第10話「見ないでと言ったのは、誰ですか?」
【公演記録 No.010】
演目:非観測実験
会場:ぱんでむ・劇場区画 第七舞台前
観客:不明
出演者:冥理/真意
第三者:存在確認のみ
使用トリック:MetadataVision / 不明
本人の認識:調査
本物だったか:
__________
備考:
本公演では、舞台内部へ立ち入っていない。
追記:
内部に存在する何者かも、公演へ参加していない可能性がある。
追加追記:
そもそも。
参加しないこと自体が。
今回の目的だった可能性がある。
「開けません」
真意ちゃんが。
言った。
第七舞台。
扉。
正面。
冥理ちゃん。
「はい」
「絶対に」
「はい」
「何があっても」
「はい」
「『見ないでください』って言われたから」
「はい」
真意ちゃん。
冥理ちゃんを見る。
「素直ね」
「私だって」
冥理ちゃん。
胸。
張る。
「言うことを聞く時はあります!」
「そこを誇るな」
「重要ですよ?」
「普段からやって」
「善処します!」
「信用できない返事」
第七舞台。
封鎖。
七日目。
箱。
未開封。
内部。
未観測。
そして。
昨日。
観客とは。
異なる可能性のある声。
見ないでください。
誰か。
いる。
ただし。
その存在は。
今までの観客とは。
挙動が違う。
観客。
未確定を。
観る。
選択する。
確定させる。
あるいは。
確定する瞬間を。
求める。
一方。
昨日の声は。
見ないで。
真逆。
「真意ちゃん」
「何」
「仮称を付けません?」
「嫌」
「不便ですよ」
「名前を付けると」
真意ちゃん。
扉を見る。
「定義になる」
冥理ちゃん。
少し。
目を細める。
「第八話以降」
「そう」
「名前も危ない」
「少なくとも」
真意ちゃん。
「こっちが勝手に決めない方がいい」
冥理ちゃん。
「では」
少し。
考える。
「声の方」
真意ちゃん。
「それなら暫定」
「声の方」
「うん」
「味気ない」
「安全性優先」
「手品師には厳しい世界です」
「元からよ」
検証。
第一。
呼びかける。
扉。
開けない。
「中にいる方」
真意ちゃん。
声。
掛ける。
返事。
なし。
「昨日」
「見ないでください、と言いましたね」
沈黙。
「こちらは」
真意ちゃん。
続ける。
「開けません」
「観測もしません」
「箱にも触れません」
「あなたを」
少し。
言葉。
選ぶ。
「確認しません」
静寂。
冥理ちゃんが。
小声。
「丁寧ですね」
「黙って」
「はい」
真意ちゃん。
「ただ」
「質問があります」
返事。
なし。
「観客を」
一拍。
「知っていますか?」
沈黙。
十秒。
二十秒。
三十秒。
何も。
「答えませんね」
冥理ちゃん。
「答えなくていい」
真意ちゃん。
「え?」
冥理ちゃん。
扉を見る。
「答えたら」
少し。
笑う。
「観測になります」
真意ちゃん。
止まる。
「……」
確かに。
声。
意味。
応答。
情報。
全部。
観測。
真意ちゃん。
「じゃあ」
「質問そのものが」
「負担かもしれません」
「やめる」
即答。
冥理ちゃん。
少し。
驚く。
「早い」
「今は」
真意ちゃん。
「相手の目的が」
「未確定を守ることなら」
「こっちから定義を迫る方が危険」
冥理ちゃん。
「賛成です」
二人。
何も。
しない。
一分。
二分。
三分。
その時。
扉の下。
すっ。
紙。
一枚。
出てくる。
二人。
見る。
白紙。
冥理ちゃん。
「手紙?」
真意ちゃん。
「触らない」
紙。
そのまま。
十秒。
文字。
浮かぶ。
ありがとうございます。
真意ちゃん。
息。
止まる。
冥理ちゃん。
「……」
二人とも。
黙る。
紙。
さらに。
質問には答えられません。
その下。
答えると、決まってしまいます。
真意ちゃんの。
顔。
変わる。
「やっぱり」
冥理ちゃん。
「知ってる」
「うん」
「観測と確定の関係を」
「知ってる」
紙。
続き。
なので、私についても聞かないでください。
冥理ちゃん。
小さく。
「徹底してますね」
真意ちゃん。
紙を見る。
「自分のことまで」
「決めたくない?」
「あるいは」
真意ちゃん。
「決められたくない」
紙。
最後。
一行。
箱は開けないでください。
それだけ。
真意ちゃん。
「理由は」
言いかけ。
止まる。
冥理ちゃん。
見る。
「聞かない」
「はい」
紙。
動かない。
「……」
真意ちゃん。
少し。
考える。
それから。
ノート。
開く。
書く。
確認事項
声の方。
自己定義回避。
回答回避。
箱開封拒否。
観客の存在を直接否定も肯定もしない。
推定。
未確定状態の維持を望む。
真意ちゃん。
ペン。
止める。
「推定も」
冥理ちゃん。
「危ないですか?」
「可能性として書く」
「断定しない」
「うん」
紙。
一行。
追加。
その書き方なら大丈夫です。
二人。
固まる。
真意ちゃん。
ノート。
見る。
紙。
見る。
「……」
冥理ちゃん。
「見えてますね」
真意ちゃん。
「何を?」
「真意ちゃんのノート」
「観測されてる?」
紙。
読んでいます。
真意ちゃん。
「……」
冥理ちゃん。
「礼儀正しい」
「そこじゃない」
紙。
すみません。
冥理ちゃん。
吹き出す。
真意ちゃん。
「笑うな!」
「謝りましたよ」
「読まれてるのよ!」
「でも」
冥理ちゃん。
「観客と違って」
紙。
見る。
「こちらの都合を考えてます」
真意ちゃん。
黙る。
確かに。
それが。
一番。
違う。
観客。
こちらを。
学習する。
選択させる。
確定させる。
声の方。
こちらへ。
説明する。
ただし。
自分を。
確定しない範囲で。
第二。
接触制限。
真意ちゃん。
紙へ。
書く。
こちらから触れない方がいいですか?
返事。
すぐ。
はい。
ただし、危険だからではありません。
真意ちゃん。
「理由は聞かない」
紙。
助かります。
冥理ちゃん。
「かなり会話できますね」
真意ちゃん。
「でも」
「はい」
「自由に答えられるわけじゃない」
「質問形式も」
「選ばないといけない」
真意ちゃん。
「こちらが聞いた時点で」
「選択肢を狭める」
「そうですね」
紙。
その理解で合っています。
真意ちゃん。
さらに。
慎重。
書く。
あなたは、こちらへ危害を加える意図がありますか?
返事。
止まる。
十秒。
二十。
文字。
出ない。
真意ちゃん。
「まずい質問?」
紙。
その質問にも答えない方がいいです。
冥理ちゃん。
「危害を加える可能性まで未確定?」
真意ちゃん。
「言わないで」
遅い。
紙。
文字。
揺れる。
そして。
可能性が追加されました。
冥理ちゃん。
固まる。
真意ちゃん。
ゆっくり。
冥理ちゃんを見る。
「……」
冥理ちゃん。
「申し訳ございません」
「今」
真意ちゃん。
「最悪のことしたの分かってる?」
「はい」
「存在してなかった可能性を」
「追加しました」
「危害を加える可能性を!」
冥理ちゃん。
深々。
頭。
下げる。
「本当にすみません!」
紙。
大丈夫です。
その下。
まだ選んでいません。
真意ちゃん。
「……」
冥理ちゃん。
「選べるんですね」
真意ちゃん。
「黙って」
「はい」
紙。
一行。
冥理ちゃんも悪くありません。
冥理ちゃん。
顔。
上げる。
「優しい!」
真意ちゃん。
「懐くな!」
紙。
消える。
文字。
白紙へ。
戻る。
その瞬間。
遠く。
パチン。
拍手。
一回。
二人。
凍る。
廊下。
観客タグ。
現れる。
【観客】
一つ。
十メートル。
先。
誰も。
いない。
紙。
第七舞台の。
下。
動く。
新しい文字。
来ました。
真意ちゃん。
虫眼鏡。
観客。
【観測対象:第七舞台】
「まずい」
冥理ちゃん。
「何を見てます?」
「舞台」
紙。
見せないでください。
真意ちゃん。
「どうやって?」
紙。
返事。
なし。
観客。
【観測対象:第七舞台】
さらに。
深く。
【目的:未確定結果】
「箱」
真意ちゃん。
「見ようとしてる」
冥理ちゃん。
「止めます?」
「手品は使わない」
「はい」
観客。
移動。
一歩。
二歩。
姿。
ない。
でも。
タグ。
近づく。
「扉まで」
真意ちゃん。
「五メートル」
紙。
震える。
お願いです。
「分かってる!」
真意ちゃん。
前。
立つ。
第七舞台。
扉。
背中。
観客。
正面。
見えない。
「真意ちゃん」
「何」
「どうします?」
「見せない」
「具体的には?」
「私を見るようにする」
冥理ちゃん。
止まる。
「……」
真意ちゃん。
観客へ。
虫眼鏡。
【観測対象:第七舞台】
「観測対象を」
「変える?」
「そう」
冥理ちゃん。
「危険では?」
「第8話で私を見てた」
「はい」
「今さら」
真意ちゃん。
一歩。
前。
「追加じゃない」
観客。
タグ。
揺れる。
【観測対象:第七舞台】
【候補:真意】
冥理ちゃん。
「候補に入りました」
「見えてる」
「では」
冥理ちゃん。
真意ちゃんの。
横。
立つ。
「私も」
真意ちゃん。
「何してるの」
「候補」
【候補:冥理】
「増やすな!」
「分散です!」
「そういう問題じゃない!」
紙。
下。
やめてください。
二人。
止まる。
文字。
さらに。
あなたたちを使って隠す必要はありません。
真意ちゃん。
「じゃあどうするの!」
紙。
一行。
見えなくします。
冥理ちゃん。
「何を?」
その瞬間。
第七舞台。
消えた。
壁。
だった。
扉。
ない。
封印紙。
ない。
第七舞台の。
入口が。
あった場所。
普通の壁。
真意ちゃん。
目。
見開く。
「……」
冥理ちゃん。
「消しました?」
「私じゃない」
真意ちゃん。
虫眼鏡。
壁。
【壁】
【店舗内装】
【構造壁】
第七舞台。
タグ。
ない。
廊下。
地図。
確認。
第七舞台。
ない。
「……」
冥理ちゃん。
「本当に」
「消えてる」
「観測外じゃない」
「存在登録から」
真意ちゃん。
「外れてる」
観客。
タグ。
止まる。
【観測対象:____】
空欄。
パチン。
拍手。
一回。
次。
【観測対象:真意】
真意ちゃん。
「こっち来た!」
冥理ちゃん。
「作戦成功!」
「喜ぶな!」
観客。
近づく。
真意ちゃん。
虫眼鏡。
構える。
だが。
紙。
ない。
第七舞台。
ない。
声の方。
反応。
なし。
「冥理ちゃん」
「はい」
「走る」
「はい!」
二人。
走る。
観客。
追う。
廊下。
曲がる。
階段。
下。
厨房横。
観客。
距離。
縮まらない。
離れない。
一定。
「何これ!」
真意ちゃん。
「観てるだけです!」
冥理ちゃん。
「知ってる!」
「追いかけてはいない?」
真意ちゃん。
止まる。
観客。
止まる。
距離。
一定。
「……」
冥理ちゃんも。
止まる。
「本当に」
「追ってない」
「では」
冥理ちゃん。
一歩。
戻る。
観客。
タグ。
位置。
動かない。
「観測対象だけ」
真意ちゃん。
「私」
「距離は」
「関係ない」
冥理ちゃん。
「見られてますね」
真意ちゃん。
「最悪」
その時。
館内。
全部の照明。
消える。
真っ暗。
真意ちゃん。
「冥理ちゃん」
「います」
「動かないで」
「はい」
五秒。
十秒。
非常灯。
点く。
赤。
廊下。
観客タグ。
消えている。
「……」
真意ちゃん。
「いない?」
冥理ちゃん。
「それとも」
「見えないだけ?」
その言葉。
二人。
黙る。
天井。
スピーカー。
知らない。
あの声。
「今です」
真意ちゃん。
顔。
上げる。
「何が?」
「戻します」
一秒。
二秒。
館内。
照明。
復旧。
遠く。
どこか。
カチャン。
扉。
開くような。
音。
二人。
第七舞台。
方向。
走る。
曲がる。
扉。
ある。
封印。
そのまま。
白い紙。
一枚。
観客による観測禁止
戻っている。
真意ちゃん。
「どうやったの」
返事。
なし。
冥理ちゃん。
「聞かない」
「……そうね」
真意ちゃん。
理解。
する。
今の。
異常。
声の方。
舞台。
消した。
観客。
目的。
失った。
観測対象。
真意へ。
変わる。
照明。
消す。
観測。
切る。
その間に。
舞台。
戻す。
「……」
真意ちゃん。
扉。
見る。
「観測を」
「操作してる?」
冥理ちゃん。
「私と」
一拍。
「似ていますね」
真意ちゃん。
振り返る。
「どこが」
「私」
冥理ちゃん。
笑う。
「見せるものを変えるでしょう?」
カード。
鳩。
箱。
手。
視線。
誘導。
「手品は」
「観客に」
「見てほしいものだけ見せる」
真意ちゃん。
扉。
見る。
「声の方は」
「逆」
冥理ちゃん。
「見せたくないものを」
「見えなくする」
「はい」
真意ちゃん。
虫眼鏡。
扉。
その向こう。
読めない。
「あなたが」
「見せる奇術師なら」
冥理ちゃん。
少し。
考える。
「こちらは」
言葉。
選ぶ。
「隠す方?」
真意ちゃん。
「呼び名にしないで」
「概念です」
「それでも」
「はい」
夜。
調査室。
真意ちゃん。
記録。
【公演記録 No.010】
新規確認事項。
声の方。
観測阻害能力。
第七舞台を、一時的に認識・登録・参照対象から外した。
その後。
館内照明を停止。
観客による観測を一時切断した可能性。
ただし。
方法。
能力。
存在形式。
一切不明。
重要。
声の方は。
観客へ対抗している。
少なくとも。
第七舞台内部の未確定結果を。
観客へ見せたくない。
理由。
不明。
真意ちゃん。
書く。
対立構造?
その横。
すぐ。
未確定。
下。
声の方=味方?
止まる。
消す。
味方と断定しない。
さらに。
観客=敵?
消す。
敵と断定しない。
真意ちゃん。
ペン。
置く。
「……」
分からない。
観客は。
攻撃していない。
ただ。
見る。
声の方も。
攻撃していない。
ただ。
見せない。
両方。
目的。
違う。
「誰が」
真意ちゃん。
呟く。
「正しいの」
返事。
なし。
その時。
背後。
「正しいとかじゃないんじゃないです?」
真意ちゃん。
振り返る。
冥理ちゃん。
入口。
「ノック!」
「しました!」
「聞こえなかった!」
「三回しました!」
「……」
冥理ちゃん。
部屋。
入る。
「観客は」
椅子。
座る。
「見たい」
「うん」
「声の方は」
「見せたくない」
「うん」
冥理ちゃん。
机。
ノート。
見ない。
「それだけかもしれません」
真意ちゃん。
「だから調べてる」
「はい」
「理由がある」
「でしょうね」
冥理ちゃん。
少し。
笑う。
「でも」
「何」
「手品だって」
帽子。
外す。
「観客はタネを見たい」
「奇術師は見せたくない」
真意ちゃん。
止まる。
冥理ちゃん。
「どちらが悪いとか」
笑う。
「そういう話じゃないでしょう?」
真意ちゃん。
「……」
第10話。
見せる。
見ない。
観測。
隠蔽。
タネ。
奇術。
「冥理ちゃん」
「はい」
「もし」
真意ちゃん。
「声の方が」
言葉。
選ぶ。
「奇術師側だったら?」
冥理ちゃん。
笑顔。
少し。
止まる。
「誰の?」
沈黙。
真意ちゃん。
その先。
言わない。
冥理ちゃんも。
聞かない。
二人。
同じ。
考え。
頭に。
浮かぶ。
第七舞台。
箱。
未確定。
観客。
そして。
その中に。
いる。
声の方。
誰の。
何を。
隠している。
深夜。
第七舞台。
扉。
封鎖。
誰も。
いない。
中。
箱。
一つ。
誰にも。
見られていない。
そのそば。
白い椅子。
一脚。
ただし。
座面。
沈んでいない。
誰も。
座っていない。
暗闇。
しばらく。
何も。
動かない。
そして。
声。
小さく。
「まだ」
誰も。
聞いていない。
「駄目です」
箱。
動かない。
「まだ」
声。
少し。
震える。
「見つかってはいけない」
その時。
箱の中。
コン。
一回。
何か。
叩く。
声。
止まる。
箱。
もう一度。
コン。
コン。
二回。
そして。
小さな。
鳩の声。
ぽっ。
声。
少し。
笑う。
「大丈夫」
一拍。
「まだ」
その先。
声。
聞こえない。
箱。
隣。
床。
一枚。
カード。
いつの間にか。
落ちている。
表。
ジョーカー。
裏。
文字。
第八問
しばらく。
誰も。
見ない。
だから。
問題文は。
まだ。
ない。
ただ。
カードの。
一番下。
小さく。
一行。
出題者:____
空欄。
さらに。
その下。
別の筆跡。
まだ書かないで。
【公演記録 No.010・最終追記】
現在確認されている構造。
冥理。
奇術を行う。
観客。
未確定を観測する。
声の方。
観測を妨害する。
真意。
それらを調べる。
ただし。
この四者のうち。
誰が。
最初に。
存在したのか。
誰が。
誰のために。
生まれたのか。
現在。
一切。
不明。
最重要事項。
観客は。
タネを探している可能性がある。
声の方は。
タネを隠している可能性がある。
そして。
冥理本人は。
自分の最初の奇術を。
知らない。
本物だったか:
__________
その空欄は。
今日も。
埋まらなかった。
ただし。
今夜。
その横に。
小さな。
指紋が。
一つ。
残っていた。
真意のものでも。
冥理のものでも。
なかった。




