第7話「問題を出したのは、誰でしょう?」
【公演記録 No.007】
演目:未申請
会場:ぱんでむ・劇場区画 第七舞台
観客:不明
出演者:不明
立会人:真意
使用トリック:不明
本人の認識:公演ではない
本物だったか:
__________
備考:
冥理は、本公演を開始していない。
追記:
開始されていない公演が終了した。
---
朝。
真意ちゃんが。
第七舞台へ来た時。
扉には。
昨日までなかった紙が。
貼られていた。
白紙。
中央に。
一行。
第一問
「……」
真意ちゃんが。
足を止める。
紙を見る。
文字は。
それだけ。
第一問。
問題文はない。
選択肢もない。
「冥理ちゃん」
返事。
なし。
「冥理ちゃん」
廊下。
誰もいない。
真意ちゃんは。
虫眼鏡を取り出した。
紙。
【紙】
【掲示物】
【設置時刻:03:17】
【設置者:____】
空欄。
さらに。
【用途:出題】
真意ちゃんの眉間に。
皺が寄る。
「やっぱり」
昨日。
最後に残されていたカード。
«問題がない場合はこちらで用意します。»
そして。
今日。
第一問。
「……本当に用意した」
真意ちゃんは。
紙を剥がさない。
扉も。
開けない。
その場から。
一歩。
後ろへ下がる。
「何をしてるんです?」
背後。
冥理ちゃん。
「っ!」
真意ちゃんが。
振り返る。
「驚きすぎでは?」
「背後に立たないで!」
「普通に歩いてきました!」
「音がしなかった!」
「奇術師ですから」
「今それを言わないで!」
冥理ちゃんは。
紙を見る。
「おや」
「触らないで」
「第一問」
「読めるから」
「問題がありませんね」
「そこが問題よ」
「なるほど!」
「感心しない」
冥理ちゃんが。
少し。
首を傾げる。
「これ」
紙を見る。
「私宛ですかね?」
「どうしてそう思うの」
「昨日」
冥理ちゃん。
帽子のつばを整える。
「お客様が、私を学習していたのでしょう?」
「そう見えた」
「なら」
にこり。
「今日は試験です」
「嬉しそうに言うな」
「だって」
冥理ちゃんが。
紙へ顔を近づける。
「手品を教えたら」
真意ちゃん。
「教えてない」
「見せたら」
「訂正が雑」
「弟子が試験を出してきたんですよ?」
「弟子にしないで」
「かわいいじゃないですか」
「昨日から因果を書き換えてる存在をかわいいと言うな」
冥理ちゃん。
しばらく考える。
「では」
「何」
「優秀」
「褒めるな!」
---
扉。
開けない。
真意ちゃんは。
その方針を変えなかった。
「今日は入らない」
「はい」
「何が書かれても」
「はい」
「反応しない」
「はい」
「問題にも答えない」
「はい」
「答えた瞬間、それを正解にされる可能性がある」
冥理ちゃんが。
頷く。
「賢明ですね」
真意ちゃんが。
見る。
「何よ」
「いえ」
冥理ちゃんが。
嬉しそうに。
「真意ちゃんが手品を避ける側になっているのが新鮮で」
「原因はあなたでしょう」
「私ではなくお客様ですよ」
「きっかけはあなた」
「光栄です!」
「褒めてない!」
その時。
紙に。
文字。
増えた。
二人とも。
止まる。
第一問
その下。
ゆっくり。
黒いインク。
扉を開けますか?
真意ちゃんが。
無言で。
後退する。
冥理ちゃんも。
黙る。
さらに。
選択肢。
A:開ける
B:開けない
「……」
冥理ちゃんが。
真意ちゃんを見る。
真意ちゃんは。
即座に。
指を立てる。
「言うな」
冥理ちゃん。
口を閉じる。
「どちらも選ばない」
真意ちゃんが言う。
「問題そのものを無視する」
五秒。
十秒。
変化なし。
二十秒。
紙。
そのまま。
冥理ちゃんが。
囁く。
「効いてます?」
「黙って」
三十秒。
一分。
二分。
何も。
「……」
真意ちゃんが。
少しだけ。
息を吐く。
「やっぱり」
「選ばないと進まない」
「そうみたいね」
冥理ちゃんが。
嬉しそうに笑う。
「攻略法が」
紙。
文字。
増える。
C:選ばない
二人。
固まる。
「……」
冥理ちゃんが。
真意ちゃんを見る。
真意ちゃん。
目を閉じる。
「最悪」
C:選ばない
その横。
丸。
勝手に。
描かれた。
扉。
カチャン。
三つの鍵が。
同時に。
外れた。
真意ちゃんの顔が。
凍る。
冥理ちゃんが。
小さく言う。
「選ばない、を」
「選択肢にされた」
扉が。
ゆっくり。
内側へ開いた。
---
誰も。
扉には触れていない。
劇場。
暗い。
舞台。
幕。
閉じている。
白い椅子。
見えない。
照明。
全部。
消えている。
ただ。
舞台中央。
スポットライト。
一本。
丸い光。
そこに。
机。
一脚。
椅子。
一脚。
紙。
鉛筆。
「試験会場……」
冥理ちゃんが呟く。
「言わないで」
真意ちゃんは。
扉の外。
まだ入っていない。
冥理ちゃんも。
横にいる。
舞台の紙へ。
文字が浮かぶ。
遠くても。
読めた。
第二問
その下。
正解しなければ退場できます。
冥理ちゃんが。
眉を上げる。
「変ですね」
「何が」
「普通は」
舞台を見る。
「正解したら進めるでしょう?」
真意ちゃんも。
同じことを考えていた。
正解しなければ。
退場できる。
つまり。
間違えれば。
出られる?
「罠よ」
「でしょうねえ」
「分かってるなら入らない」
「はい」
「絶対に」
冥理ちゃんが。
一歩。
舞台へ向かう。
真意ちゃんが。
襟を掴んだ。
「はいって言ったでしょう!」
「足が!」
「足のせいにするな!」
「奇術師としての本能が!」
「捨てなさい!」
「無茶を!」
真意ちゃんが。
冥理ちゃんを。
廊下側へ引き戻す。
その瞬間。
扉。
閉じた。
バタン。
「……」
廊下。
真意ちゃん。
冥理ちゃん。
二人。
扉の外。
「閉まりましたね」
「そうね」
「帰ります?」
「帰る」
真意ちゃん。
即答。
二人。
歩き出す。
十歩。
角。
曲がる。
その先。
扉。
第七舞台。
「……」
二人。
止まる。
振り返る。
後ろにも。
第七舞台。
前にも。
第七舞台。
「冥理ちゃん」
「はい」
「あなた?」
「違います」
「空間操作?」
「してません」
「本当に?」
「はい」
真意ちゃん。
虫眼鏡。
前の扉。
【第七舞台入口】
後ろ。
【第七舞台入口】
壁。
【第七舞台外周】
床。
【第七舞台外周】
「廊下が」
真意ちゃんが。
小さく言う。
「劇場に含まれた」
紙。
前の扉。
いつの間にか。
貼られている。
第二問
正解しなければ退場できます。
冥理ちゃんが。
「なるほど」
「何」
「もう」
帽子を押さえる。
「参加済みみたいですね」
---
第二問。
舞台へ。
入る。
真意ちゃんは。
抵抗する意味が。
薄れたと判断した。
ただし。
「私が答える」
「ええっ」
「あなたは黙って」
「私への試験かもしれませんよ?」
「だから黙って」
「理不尽!」
机。
紙。
鉛筆。
二人が。
近づく。
問題文。
第二問
この紙に書かれている問題に、正解してください。
その下。
空白。
「……」
真意ちゃんが。
紙を見る。
問題。
ない。
「自己参照?」
冥理ちゃん。
「黙って」
「はい」
真意ちゃんが。
虫眼鏡。
【問題文】
【未定義】
【正答条件】
文字。
揺れる。
【回答と一致】
「……」
真意ちゃんの手が止まる。
「何です?」
「答えを先に書いたら」
紙を見る。
「それが問題の正解になる」
冥理ちゃんが。
小さく笑う。
「昨日と同じですね」
「似てるけど違う」
「どこが?」
「昨日は、存在する問題の正解を後から変えた」
真意ちゃん。
鉛筆。
触らない。
「今日は」
紙。
「問題そのものが、答えに合わせて作られる」
冥理ちゃんの。
目が。
少し。
細くなる。
「上達してますね」
真意ちゃんが。
睨む。
「嬉しそうに言わない」
「感想です」
「嫌な感想」
紙。
下。
新しい一文。
回答してください。
真意ちゃん。
無視。
文字。
もう一行。
回答しない場合、「無回答」が回答として記録されます。
真意ちゃんが。
舌打ちする。
直後。
紙。
【回答:無回答】
【正解:無回答】
赤い丸。
大きく。
描かれる。
正解
鐘。
チーン。
「……」
冥理ちゃんが。
拍手しようとする。
真意ちゃんが。
手首を掴む。
「やめて」
「お祝いを」
「いらない」
壁。
新しい扉。
開く。
その上。
第三問
---
「ねえ」
真意ちゃんが。
廊下を歩きながら言う。
「何です?」
「これ」
「はい」
「私たちを閉じ込めたいわけじゃない」
「そうですね」
冥理ちゃんも。
珍しく。
即答。
「むしろ」
真意ちゃん。
「進ませようとしてる」
「ええ」
「答えなくても正解」
「はい」
「拒否しても選択肢に追加」
「はい」
「逃げても会場内」
「はい」
「何をしても」
真意ちゃんが。
足を止める。
「次へ行けるようにしている」
冥理ちゃんも。
止まる。
前。
第三問。
巨大な舞台。
客席。
白い椅子。
今度は。
三脚。
全部。
座面が。
沈んでいる。
真意ちゃんの。
顔が変わる。
「増えてる」
冥理ちゃんが。
白い椅子を見る。
「三人」
「今度は見えてるから言っていい」
「許可制になりましたね」
「あなたのせい」
舞台中央。
問題。
大きなカード。
第三問
出演者は誰ですか?
選択肢。
A:冥理
B:真意
C:観客
「……」
真意ちゃんが。
虫眼鏡。
A。
【冥理】
B。
【真意】
C。
【観客】
普通。
ただ。
問題文。
深く。
読む。
【出演者】
【現在未確定】
真意ちゃんが。
息を吐く。
「答えた相手が出演者になる」
「便利ですね」
「便利じゃない」
冥理ちゃんが。
舞台へ。
一歩。
真意ちゃんが。
止める。
「何」
「真意ちゃん」
冥理ちゃんは。
客席を見る。
三脚。
白い椅子。
「さっきから」
声。
少し。
低い。
「問題が」
「何」
「簡単すぎません?」
真意ちゃんも。
感じていた。
解けない問題ではない。
むしろ。
何をしても。
先に進める。
出題者は。
勝とうとしていない。
「試してる?」
真意ちゃん。
「違う気がします」
冥理ちゃん。
白い椅子。
「教えている」
「……何を?」
「ルールを」
冥理ちゃんが。
問題を見る。
「選ばなければ、それも選択になる」
第二問の扉を見る。
「答えれば、問題が生まれる」
そして。
第三問。
「出演者は」
冥理ちゃんが。
ゆっくり。
笑う。
「選べる」
真意ちゃんが。
表情を硬くする。
「何を教える必要があるの?」
「さあ」
冥理ちゃん。
帽子を。
少し深く被る。
「でも」
白い椅子。
三脚。
「次の問題は」
ほんの一瞬。
楽しそうではない顔。
「もっと嫌な気がしますね」
---
第三問。
答えない。
真意ちゃんは。
今回も。
その選択を取った。
すると。
紙。
D:未選択
追加。
丸。
D。
【出演者:未選択】
鐘。
チーン。
次の幕。
開く。
真意ちゃんが。
眉間を押さえる。
「何でもありね」
「手品っぽくなってきました」
「あなた基準をやめなさい」
第四問。
舞台。
何もない。
椅子も。
机も。
カードも。
ただ。
黒い床。
中央。
一枚。
紙。
第四問
二人。
近づく。
その下。
文字。
冥理が最初に行った手品は何ですか?
冥理ちゃんの。
足が止まる。
真意ちゃんも。
止まる。
沈黙。
長い。
「……」
冥理ちゃん。
笑う。
「これは」
「答えなくていい」
真意ちゃんが。
先に言う。
「無回答で進む」
冥理ちゃんは。
紙を見る。
「そうですね」
真意ちゃん。
虫眼鏡。
問題。
【質問】
【対象:冥理】
【情報参照元:____】
空欄。
「情報源がない」
「昨日と同じですね」
「でも」
真意ちゃん。
さらに読む。
【正答条件】
文字。
見えない。
深く。
さらに。
【冥理が回答した内容】
真意ちゃんが。
目を見開く。
「答えるな」
冥理ちゃんが。
真意ちゃんを見る。
「分かりました?」
「これ」
真意ちゃん。
紙を見る。
「事実を聞いてない」
「では?」
「あなたの回答を」
声が。
強張る。
「事実にするつもり」
沈黙。
冥理ちゃんの。
笑顔が。
ゆっくり。
消える。
「……」
白紙だった記憶。
最初の手品。
覚えていない。
第6話。
冥理自身が。
口にした。
「もし」
真意ちゃん。
「鳩って答えたら」
冥理ちゃん。
「私の最初の手品は」
「鳩になる」
「箱って答えれば」
「箱になる」
「消失なら」
「消失」
冥理ちゃんが。
紙を見る。
「過去を」
「正解に合わせる」
静か。
客席。
どこか。
パチン。
拍手。
一回。
冥理ちゃんが。
反射的に。
頭を下げかける。
途中で。
止めた。
「……」
自分の手を見る。
真意ちゃんも。
それを見る。
冥理ちゃんが。
小さく笑う。
「危ない危ない」
真意ちゃんは。
笑わない。
「今」
「はい」
「どうして頭を下げたの」
「拍手されたから」
「誰に?」
「……」
冥理ちゃんが。
黙る。
客席。
ない。
白い椅子も。
ない。
舞台。
二人だけ。
真意ちゃんの。
虫眼鏡。
周囲。
【舞台】
【出演者:未選択】
【観客:____】
空欄。
「観客が」
真意ちゃん。
「いない」
「でも」
冥理ちゃん。
「拍手は聞こえました」
「私も」
二人。
黙る。
つまり。
拍手だけが。
残っている。
観客という。
存在すら。
必要なくなっている。
---
第四問。
無回答。
真意ちゃんは。
そう決める。
紙。
待つ。
十秒。
三十秒。
一分。
何も起きない。
「……」
真意ちゃん。
顔を上げる。
「進まない」
冥理ちゃんも。
見る。
「今回は」
「無回答を認めない?」
紙。
文字。
追加。
回答してください。
真意ちゃん。
「無回答」
声に出す。
紙。
変化なし。
「……」
冥理ちゃん。
「今までと違いますね」
「ええ」
紙。
さらに。
本人が回答してください。
冥理ちゃん。
指を差す。
「私」
「見れば分かる」
「どうしましょう」
「答えない」
「でも進めませんよ?」
「進まなくていい」
真意ちゃんが。
冥理ちゃんを見る。
「ここで止まる」
「閉じ込められます」
「過去を書き換えるよりまし」
「ごもっとも」
冥理ちゃんは。
床へ座った。
帽子を。
膝に置く。
「では」
真意ちゃん。
「何」
「休憩しましょう」
「この状況で?」
「長期戦でしょう?」
帽子の中。
手。
ごそごそ。
真意ちゃんが。
睨む。
「何を出す気」
「軽食を」
「やめて」
「お腹が」
「この空間で未知の経路を使うな!」
「厳しい!」
冥理ちゃん。
帽子を戻す。
そして。
何もせず。
座る。
真意ちゃんも。
壁際へ。
二人。
待つ。
五分。
十分。
三十分。
問題。
消えない。
一時間。
変化。
なし。
「……」
冥理ちゃんが。
天井を見る。
「真意ちゃん」
「何」
「暇ですね」
「我慢して」
「しりとりします?」
「しない」
「トランプ」
「しない」
「手品」
「絶対しない」
「ですよね」
さらに。
十分。
冥理ちゃん。
床へ寝転がる。
「眠くなってきました」
「寝ないで」
「夢幻ちゃん呼びます?」
「呼べるなら呼んで」
「呼べないでしょうねえ」
「でしょうね」
沈黙。
冥理ちゃん。
目を閉じる。
真意ちゃんは。
問題を見る。
冥理が最初に行った手品は何ですか?
答え。
存在しない。
少なくとも。
冥理の記憶には。
ない。
真意ちゃんの記録にも。
ない。
そこで。
違和感。
「……」
真意ちゃんが。
虫眼鏡を持ち上げる。
問題ではなく。
冥理ちゃん。
【冥理】
【奇術師】
【外商クルー】
【因果の奇術】
さらに。
深く。
真意ちゃんの。
目が細くなる。
いつも。
そこまで。
それ以上。
見ようとすると。
情報が。
乱れる。
だが。
今回は。
一瞬。
一文字。
見えた。
【初演:】
その後。
ノイズ。
「冥理ちゃん」
「んー?」
「起きて」
「寝てません」
「目を閉じてる」
「休憩です」
「あなたのタグに」
冥理ちゃん。
目を開ける。
「初演って項目がある」
「へえ」
「でも読めない」
「企業秘密ですね」
「冗談を言ってる場合じゃない」
「真意ちゃん」
冥理ちゃんが。
起き上がる。
「読めないなら」
「何」
「まだ」
帽子を被る。
「決まってないのでは?」
真意ちゃんが。
止まる。
「……」
冥理ちゃん。
問題を見る。
「私が忘れているんじゃなくて」
紙。
「最初から」
笑う。
「まだ決められていない」
真意ちゃんが。
首を振る。
「推測よ」
「もちろん」
「証拠はない」
「はい」
「その状態で答えたら」
「決まる」
冥理ちゃん。
立ち上がる。
「だから」
紙へ。
近づく。
真意ちゃんも。
立つ。
「答えないで」
「答えません」
冥理ちゃんが。
鉛筆を取る。
「何してるの!」
「回答はしません」
紙。
問題文。
その下。
冥理ちゃんが。
書く。
まだ決まっていない。
真意ちゃん。
「それ答えでしょう!」
「いいえ」
冥理ちゃんが。
笑う。
「手品師の抗議です」
紙。
一秒。
二秒。
文字。
揺れる。
【回答:まだ決まっていない】
【正解:】
空欄。
さらに。
【正解:まだ決まっていない】
真意ちゃんの。
顔が。
変わる。
鐘。
チーン。
正解
冥理ちゃん。
「……」
真意ちゃん。
「……」
二人。
紙を見る。
冥理ちゃんが。
ぽつり。
「正解しちゃいました」
真意ちゃん。
「最悪」
---
幕。
開く。
第五問。
その瞬間。
二人とも。
動かなかった。
問題。
一行。
では、最初の手品を決めてください。
冥理ちゃんの。
顔から。
笑顔が消える。
真意ちゃんが。
すぐ。
紙を破ろうとする。
破れない。
掴める。
曲がる。
でも。
裂けない。
虫眼鏡。
【問題】
【必須回答】
【回答者:冥理】
【正答条件:任意】
「任意……」
真意ちゃん。
声が。
冷える。
「何を答えても正解になる」
冥理ちゃんは。
紙を見ている。
「はい」
「答えるな」
「はい」
「絶対」
「はい」
「冥理ちゃん」
「答えません」
珍しく。
即答。
その時。
周囲。
照明。
一つずつ。
点く。
ぱち。
ぱち。
ぱち。
客席。
現れる。
白い椅子。
一脚。
二脚。
三脚。
四脚。
十脚。
二十。
五十。
劇場いっぱい。
白。
白。
白。
全て。
座面。
沈んでいる。
真意ちゃんが。
息を呑む。
「……」
冥理ちゃん。
帽子を。
深く被る。
客席。
満席。
何も見えない。
でも。
いる。
舞台。
二人。
問題。
最初の手品を決めてください。
静寂。
そして。
拍手。
一斉。
パチン。
パチン。
パチン。
パチン。
何十。
何百。
見えない手。
劇場全体。
揺れるほどの。
拍手。
冥理ちゃんが。
立っている。
頭を。
下げない。
初めて。
拍手に。
応えない。
真意ちゃんが。
横を見る。
冥理ちゃん。
笑っていない。
「冥理ちゃん」
「はい」
「大丈夫?」
「ええ」
「怖い?」
少し。
間。
冥理ちゃんが。
笑う。
弱く。
「手品師に」
客席を見る。
「満席の劇場を怖がるな、というのは」
帽子を押さえる。
「少々難しいですね」
拍手。
止まらない。
でも。
冥理ちゃんは。
ステッキを出さない。
帽子にも。
手を入れない。
指も。
鳴らさない。
何もしない。
ただ。
立つ。
一分。
二分。
拍手。
続く。
真意ちゃんが。
冥理ちゃんの横へ立つ。
「帰るわよ」
「出口」
ない。
「作る」
真意ちゃん。
虫眼鏡。
壁。
【舞台外周】
床。
【舞台】
天井。
【舞台】
全て。
舞台。
「……」
冥理ちゃんが。
小さく。
言う。
「真意ちゃん」
「何」
「問題に答えなくても」
「うん」
「公演って」
客席。
「終わらせられると思います?」
真意ちゃんが。
見る。
「何を考えてるの」
冥理ちゃん。
今度は。
いつもの笑顔。
少しだけ。
戻る。
「手品師には」
ゆっくり。
一礼。
「手品をしない自由もあります」
真意ちゃんが。
目を見開く。
冥理ちゃんは。
客席へ。
声を張る。
「本日の公演は!」
拍手。
止まる。
静寂。
「演目なし!」
真意ちゃん。
「冥理ちゃん?」
「タネなし!」
白い椅子。
沈む。
「仕掛けなし!」
何十もの。
見えない観客。
動かない。
「奇跡なし!」
冥理ちゃん。
両腕を。
広げる。
何も。
起こさない。
「何もいたしません!」
沈黙。
「以上をもちまして!」
冥理ちゃんが。
深々と。
頭を下げる。
「終演です!」
鐘。
鳴らない。
扉。
出ない。
紙。
変化なし。
真意ちゃん。
「駄目じゃない」
冥理ちゃん。
頭を上げる。
「いやあ」
「どうするの」
「失敗ですね!」
真意ちゃん。
「笑ってる場合!?」
その時。
客席。
一人。
拍手。
パチン。
一回。
次。
別。
パチン。
もう一人。
パチン。
少しずつ。
パチン。
パチン。
パチン。
拍手。
広がる。
だが。
さっきとは違う。
一斉ではない。
ばらばら。
遅い。
やがて。
劇場全体。
拍手。
冥理ちゃんが。
目を丸くする。
真意ちゃんも。
紙を見る。
第五問。
では、最初の手品を決めてください。
文字。
薄くなる。
消える。
代わりに。
一行。
公演終了
扉。
現れる。
「……」
真意ちゃんが。
呆然とする。
冥理ちゃんが。
小さく。
笑う。
「成功しました」
「何が?」
「何もしない手品」
「それは手品じゃないでしょう」
「ですが」
冥理ちゃん。
客席を見る。
白い椅子。
一脚ずつ。
座面が。
戻っていく。
ぎ。
ぎ。
ぎ。
誰かが。
席を立つように。
「お客様には」
冥理ちゃん。
嬉しそうに。
「受けました」
真意ちゃんは。
何も言えなかった。
---
劇場。
出る。
扉。
閉じる。
今度は。
廊下が。
普通に続いている。
真意ちゃん。
振り返る。
第七舞台。
一つ。
だけ。
「戻った」
「終演しましたから」
「あなたが終わらせた?」
「どうでしょう?」
冥理ちゃん。
帽子を。
外す。
「何もしなかっただけです」
真意ちゃん。
見る。
「でも」
「はい?」
「問題に答えなかった」
「はい」
「過去も決めなかった」
「はい」
「それなのに」
真意ちゃん。
虫眼鏡。
冥理ちゃん。
【冥理】
【奇術師】
【外商クルー】
【因果の奇術】
さらに。
【初演:】
ノイズ。
「……まだ読めない」
冥理ちゃんが。
ほっとしたように。
息を吐いた。
ほんの。
一瞬。
真意ちゃんは。
見逃さない。
「冥理ちゃん」
「はい?」
「今」
「何でしょう」
「安心した?」
冥理ちゃん。
笑う。
「まさか」
「嘘」
「おや」
「あなた」
真意ちゃん。
虫眼鏡を下ろす。
「本当は」
一歩。
近づく。
「最初の手品を知りたくないんじゃない?」
冥理ちゃん。
黙る。
廊下。
静か。
「……」
冥理ちゃんが。
帽子を被る。
「真意ちゃん」
「何」
「奇術師は」
ゆっくり。
つばを下げる。
「タネを知らないほうが」
少し。
笑う。
「幸せな時もあるんですよ」
真意ちゃんは。
否定しなかった。
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【公演記録 No.007・終了後追記】
確認事項。
一。
「観客」と仮称する存在群は増殖している。
二。
白い椅子は、本体ではなく座席として機能している可能性が高い。
三。
出題内容は、冥理の行動・拒否・認識に応じて変化する。
四。
回答は、現実のみならず過去の確定にも影響する可能性がある。
五。
冥理の「最初の奇術」は現在も未確定。
六。
冥理が何も行わないことで、公演を終了させることには成功した。
重要:
観客は。
奇術そのものだけを見たいわけではない。
「冥理が何を選ぶか」
を観測している可能性がある。
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深夜。
真意ちゃん。
調査室。
壁。
写真。
メモ。
赤い糸。
第一問。
第二問。
第三問。
第四問。
第五問。
順番。
書く。
1.
扉を開けるか。
2.
回答から問題を作る。
3.
出演者を選ぶ。
4.
冥理の過去を問う。
5.
冥理の過去を決めさせる。
真意ちゃんが。
ペンを止める。
「……」
段階。
少しずつ。
広がっている。
行動。
定義。
役割。
過去。
次。
何。
真意ちゃんが。
ノートに。
書く。
次に問われるもの
しばらく。
考える。
その下。
未来?
書いて。
止まる。
そして。
消す。
代わり。
冥理そのもの?
その瞬間。
机。
横。
パチン。
拍手。
一回。
真意ちゃんが。
硬直する。
ゆっくり。
横を見る。
誰もいない。
虫眼鏡。
【観客】
「……」
真意ちゃん。
立ち上がる。
観客。
第七舞台に。
いるはずだった。
だが。
もう。
違う。
「劇場から」
真意ちゃん。
小さく。
「出てきてる」
机の上。
ノート。
新しい文字。
真意ちゃんの字ではない。
第六問
真意ちゃんの。
呼吸が止まる。
その下。
文字。
一文字ずつ。
浮かぶ。
冥理を、どこまで冥理と呼びますか?
選択肢。
なし。
真意ちゃんが。
虫眼鏡を向ける。
【質問】
【回答者:真意】
「……私?」
さらに。
タグ。
【正答条件:回答者が納得すること】
真意ちゃんが。
顔を上げる。
誰もいない部屋。
見えない観客。
今度は。
冥理ちゃんではない。
自分を。
見ている。
公演記録。
最後。
知らない筆跡。
«次の出演者が決まりました。»
真意ちゃんは。
その一文を。
破り捨てた。
紙片。
床。
落ちる。
だが。
落ちた紙片すべてに。
同じ文字。
«次の出演者が決まりました。»
十枚。
二十枚。
三十枚。
細かな紙片。
全部。
同じ。
真意ちゃんが。
虫眼鏡を握る。
「……冗談じゃない」
パチン。
拍手。
一回。
今回は。
誰も。
終演を宣言しなかった。
【公演記録 No.007・最終追記】
公演は終了した。
観測は終了していない。
本物だったか:
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