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第11話 お部屋のいやな臭いを除去! ルセッシュ!

 紅亜(くれあ)にとって、それは全く脅威になる攻撃ではなかった。

 ミエスタが放った光線、それを左手に持ったチリトリで難なく防ぐ。

 光線はチリトリに反射されてあらぬ方向へ飛び、ダンジョンの壁を崩した。


 ――こんなやつと遊んでいるヒマはないよ! 早く澄見歌(すみか)ちゃんを助けないと!


 紅亜(くれあ)の頭の中はそれだけだった。

 今まで六畳間ダンジョンを掃除したことしかない、ただの23歳無職女。

 それが、世界的大犯罪者と戦闘しているのだ。

 いくら実力があったとしても、初めての対人戦闘。

 恐怖に打ち震えていてもおかしくはなかった。

 だが。


澄見歌(すみか)ちゃん、今助けるからね!」


 推しの命のことを思えば、恐怖などまったく感じなかった。


 ニヤニヤとした笑みを顔に貼り付けているミエスタ。

 彼女の周りにある魔力が、彼女に吸い込まれていくのが紅亜(くれあ)には見えていた。


 ――まずあの魔力を綺麗に掃除しなきゃ!


 紅亜(くれあ)はバケツの中からスプレーを取り出す。

 マジカルアイテムなどではない。

 そのスプレーには『ルセッシュ』と書いてある。

『お部屋のいやな臭いを除去!』

 などと謳っている、その辺のスーパーで買える代物である。

 だが、部屋に充満した魔力の汚れをとるのにはこれが一番なのである。

 もちろん、このスプレー自体がなにか特別な力をもっているわけではない。

 スプレーを媒介として、紅亜(くれあ)が持つ能力が発動されるのだ。


 紅亜(くれあ)はルセッシュのハンドルを引く。

 シュッ、シュッ、とスプレーボトルの中身が空間にまき散らされる。

 バラのフレグランスが鼻をくすぐった。

 それと同時に、周囲に充満していた魔力が中和されていった。


「なにをしているかわからんが――死ねぇ!」


 ミエスタが再び光線を発射する。

 紅亜(くれあ)はチリトリを振ってその光線を叩き落とした。

 

「オラオラオラァ!」


 さらに立て続けに光線を放つミエスタ、紅亜(くれあ)がそれに対処しているあいだにミエスタは床を蹴ってダッシュし、一気に距離を詰めてきた。


 遅い、と紅亜(くれあ)は思った。

 ミエスタの繰り出すパンチは、まるでスローモーションのように見えた。


「部屋の中のコバエの方が――」


 紅亜(くれあ)はミエスタのパンチをミリ単位の動きでギリギリ避けると、ホウキを振り上げる。


「まだ早いよ!」


 そしてミエスタの顔面を、ペシッ! とホウキではたく。


「ぐわぁぁぁ!?」


 その衝撃でミエスタの身体がコマのように垂直方向にぐるんぐるんと回転し、そのまま壁に叩きつけられる。

 すぐに起き上がったミエスタは、


「やるねえ! だが、まだまだだ! ヒール!」


 しかし、今度はその治癒魔法がミエスタの身体を癒すことはなかった。

 ミエスタの力の源たる魔力を、スプレーによって無効化していたからだ。


「な……!?」


 驚きの表情を見せるミエスタ、その彼女に向かって紅亜(くれあ)はズンズンと無造作に歩いていく。


「ま、待て……」

「待ちません」


 目の前にいるこの露出狂。

 こいつが、澄見歌(すみか)ちゃんの身体を撫でまわしていたんだ!

 そう思うと、怒りがこみあげてきて、ホウキを握る手にも力が入る。


「待て、金ならやる! あの女も返す! 見逃してくれ! 頼む!」


 魔力を失い、フラフラになったミエスタがその場で無様に土下座した。

 紅亜(くれあ)はただの一般人である。

 無職で酒が好きなだけのニート女子だ。

 別に人を傷つけるのが好きなわけではない。

 目の前にいるのは澄見歌(すみか)を殺して剥製にしようとした憎いやつだけど。

 

 戦意を喪失した人間をうちのめしたいという欲はない。


「…………澄見歌(すみか)ちゃんを解放しなさい」

「する! するから! ほら!」


 ミエスタがパチンと指を鳴らすと、澄見歌(すみか)を拘束していた植物のモンスター、ヴォブローノが二枚貝のような器官をぱっくりと開けた。

 ずるり、と澄見歌(すみか)の身体が床に落ちる。


澄見歌(すみか)ちゃん!」

 

 紅亜(くれあ)澄見歌(すみか)のもとに駆け寄ろうとした、その瞬間だった。


「もらったぁ!」


 ミエスタが自らの髪の毛の中に隠していた、金属の棒を投げつけてきた。

 紅亜(くれあ)は振り向きもせずにその棒を二本の指で挟み込むようにして止めた。

 ちょっと力を入れてやると、その金属棒はくにゃりと曲がった。

 そしてゆっくりとミエスタの方を振り向く。


 ミエスタはすでに立ち上がり、後ろを向いて全速力で走り始めていた。

 なにをどうしても勝てないことを理解したのだろう、全身全霊をかけた逃走だ。


 かなりむかついているので、追いかけてお仕置きしてやりたい。

 けど……。

 それよりも大事なことが紅亜(くれあ)にはあった。

 もちろん、推しの命である。


澄見歌(すみか)ちゃん!」


 床に倒れている澄見歌(すみか)

 紅亜(くれあ)澄見歌(すみか)のそばに膝をついてその顔を覗き込んだ。

 よかった、まだ息をしている!


〈なんだこりゃ〉

〈ホウキとチリトリでミエスタを撃退したぞ?〉

〈???????????????????????〉

〈え、マジで?〉

〈【朗報】ミエスタ逃亡〉

〈なにこの女、えっぐ〉

〈ミエスタのレーティング2411だぞ?〉

〈日本人でレーティング2000越えなんて数人しかいない〉

〈嘘だろ〉

〈スミー助かったってこと?〉

〈信じられん〉

〈AI動画でも見せられてるんじゃないか〉


イモスミ◆〈お姉ちゃん! お姉ちゃんを助けて!〉

   


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