!
ホウキとチリトリを手に持って、紅亜が走り出そうとすると、
「ちょっと待ってよ!」
澄見歌は慌てて紅亜の袖を持って引き留めた。
それでも紅亜は止まらない。
まるで澄見歌を引きずるようにズンズンと歩き始める。
スマホの向こうで湯歌が言った。
『紅亜さん、お姉ちゃん。私も行くよ!』
それを聞いた澄見歌は怒りを含んだ声で、
「なに言ってるの、あんたレーティング278でしょ! 無理だよ、私と紅亜ちゃんで行くから――」
『でも、私のスキルならシーコさんを助けられるよ。もしかしたらこの自殺配信してる女子高生の人だって!』
そういえば、湯歌も人には真似できないスキルを持っていると聞いたのを思い出す。
「湯歌ちゃんのスキルって?」
「奇跡の外科手術だよ……外傷に限るけど、設備の整った一流の病院じゃなきゃできないような、いえ、それ以上の難しい治療ができるの……。でも、湯歌は戦闘が全然ダメなんだよ! ほんとにスライムにも勝てないの!」
『私も行く! 私だって人助けしたい! 紅亜さんやシーコさんみたいな人間になりたい! このスキルを持っているんだから、誰かを助けられる人間になりたいのっ! もうダンジョンに行くから、そこで待ってて!』
「ダメ、あんた弱いんだから……あ、切れた」
スライムってあのなめくじみたいなやつだよね? あれにも勝てない子を連れて行くわけにはいかないよ。
紅亜はそう思ったが、しかし治癒魔法もろくに使えない紅亜が一人で行ったところでシーコを救命できるとも思えなかった。
かといって推しと推しの妹を危険に曝すわけにも……。
いや待って、危険と言ったって、このダンジョンにいるモンスターは小梅ちゃんの部屋を毎日掃除している私にしてみれば大したことない……。
紅亜は数秒間考え込んでから言った。
「湯歌ちゃんはあそこのカフェにいたんだよね? じゃ、私たちが出入り口に行く方が早い! 今から出入り口に急いで戻って湯歌ちゃんと合流しよう。それで、シーコさんを助けに行こう! 大丈夫。ここのダンジョンは小梅ちゃんのダンジョンに比べて瘴気が薄いんだ。ここに出てくる害虫や害獣程度、なんてことないよ! 私が先頭を行くから、澄見歌ちゃんが湯歌ちゃんを守りながらついてきて!」




