↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
町々  作者: 賽藤点野
PR
15/28

夜窓の町

 暗闇に一つの四角形が浮かび上がる。

 四角形は白く、少しオレンジ掛かった光をぼんやりと放っている。形は直方体だが、真ん中に一本の黒い線が引かれ、二つの正方形に分けられている。

 正方形の一つに大きな影が浮かび、もう一方の正方形に小さな影が浮かぶ。小さな影はゆらゆら左右に動き落ち着きがないが、大きな影の動きは少なく、どっしりと構えている。

 あれは人影だろうか。大人の影と子供の影。親子同士で会話をしているのだろうか。

 私がその四角形の観察をしている内に、暗闇にはもう一つ、さらに一つと、次々に新しい四角形が浮かび上がってくる。ある一定の塊で同じ大きさをしており、横にも縦にも均等に並んでいる。気が付けば暗闇は、四角形で構成されたステンドグラスのように照らし出された。

 だが私は知っている。あれはステンドグラスではなく、ただの窓ガラスだということを。

 私の目の前には町がある。大きなビルやマンションが立ち並ぶ、近代的で無骨な町並みが。今夜の闇を照らしているこの四角形たちは、それらの建物の部屋の明かりが照らし出す窓である。

 なぜ私がこんな夜中に窓明かりを外から眺めているのか、その理由は簡単だ。入ることが出来なかったのだ、この町に。

 しかしそれは町の人々が冷酷だからでも、余所者を嫌っているからでもない。単純に私がここに来るのが遅すぎただけである。

 この町には「門」が備わっており、町への来訪者を厳しく取り締まっている。そして門が開かれている時間も決められており、私がここに到着する一時間も前に、門は閉じられていた。夜警の門番にいくら交渉しても梨(なし)の礫(つぶて)で、私は泣く泣く、門が開かれる朝まで町の外に待機するしかなかったわけだ。

 今時珍しいくらい防犯意識の高い町だ。だからこそここまで大きな建物が残り、住民も多いと言えるのだが。しかし手提げ鞄と小さな折り畳み机しか持ち合わせてない旅人に、そこまでの脅威があるのだろうか。

 愚痴を言ってても始まらないため、私は近くの小高い丘に陣を取り、そこで一晩を明かすことにした。近くには誰もおらず、マナーの悪い来訪者は私一人のようだ。丘からは町の全貌がよく分かり、遠目に見ると、建物と建物が重なり合い、巨大な一つの立方体にも見えた。

 そして日が暮れ、窓明りのイルミネーションショーが始まった。立体の巨大な箱に見えた町は、今は平面の小さな四角形の集合体となっている。

 窓明かりに照らされているせいか、私は中々眠れずにいた。朝まではまだある。私は時間を潰すため、町の周りをぐるりと歩いてみることにした。

 町の正面から少しずれると、町は夜でも立体だということがよく分かる。町の側面、そこに立つ建物の窓にも電気が点き、四角いステンドグラスを形成している。まるで目が多い光るサイコロを見ているようだ。

 光る四角形の中には、冒頭の親子のような人影が見えるものもある。四角い枠の中で影が動いているのを見ていると、今度はテレビモニターが高く積まれ、そこに流されている映像を見ているような気持になってくる。番組はすべて影絵で構成されており、登場人物はほとんど一人で、多くても三人は超えない。音はなく、動きだけで彼らの生活、年齢層、活発かそうでないかを映し出している。

 親子の多い町だな、と思った。単純に子供ほど窓の近くに寄っていきたい(そして外を歩いている変な旅人を見たい)だけなのかもしれないが、窓には小さな影と、それを見守る大きな影の組み合わせをよく見つけた。

 この町には、孤独じゃない人々が多く暮らしている。そしてその人々が町という大きな集合体を組織し、さらなる賑わいを見せている。夜の無音の光の中でも、私は昼間の喧噪の様子をありありと想像できた。

 私は、この町に入る資格があるのだろうか。

 もちろん朝になれば門は開かれ、門番もまともに相手をしてくれるだろうが、それよりももっと精神的な意味で、この町に私の居場所は無いような、そんな気持ちになってくる。

 今更何を言っているのだろうか。どの町であっても居場所が無いから、私は旅を続けているというのに。

 余計な考えに頭を巡らせながら、私は町の裏側の方へ進んだ。そこは他の面よりも明かりのついている窓の数が少なく、光る四角形は疎(まば)らに配置されている。

 その一角で、ポツンと一つだけ輝く窓の中に、ある人影を見た。

 彼(あるいは彼女)は帽子を被り、手に持った小さな鞄を開いて、中身の整理をしているように見える。

 その家に暮らす人の姿には見えない。おそらく彼も旅人なのだろう。

 彼は恐ろしく無かったのだろうか。この町に入ることが。周囲を賑わいの壁に埋め尽くされることが。

 しばらくその窓だけを眺めていたが、やがて人影は無くなり、窓の明かり自体もフッと消えた。

 その窓だけではなく、他の面の四角形たちも、次々と消えていく。

 やがてすべての四角形が消え去り、町は夜にそびえる黒く巨大な一つの箱に変わった。

 私もそろそろ丘に戻り、朝までひと眠りするとしよう。

 あの大きな門が開く時まで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。