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第10話 戦闘開始

 ミエスタはしかし、まだ紅亜(くれあ)の実力を見誤っていた。

 この程度の相手なら、単純な攻撃で倒せると思っていたのだ。


 ――いい剥製になりそうだ。まずは右腕から切り落としてやる!


 デルタフォースもSASも殺してきた実力の持ち主。

 こんな女一人、本気を出すまでもないはずだった。

 だが。

 紅亜(くれあ)は、左手に持ったプラスチック製のチリトリをヒョイと掲げる。


 ――笑わせるな!


 デルタフォースの隊員が身に着けていた防護服すら貫通した手刀。

 そいつで、チリトリごと紅亜(くれあ)の腕を破壊しようとして――。

 パァン! という大きな破裂音とともに、ミエスタの手刀はチリトリにはじき返された。


「ああん?」


 ミエスタはなにが起こったのかわからなかった。

 バックステップしていったん距離を取る。

 右手の感覚がない。

 眼球だけ動かして自分の腕を見る。


「なんだこりゃ?」


 ミエスタは唇を歪ませた。

 人差し指、中指、薬指。

 チリトリにぶつかったその指が、ボキボキに折れていた。

 そのミエスタに向かって、紅亜(くれあ)はホウキを振り上げている。


 ミエスタはニヤリと笑った。


「なるほどなるほど。さてはお前、正規軍の所属じゃないな? このトリッキーな能力――どこのマフィアの雇われだ?」


 紅亜(くれあ)はそれに答えず、振り上げたホウキをそのままミエスタに向かって振り下ろしてきた。


「キヒヒヒヒ! 楽しいねえ! ハァァァ!」


 ミエスタは叫ぶ。

 彼女の左腕が発光し、瞬時に硬化した。

 ガキィン! という金属音が響く。

 ミエスタの左腕はホウキの攻撃を受け止めていた。

 しかし、その衝撃はミエスタの全身に伝わっていく。

 左腕だけではなく、内臓や脳までもビリビリと震えた。

 攻撃を完璧に防ぎ切ったはずなのに、ミエスタの鼻から血がたらりと流れた。


 ――安物のホウキでこの威力!


「やるねえ!」


 ミエスタは飛び退り、距離をとった。

 そしてすぐに精神を集中し、叫ぶ。


「ヒール!」


 折れた右手の指があっというまに元へ戻っていく。

 治癒魔法である。

 ダンジョン内においてほぼすべての近代的な銃火器は無効化される。

 そのかわり、人間はダンジョン内限定でこのような特殊能力を使うことができるようになるのだ。

 

 しかし、魔法を使うと当然、魔力を消費する。

 通常の探索者ならば、一度の探索で使える魔法の数は一種類につき5~6回ほど。

 使い切ってしまうと、それを回復させるのに一度ダンジョンを出て数日間の休息をとる必要があった。


 しかし。

 ミエスタはそうではなかったのである。


 ダンジョンには魔力が充満している。

 その魔力をミエスタは肌から取り込む能力を持っているのだ。

 したがって、ほぼ無制限に魔法を使うことができる。

 それこそがこの大犯罪者ミエスタ・キンバリーの強さを支える秘密だった。


 ミエスタは高揚してきていた。

 彼女とて、数々の修羅場をくぐってきた歴戦の殺人者である。

 未知の力を持つ人間やモンスターと、これまで何度も戦ってきた。

 そしてそのすべてを撃破してきたのである。


「ヒヒヒ! お前、強いねえ! 本気でいかせてもらうよ!」


 ミエスタは回復した右手を素早く動かすと、宙に五芒星を描いた。

 その五芒星の中心から、眩しいほどの輝きを放つ光線が、紅亜(くれあ)に向けて発射された。


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