第14話 性暴力は絶対に許せない
駆けてくる白馬。
そしてその上に跨るのは、血まみれの女性だった。
登山服のようなものを着ていて、何者かに攻撃されたのだろう、あちこちが破れ、血が大量に滲んでいる。
血液に塗れた登山服の上に白いビブスみたいなものを着けている。
そのビブスも血で汚れていて、そこには赤い四角が太い線で描かれていた。
赤十字ならぬ、赤四角。
ダンジョン内で救助活動をする者の証だ。
白馬はサラブレッドほど大きくはなく、小柄なポニーのサイズ。
だが短い円錐形のツノが生えていて、ただの馬ではないことがわかる。
そしてその馬はソリのようなものを曳いていた。
救命活動用のソリである。
そしてそのソリにはある人物がグルグルに縛り付けられていた。
さきほどまで紅亜と戦っていた褐色の女性、つまりミエスタである。
馬上の人物は抱き合う紅亜と澄見歌を見て、
「くそ! 仲間がいるじゃん! ……くそ! でもやるしかないよねえ!」
そして白馬の胴を拍車のついた踵で蹴る。
長いムチを一発馬の尻に入れると、そのままそのムチを振り上げた。
「うおおおおおおおおおお! その子を離せえ!!!!!!!!」
長いムチがうなりをあげて正確に紅亜だけを狙って伸びていく。
バシッ! という音とともに、ムチは紅亜の右腕に巻き付いていった。
だが、紅亜はとっさにバケツから草刈り用の小さなカマを取り出してそれを切って落とす。
白馬に跨る女性は反動で馬から転げ落ちた。
それでもなんとか着地を決めて、紅亜に向かって叫んだ。
「おい! その子を離せ!」
★
え、なにこの子?
恍惚の中にいた紅亜は、ハッと我に返った。
なんかわけわかんないことを叫びながらムチで攻撃してきたんだけど?
もしかしたら……ミエスタの仲間!?
そう思ったのはなぜかと言うと、白馬が引いているソリの上に、大ケガしているらしきミエスタが縛り付けられていたからだ。
ソリには『要救助者用』と書いてある。
紅亜は雪山登山の救助とかで、こういう風に遭難者をソリに縛り付けているのを見たことがあった。
だから、紅亜はすぐに察した。
これはつまり、この人はミエスタの仲間で、ミエスタを助けに来たんだ!
んでもって私をやっつけて澄見歌ちゃんを取り戻そうとしている!
そう判断した紅亜は、改めてホウキとチリトリを握った。
鋭い目でこちらを睨んでくる女性。
アッシュブロンドの明るい金髪、ストレートロングヘア。
ピンク色のインナーカラーが入っている。
手にはムチを持っていて、まるでなにかの生き物のようにウネウネと動いていた。
金髪の女がすさまじい声量で叫ぶ。
「おい、そこの女! さらった上に無理やりキスするなんてド変態じゃん! ウチ、マジでそういうの許せないんだよね! 降伏しな!」
「なに言ってるの、澄見歌ちゃんをあなたたちに渡すわけがないでしょ!」
「ウチさー……性暴力は絶対に許せないタチなんよ! 今すぐその武器を捨てて投降して! その子はこっちに引き渡してもらうからね! さもなくば……マジで殺す!」
「引き渡す!? ふざけないで! あなたこそ諦めてどこかに行って!」
「クッソ! やっぱり話が通じないし!」
「あなたこそ話が通じないじゃない! 澄見歌ちゃんは私と行くの!」
「そんなん、行かせるわけないじゃん!」
イモスミ◆〈ちょっと待って! その人、有名なスーパーボランティアのシーコさんです!〉
イモスミのコメントが読み上げられる前に、紅亜とシーコは同時に動いた。
「うおおおおおおおお!」
シーコが読み上げを打ち消すような大声をあげ、ムチを振るう。
その先は5つに分かれ、それぞれが独自の意志を持っているかのように別方向から紅亜を襲う。
だが、紅亜の方がはるかに速かった。
ホウキとチリトリを使ってムチの攻撃を受け流しながら、まっすぐシーコに向かっていく。
ほんの一メートルまで距離を詰めると、紅亜はホウキを振り上げた。
あとはこれを振り下ろすだけだ。
紅亜は迷った。
どのくらいの力で殴ればいいだろう?
死なない程度に、でも戦闘不能になるくらいで――。
「クッソ!」
シーコが左腕を上げてガードしようとする。
その左腕にも大きな傷があって、血がボタボタボタ! と床に落ちた。
――え、なんでこの人、こんな大けがしているの?
ホウキを振り下ろす手から力を抜く。
だけど止まらずに、ホウキはシーコの左腕に当たった。
ガツン! という鈍い音。
「ぐはっ! くそ……くそ……くそ……!」
シーコはそのまま膝から崩れ落ち、紅亜を燃えるような瞳で睨みながら、
「わざとウチを殺さなかったよねえ? ……ウチのことも凌辱する気でしょ! くそ……! お前なんかに……」
そのままばったりと床に倒れて動かなくなった。
いったいなんだっていうんだろう?
紅亜は意味もわからず立ち尽くした。
そこに、縛り付けられていたミエスタが声を上げた。
「ヒヒヒ! 相打ちしてくれれば嬉しかったのになあ! そいつはさっき私と戦ってボロボロになってたからねえ! ヒヒ! 私はこのザマだが、その代わりにそいつには致命傷を負わせているよ、ヒヒヒ! あーあ、ほんとに相打ちになってほしかったねえ……ざーんねん!」
イモスミ◆〈その人、有名なボランティアの人です! 敵じゃないと思います〉
それを聞いて、紅亜は大変なことをしてしまったと思った。
目の前に倒れている金髪の女性。
よく見れば、ミエスタがやったという身体のケガはひどいもので、特に左腕からの出血がひどい。
このままでは出血多量で死に至るかもしれなかった。
やばいやばい。
勘違いとはいえ、これは……。
紅亜は振り向いて澄見歌に聞く。
「澄見歌ちゃん! 澄見歌ちゃんって治癒魔法少し使えたよね?」
「はにゃああ~~~ふひひひ……世界がまわりゅうう……初めてのチュウ……よかったよお……にゃはははは」
「…………え?」
イモスミ◆〈もしかしてさっきの薬、アルコール入ってました? お姉ちゃん、お酒を一滴でも飲むとそんな感じになるんです〉
これでは澄見歌の治癒魔法に期待はできない。
だけどこのままじゃ目の前の女性が死んじゃう。
なんなら私が殺しちゃったことになるかもしれない。
でもでも私は治癒魔法なんか使えないし……。
なにか方法は……。
紅亜は脳みそをフル回転させ、なにかないかと周りを見渡す。
その視線が床に置いてある妖命酒にとまった。
まだ三分の一くらいは残っている。
……これしかないか……。
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