↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/13

第12話「見せたのは、何でしょう?」


【公演記録 No.012】


演目:公開奇術

会場:ぱんでむ・劇場区画 第七舞台前

出演者:冥理

立会人:真意

観客:不明


備考:


今回は隠蔽を行わない。


追加備考:


冥理本人の提案による。


---


「駄目です」


「まだ何も言ってませんよ?」


「その箱を置いた時点で駄目」


真意ちゃんは廊下の中央で立ち止まった。


第七舞台の扉から三メートル。


その真正面。


赤い箱。


冥理ちゃんが両手で抱えられるくらいの、ごく普通の手品箱だった。


少なくとも。


見た目は。


「片付けて」


「新品です!」


「そういう問題じゃない」


冥理ちゃんは箱の天板を軽く叩いた。


乾いた木の音。


「今日は」


にこり。


「見せます」


真意ちゃんの目が細くなる。


「何を」


「手品を」


「誰に」


「お客様に」


廊下。


誰もいない。


それでも真意ちゃんは、反射的に虫眼鏡へ手を掛けた。


冥理ちゃんが首を振る。


「探さないでください」


その一言だけ。


真意ちゃんの指が止まった。


「……理由」


「探したら」


冥理ちゃんは赤い箱の留め金を外した。


「向こうも隠します」


昨日。


消えた廊下。


戻った空間。


戻らなかった一本のポテト。


真意ちゃんは虫眼鏡から手を離した。


「で?」


「ですから」


箱を開く。


中。


白い鳩。


一羽。


ぽっ。


「隠さなければいいんです」


---


鳩は箱の縁へ足を掛けた。


冥理ちゃんが指で胸を押し戻す。


「まだですよ」


ぽっ。


「待ってください」


ぽぽっ。


「出演者が勝手ですね」


「あなたに似たんじゃない?」


「心外です!」


鳩が出てくる。


冥理ちゃんが戻す。


真意ちゃんがため息をついた。


異常が始まってから。


冥理ちゃんは少し変わった。


勝手に手品を始めるところは変わらない。


むしろ増えた。


ただ。


一度止められたことだけは。


覚えている。


昨日も。


因果を書き換えなかった。


今日も。


まだ。


使っていない。


「計画を聞く」


真意ちゃんが言った。


「簡単ですよ」


冥理ちゃんは箱を閉じる。


「鳩を消します」


「普通」


「普通です」


「それだけ?」


「それだけ」


「タネは?」


「秘密です」


「能力は?」


「使いません」


「本当に?」


「普通の手品です」


真意ちゃんは冥理ちゃんの顔を見る。


「どうして」


少し間。


「それが対策になるの」


冥理ちゃんは答えず。


箱を。


第七舞台の扉からさらに遠ざけた。


一メートル。


二メートル。


壁際。


「お客様が」


その位置を決めてから。


「見たいものを」


白い手袋で箱を示す。


「こちらで決めます」


真意ちゃんの眉が動いた。


冥理ちゃん。


笑う。


「隠すから探されるんです」


---


赤い箱。


鳩。


ハンカチ。


三枚のカード。


小さな銀貨。


全部。


廊下へ並べられた。


第七舞台前。


なのに。


妙に。


普通の手品会場だった。


「始めますよ」


冥理ちゃんが言う。


「私は?」


「見ていてください」


「それでいいの?」


「はい」


「観測が増える」


「増やします」


真意ちゃんが黙る。


冥理ちゃんはステッキを出した。


「大丈夫です」


「何が」


「今回は」


赤い箱を軽く叩く。


「全部、本当に見せます」


鳩。


箱。


中。


空洞。


底。


側面。


冥理ちゃんは箱をひっくり返す。


何も落ちない。


元へ戻す。


鳩を入れる。


蓋。


閉じる。


「種も」


留め金。


一つ。


「仕掛けも」


二つ目。


「あります」


真意ちゃんが顔を上げた。


冥理ちゃんは満面の笑顔。


「普通の手品ですから!」


「そこは『ありません』でしょう」


「嘘はいけません」


「奇術師が言う?」


「奇術師だからです!」


ステッキ。


一振り。


布。


箱へ。


かぶせる。


廊下の空調で。


布の端が。


わずかに揺れた。


冥理ちゃんが。


指。


鳴らす。


ぱちん。


布。


取る。


箱。


開く。


空。


鳩。


いない。


「……」


真意ちゃんが箱を見る。


「普通?」


「普通です」


「どこへ」


「秘密」


「調べていい?」


「どうぞ」


真意ちゃん。


虫眼鏡。


箱。


【木製箱】


【内部:空】


【異常改変:なし】


冥理ちゃん。


【能力使用:なし】


真意ちゃんが。


ゆっくり虫眼鏡を下ろす。


「本当に普通」


「でしょう?」


「鳩は」


冥理ちゃんは。


何も言わない。


その代わり。


帽子。


とん。


叩く。


中から。


ぽっ。


鳩。


真意ちゃん。


「帽子に移した?」


「はい」


「どうやって」


「手品です」


「今までで一番まとも」


「褒められました!」


---


拍手。


パチン。


一回。


廊下。


空気が。


変わった。


真意ちゃんの肩が僅かに硬くなる。


冥理ちゃんは。


頭を下げた。


「ありがとうございます」


「……来た」


「はい」


白い椅子。


ない。


黒い観測経路。


ない。


虫眼鏡を使わなくても。


分かる。


見られている。


冥理ちゃんは次のカードを持つ。


「では」


三枚。


広げる。


「次です」


真意ちゃんが小声で言う。


「続けるの?」


「そのために始めました」


カード。


赤。


黒。


ジョーカー。


表を。


見せる。


裏返す。


混ぜる。


速い。


指先。


乾いた摩擦音。


一枚。


真意ちゃんへ。


「どうぞ」


「私?」


「お好きなものを」


真意ちゃんが一枚抜く。


ジョーカー。


「当たり」


冥理ちゃんが笑う。


「正解は決めてないでしょう」


「はい」


「じゃあ当たりじゃない」


「今、決めました」


真意ちゃんが一瞬止まる。


冥理ちゃん。


笑顔。


「能力じゃありませんよ」


「……」


「手品師の口です」


「紛らわしい」


「重要なんです」


冥理ちゃんはカードを回収した。


「正解なんて」


三枚。


重ねる。


「後から決めてもいい」


真意ちゃんが。


冥理ちゃんを見る。


その瞬間。


パチン。


二度目。


拍手。


---


冥理ちゃんの手が止まった。


ほんの。


半秒。


真意ちゃんは見逃さない。


「今の」


「はい」


「狙った?」


「半分」


「半分?」


「お客様に」


冥理ちゃん。


カードを箱へ戻す。


「見てほしかったんです」


「何を」


冥理ちゃんが。


第七舞台へ背を向ける。


完全に。


「正解を」


一歩。


真意ちゃんの側へ。


「作らなくても」


また一歩。


「手品はできます」


真意ちゃん。


理解する。


観客が学んだのは。


選択。


確定。


因果。


観測。


隠蔽。


全部。


冥理の超常の側。


だから。


冥理ちゃんは。


それを。


使わない。


「能力じゃない冥理を」


真意ちゃんが言いかける。


「言わなくていいですよ」


冥理ちゃんが遮った。


笑っている。


でも。


真意ちゃんの言葉を。


珍しく。


先に止めた。


「説明すると」


冥理ちゃん。


鳩の頭を。


指で一度撫でる。


「また、問題になります」


真意ちゃんは。


黙った。


その沈黙へ。


三度目。


拍手。


パチン。


---


直後。


第七舞台の扉。


一度だけ。


鳴った。


コン。


二人。


振り返らない。


コン。


もう一度。


冥理ちゃんの鳩が。


羽を膨らませる。


真意ちゃんが。


扉を見ないまま。


「中」


「はい」


「反応してる」


冥理ちゃんは。


ステッキを握った。


でも。


使わない。


コン。


三回目。


その直後。


廊下の照明。


一つ。


消える。


端から。


一灯。


次。


一灯。


こちらへ。


向かってくる。


「冥理ちゃん」


「はい」


「観客?」


「分かりません」


さらに。


一灯。


暗闇。


近づく。


以前なら。


隠される。


消される。


何かが。


見えなくなる。


冥理ちゃんは。


赤い箱を。


廊下の中央へ蹴った。


箱。


滑る。


暗闇との間。


止まる。


「何してるの」


「舞台を広げます」


「は?」


冥理ちゃんが。


声を張った。


「さあ!」


一礼。


「次の演目です!」


照明。


止まる。


暗闇。


箱まで。


あと一灯。


冥理ちゃん。


箱。


指す。


「こちらをご覧ください!」


真意ちゃん。


「本当に誘導する気?」


「今度は」


冥理ちゃん。


笑う。


「堂々と」


暗闇の端。


ちら。


白い何か。


真意ちゃんの指。


虫眼鏡へ。


行きそうになる。


止める。


見ない。


冥理ちゃんは。


銀貨を一枚。


高く。


投げた。


回転。


光。


落下。


箱の上。


カン。


鳴る。


「消えます!」


冥理ちゃん。


手。


かぶせる。


離す。


銀貨。


ない。


パチン。


拍手。


今度は。


すぐ近く。


そして。


照明。


一つ。


戻る。


次。


戻る。


暗闇が。


後退していく。


「……効いてる」


真意ちゃん。


冥理ちゃん。


笑う。


「見たいものがあるなら」


次の銀貨。


「見せてあげればいいんです」


---


銀貨。


カード。


鳩。


ハンカチ。


小箱。


くだらない。


普通の。


手品。


一つ終わるたび。


照明が戻る。


観客は。


それを。


見る。


第七舞台を。


見ない。


少なくとも。


今は。


最後。


冥理ちゃん。


帽子を脱ぐ。


「それでは」


底。


見せる。


空。


「最後の演目」


真意ちゃんが見る。


冥理ちゃんの手。


僅かに。


震えている。


疲労。


ではない。


次に。


何を見せるか。


考えている。


観客を。


飽きさせないために。


観客を。


第七舞台へ戻さないために。


延々。


手品を続けるつもりだった。


「冥理ちゃん」


「はい?」


「終わり」


「まだできますよ」


「終わり」


「でも」


「それ」


真意ちゃん。


冥理ちゃんの手首を掴む。


「いつまでやる気」


冥理ちゃん。


答えない。


「一晩?」


「……」


「一週間?」


「……」


「ずっと?」


冥理ちゃん。


笑う。


それで。


十分だった。


真意ちゃんが。


帽子を奪った。


「終わり」


「真意ちゃん」


「これは」


帽子。


抱える。


「あなた一人が隠す話じゃない」


冥理ちゃんが。


珍しく。


すぐには取り返さない。


廊下。


静か。


拍手。


ない。


真意ちゃんは。


第七舞台を。


見ない。


「帰る」


一拍。


冥理ちゃん。


「はい」


---


二人。


歩き出す。


赤い箱。


そのまま。


カード。


銀貨。


ハンカチ。


全部。


散らしたまま。


冥理ちゃんが。


三歩。


歩いて。


振り返りそうになる。


真意ちゃんが。


袖を引く。


「見ない」


冥理ちゃん。


前を向く。


「片付けが」


「後」


「カードが」


「後」


「鳩が」


ぽっ。


帽子の中。


真意ちゃんの腕から。


鳴く。


「連れてる」


「良かったです」


二人。


角。


曲がる。


その瞬間。


第七舞台前。


誰もいない。


赤い箱。


カード。


銀貨。


ハンカチ。


普通の手品道具。


その向こう。


扉。


閉じたまま。


しばらく。


何も起きない。


やがて。


赤い箱の蓋が。


ひとりでに。


開く。


中。


一枚。


カード。


冥理ちゃんが。


入れていない。


白紙。


そこへ。


文字。


浮かぶ。


もっと見せてください。


少し。


間。


その文字の上へ。


別の筆跡。


一本。


黒い線。


横切る。


消す。


代わりに。


一行。


今日は、もう終わりです。


その下。


さらに。


小さく。


また明日。


---


翌朝。


冥理ちゃんは。


第七舞台前で。


赤い箱を拾った。


カード。


一枚。


中。


真意ちゃんが。


横から見る。


「何て書いてある?」


冥理ちゃん。


しばらく。


黙る。


カードを。


裏返す。


「内緒です」


「見せて」


「嫌です」


「調査」


「駄目です」


「冥理ちゃん」


冥理ちゃんは。


カードを。


胸元へ。


隠した。


「これは」


少しだけ。


嬉しそうに。


「私宛ですから」


真意ちゃん。


眉間に皺。


「……勝手にしなさい」


「はい!」


歩き出す。


冥理ちゃん。


追う。


真意ちゃん。


振り返らない。


冥理ちゃんは。


カードを。


もう一度だけ。


見る。


また明日。


その文字。


端。


小さな。


黒い指紋。


一つ。


冥理ちゃんは。


それを。


指で消さなかった。


---


【公演記録 No.012】


結果:


第七舞台への観測集中を、通常奇術によって一時的に逸らすことに成功。


因果改変。


空間操作。


未使用。


観客は。


超常現象だけを求めているわけではない可能性。


ただし。


終了後。


第七舞台前に残した道具内部へ。


未知のカードが出現。


記載内容:


未記録。


冥理が。


記録を拒否。


本物だったか:


__________


真意は。


その空欄だけを書き。


ペンを置いた。


今回。


追及しなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。