表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あした  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/29

コンビニ前、線を踏み越える夜

コンビニの黄色い看板は、いつもみたいに何も知らない顔して光ってた。


 駐車場の白線がところどころ剥げたアスファルトに、黒い軽と白いワゴンが滑り込む。

 ドンッ、と低い重低音が一瞬鳴って、すぐに亮がボリュームを絞った。


「お、いたいた」


 運転席の亮が、顎でガラスの向こうをしゃくる。


 入口横の灰皿のあたり。

 制服のスカートを短くした女子三人と、パーカー姿の男子二人がたむろってた。


 女子の一人は、同じ学校のブレザー。

 濃紺の上着に、グレーのチェックのスカート。


 髪はウチと同じミルクティー系だけど、もっと巻きが強くて、メイクも盛り盛り。


「あれ、○組の……」


 名前、出てこない。

 廊下ですれ違ったことは何度かあるけど、ちゃんと話したことはない。


 男子の一人は、見覚えない顔。

 小さいピアス。ジャージ。

 もう一人は、ウチらの学校じゃなくて、別の高校のジャージっぽかった。

 手には、それぞれコンビニの袋や、飲みかけのペットボトル。


 何回も見たことある光景。

 それだけ見れば、ただの「夜のダベリ」。

 でも、今夜はひとつだけ違う。


 駐車場の隅に、さっきまでパトカーがいた痕跡みたいなものが残ってる。

 白線の内側に、透明なビニールテープの切れ端が一枚。


 中から出てきた店員の女の人が、ちょっと怯えた顔でレジに戻っていくのが見えた。


「行くか」


 亮がエンジンを切って、ドアを開ける。

 俊と、もう一人の先輩が後ろからついてくる。

 ウチも、少し遅れて助手席から降りた。

 夜風が、ジム帰りの汗の残りを冷やす。

 制服のブレザーの裾がふわっと揺れた。


「おつかれさーん」


 亮が、いつもの調子で手を上げる。

 灰皿の横のギャルたちが、一瞬こっちを見る。


「あ、亮さーん」


 ミルクティー色の長い巻き髪の子が、ちょっと甘えた声を出した。

 あ、こいつ名前思い出した。ナナミだ。

 クラス違うけど、テスト返しのときとかに、たまに教師にイジられてたやつ。


「なにしてんの、こんなとこで」


 亮が、にやっと笑いながら言う。

 ナナミが、ジュースのペットボトルを片手にくるくる回しながら、肩をすくめた。


「べつにー。ダベってただけー」 「だけ。ねえ」


 俊が、わざとらしく灰皿の向こうに視線を投げる。


 コンビニの自動ドアが、カララッと開く。

 中から、見覚えある店長が一瞬こっちを見て、すぐに視線を逸らした。


 胸の奥が、ちょっとだけざわつく。


(……あの人、ウチの中学時代、全部知ってるんだよな)


 からあげ棒と、夜勤の兄ちゃんと、あの冬と。


 亮が、ポケットからタバコを出して火をつける。

 煙がふわっと広がって、コンビニの光を曇らせた。


「さっき中の姉ちゃんビビってたぞ。また来ました〜って」


 男子の一人が、ちょっと面倒くさそうに眉をしかめる。


「は? オレらなんもしてないし」


 ガタイいい方の男子が、ペットボトルを足元に置いて、亮のほうにじりっと一歩出た。

 ナナミが、「やめなよ〜」って腕を引っ張る。


「別に。ただの常連でしょ?なんでいちいちビビんの。マジで意味わかんないんだけど」


 その言い方が、昼間の自分と少し似てて、ちょっと嫌になる。


「なんもしてない?」

 亮が、わざと首をかしげる。

「レジ通さずにポケット入れるの、なんもしてないに入る?」


 一瞬、空気が固まった。

 ナナミが、「は?」って笑う。


「え、なにそれ。誰が言ってんの?」

「中の姉ちゃん」

 亮が、コンビニのガラス越しにレジを指さす。


「あとここの店長。さっき話した」


 男子の顔が、ちょっとだけ強張った。


「マジかよ……チクってんのかよ、あのオッサン」


 小さいピアスのほうが、低い声で吐き捨てる。


「チクるとかじゃねーだろ」


 いつのまにか、ウチの口が勝手に動いてた。

 全員の視線が、こっちに集まる。

 ナナミが、「あ、神崎じゃん」と言った。


「え、マジで。なんでいんの」

「こっちのセリフ」

 ちょっと肩をすくめる。


「アンタこそ、なんでこんな時間にこんなとこでコンビニ荒らししてんの」

「荒らしとか言い方〜」


 ナナミが笑いながら、ペットボトルをストローでちゅーっと吸う。


「ちょっとお菓子もらっただけじゃん。別にさ」

「もらったじゃなくて、盗ったね、それ」

「いちいち正すな〜。うざ〜」


 周りの男子が、じろっとウチをにらむ。


「関係なくね? あんた先生でも警察でもないっしょ」


 ガタイいいほうの男子が、一歩前に出る。

 身長、一八〇はいってる。

 ウチより一五センチはでかい。


「ウチと同じ制服着てる時点で、ちょっとは関係あるわ」


 足を引かなかった。

 自分でも、なんでこんなにムキになってるのかわからない。


 でも、「あのコンビニ」をこれ以上ぐちゃぐちゃにされるの、マジで嫌だった。


 夜中にからあげ棒買ってたあの冬も。

 黄色い看板の下で、初めて名前を褒められたときも。


 あの場所は、一応ウチにとっての「三つ目の居場所」だったんだ。

 勝手に「万引きの名所」にされるの、耐えがたい。


「なに、いい子ちゃんムーブ?」

 ナナミが、わざとらしく肩をすくめる。


「生活指導に目ぇつけられてるくせに〜。ウケるんだけど」

「生活指導とこれ、一緒にすんなよ」


 思わず声が荒くなる。


「遅刻とか授業サボるのとさ。金払わずにモノ持ってくの、一緒にされたら困るし」

「一緒じゃん、どっちも悪いこと〜」

「いや全然違うから」


 いつもなら、「悪いこと? 知らねーし」で流す側なのに。

 今日は、うまく誤魔化せなかった。


「ウチがサボるのと、他人の店のモノパクるの、同じにしないで」


 ナナミの表情が、ちょっとだけ変わる。

 笑ってるけど、目の奥にイラッとした光が入った。


「なにそれ。説教? 神崎にだけは言われたくなーい。あんたも不良側じゃん? 同類でしょ?」

「同類ってさ」


 胸のあたりが、ぐしゃっと掴まれたみたいにきしむ。


「一緒にしないでほしいんだけど」

 言った瞬間、場の温度が一度下がった。

「……は?」

 ナナミの声のトーンが変わる。


 さっきまでの、ちょっとした悪ノリの延長じゃない。

 本気でムカついた人間の声。


「なにそれ」

「なにそれじゃなくて」


 ウチも、もう後戻りきかないところまで踏み込んでるのがわかる。


「ウチ、不良って言われんのは別にいーけどさ。人のもん勝手に盗るやつと一緒の枠には入りたくない」

「……」


 男子二人が、完全に敵の顔になってきたのが視界の端に入った。


「お前さあ」


 ガタイいいほうが、一歩近づいてくる。

 鼻先に、缶コーヒーの甘ったるい匂いがかかった。


「さっきから、いちいちうっせーんだよ。同じ学校だから〜とかマジだりぃ」


 亮が、「まあまあ」と手を挙げる。


「喧嘩しに来たわけじゃねーから。たださ」


 タバコの火を指でもみ消して、言葉を選ぶみたいに間を置いた。


「ガチのお縄案件になる前に、やめとけってだけ」

「お縄って」

「笑いごとじゃねーぞ。万引きなめんなよ。

 防犯カメラ、全部残ってるからな」


 コンビニの入口の上にあるカメラが、こっちをじっと見てる。

 昼間聞いた「パトカーが来てた」って話が、頭の中でぐるぐるする。


「一発で補導とかじゃなくてもさ。学校に話行って、万引き常連ってレッテル貼られて、進路指導のときに一生付きまとってくるんだぞ」


 「進路指導」の三文字に、ウチの胃がまたキュッとする。

 ナナミたちも、さすがにちょっとだけ顔を引きつらせた。


「べつに……」

 ナナミが、わざとらしく笑ってみせる。

「一回二回でそんな大事になんないし〜」


「回数の問題じゃないって」

 気づいたら、またウチが前に出てた。

「一回で、人生詰む子もいるし」

 父親。

 桐沢先輩。

 会長がボソッと漏らした「もう戻ってこなかったあいつ」

 全部が頭の隅をかすめる。


「あんたに何がわかんの」

 ナナミの目が、完全に刺す目になった。

「真面目ぶってさ。自分だって授業サボって、生活指導に呼び出されて。不良の先輩とつるんで、夜な夜なドライブしてんの、みんな知ってんだからね?」


 胸のど真ん中にパンチ入れられたみたいな感覚。

 こっちの情報、どこから回ってんだよ。


「人のもん盗ってないからセーフでーすみたいな顔して、ウチはあんたらとは違いまーすって、マジでムカつく」


 ナナミの言葉が、刃物みたいに飛んでくる。

 図星な部分がゼロじゃないのが、また腹立つ。


「ウチは、別にセーフとか言ってない」

 声が、少し震えた。

「ただ、違うは違うって言ってるだけ」

「一緒だって」


 男子の一人が、鼻で笑う。


「外から見たら、ガラ悪い高校生の集まりでひとくくり。万引きだろーが、ドライブだろーが、ジムだろーが、ぜんぶ一緒」


 それは、生活指導が職員室で言ってた理屈と、ほとんど変わらない。


「だからさ」


 ガタイいいほうが、ウチの肩を片手で押そうとした。

 思わず身を引き左拳が出た。

顔面スレスレで止まる。


「さわんな」


拳の速さに固まったみたいや表情しながら、ひきつり気味にニヤけて言ってきた。


「そんなにウチは違うんで〜って言うならよ。証明してみせろよ」

「なにを」

「お前がどっち側か」

 声が、ちょっと低くなる。

「万引きしてるこっち側か。それとも、そっち側か」


 そっち側って、どっち。

 生活指導? 先生? 警察?

 胸の中で、ざらざらしたものがせり上がってくる。


 亮が、「おいおい、そういうのやめとけって」と間に入ろうとする。


「悪ふざけが一番洒落になんねーからよ」


 ナナミが、面白がって見てるのが視界の端に入る。


「ねえ神崎。アンタさ。そんなに人のもん盗るのは違うって言うならさ」


 ナナミが、コンビニのビニール袋をひょいっと持ち上げた。中身は、お菓子と飲み物。レジ通したレシートは、入ってない。


「入って、ちゃんとお金払ってきました〜って、店員さんの前で言ってきなよ」

「は?」

「それで、あのときの分もちゃんと払います〜って。神崎、正義の味方なんでしょ?」


 男子たちが、にやにや笑う。

 完全に遊ばれてる。


「それとも、できない?」

 ナナミが、少し首をかしげる。

胸の奥で、何かがチリッと燃えた。


 コンビニの自動ドアの向こうに、店長と、若い店員の女の人。

 レジの横に置かれた防犯カメラのモニター。


 ウチの中学時代の残り香みたいなものが、まだあの店には残ってる気がしてた。


(……ウチがやるべきなのかな、これ)

 “やる/やらない”の二択が、喉のところまでせり上がってきて、呼吸が一瞬止まる。


 亮が、横から小声でささやいた。

「無視して帰るなら、今な」

 俊も、肩越しに目で合図してくる。

 「ここで距離取れ」ってサイン。

 でも、足が動かなかった。

 ここで引いたら、多分一生、「あのとき逃げた」って記憶にまとわりつかれる気がした。


 桐沢先輩が、「一回逃げたリングに戻るの怖い」って言ってたのと、似た種類のやつ。

(ウチ、どっち側なんだろ)


 誰かが勝手に決めた線が、足元に引かれてるみたいに見えた。

 その線を、どっちにまたぐか。


「……いいよ」

 気づいたら、口が勝手に答えてた。

 ナナミが、目を丸くする。

「マジで?やべ、ガチじゃん」

「やめとけって」

 亮の声が、一段低くなる。

「これは遊びじゃ済まねーぞ」

「別にウチ、悪いことしに行くわけじゃないし」


 ビニール袋を、ナナミの手からひったくる。


「情けねー奴ら。悪ぶって他人にケツ拭かせるとかマジダセーわ」


自分で言いながら、歩き出した。

 コンビニの自動ドアが、ウィン……と開く。

 中の空気は、外よりちょっとだけ冷たかった。

 レジ越しに、店長の顔と目が合う。

 中二の頃から、何度も見てる、あの無表情な真面目顔。


「あの……」

 喉が、うまく動かない。

「なんだ」

 店長が、少しだけ怪訝そうに眉をひそめる。


 レジの女の人も、こっちを見てる。

 その目の奥に、昼間のパトカーの残像がちらついてるのがわかった。


「……これ、精算してほしいんですけど」


 ビニール袋を、レジ台の上に置いた。

 中身をひとつひとつ出しながら、続ける。


「あと、その……」


 ここからが、本題だ。

 店内のBGMが、やけにうるさく聞こえる。

 防犯カメラのレンズが、天井からこっちをじっと見てる。

 ウチは、拳を握る代わりに、レジ台の端っこをぎゅっと掴んだ。


「……前に、同じやつ何回か……お金出さないで持ってったの、多分あって」


 言葉が、ところどころ千切れながら出ていく。


「それも、まとめて払いたいんですけど」


 一瞬、店内の空気が止まった。

 店長の目が、わずかに見開かれる。

 女の店員さんが、「え……」って、小さく声を漏らした。


「お前が、持ってったのか」


 店長の視線が、ビニール袋からウチに移る。


「……ちがいます」

 そこだけは、はっきり言えた。


「ウチじゃない。でも、ウチと同じ学校の制服着てる子たち」


 入口のガラスの向こうで、ナナミたちの影がうごめいてるのが見えた。


「……はあ」

 店長が、ゆっくり息を吐いた。


「本人連れてこいよ、本当は。なんでお前が」


「同じ学校だから……じゃ、ダメですか」


 自分でも、なんかズレた答え出してるのわかる。


「ウチも、よくここ使ってるし。それに――」


 喉の奥に、昔の声が蘇る。


『ちゃんと帰れよ、明日』

 コンビニの夜勤の兄ちゃん。

 金髪ピアスで、レジ打ってた桐沢先輩。

 もういない人の声を借りるみたいで、ちょっとずるい気もしたけど。


「ここ、潰れたら困るし」


 言った瞬間、自分で自分にびっくりした。

 そんな「町のため」とか「店のため」みたいなこと、今まで一度も本気で考えたことなかったのに。


 店長が、しばらく無言でウチを見てた。

 その視線の重さに、膝が少し震える。


「……まあいい」

 やがて、店長がレジの引き出しを開けた。


「とりあえず、今日のぶんは普通に会計する。前のぶんは、こっちで計算しとく。学校に話す話は……そっちの様子見てからだな」


「学校……」

 胃のあたりがギュッとする。

「お前の顔はもう覚えたからな」

 店長が、ため息まじりに言う。


「神崎明日だったか」

「……はい」

「お前の学校からも、何回か通達来てる。問題児が利用してますってな」


 最悪の情報が、普通に暴露された。


「マジで余計なことすんなよ、先生」


 心の中で机ひっくり返したい気分。

 でも、ここでキレたら、全部台無しになる。


「……ウチ、ちゃんと買いに来るんで」


 レジ台の上に、財布から出した千円札を置く。


「はあ。わかったよ」


 店長が、ビニール袋の中身をピッ、ピッと読み取っていく。

 バーコードの音が、やけにでかく響いた。


「レシートいるか」

「いちおう」


 レシートを受け取って、ビニール袋を持ち直す。

 出口に向かって歩くあいだ、心臓が変なリズムで鳴ってた。


(やったこと自体は、別に悪くないはず)


 そう言い聞かせても、喉の渇きは収まらない。


 自動ドアが開く。外の空気が、一気に入ってくる。


 ナナミたちの視線が、一斉にこっちに集まった。

ウチは、ビニール袋をそのまま足元に置いた。


「払った」

「マジで? やば。ウケるんだけど」


 ナナミが、腹を抱えて笑う。


 「笑ってるけど、お前らがいまここで笑ってられるの、ギリギリのラインだからな。学校に話行くかも」


ナオミの顔が青くなった。


「青くなるくらないなら悪ぶんのやめな」

 

 ナナミが舌打ちみたいに笑う。


「あーもう、つまんない夜〜。行こ」


 男子二人と一緒に、ナナミたちはコンビニから離れていく。

 ヒールの音と、笑い声と、「マジ神崎ウケるんだけどー」って声が、だんだん小さくなっていった。


 残された駐車場に、ウチと亮たちだけが取り残される。


 ビニール袋の取っ手を、亮がひょいと持ち上げた。


「お疲れ。よくやったな」

「別に」

 いつもの言葉が、半分くらいしか効かない。


「マジで、殴る寸前だったろ、お前」


 俊が、苦笑いしながら言う。


「見ててヒヤヒヤしたわ」

「……殴ってもよかったけど」


 正直なところ、拳はずっとウズウズしてた。


「でも、ここじゃないし」


 ここは、あのコンビニ。

 殴り合う場所じゃなくて、ウチにからあげ棒くれた場所だ。


 亮が、ふっと笑う。


「えらいえらい。リングの外では、なるべく殴んないってやつな」

「会長も同じこと言ってた」


「にしてもさ」

 少しだけ真面目なトーンになる。

「不良ってさ。こういうとき、普通は見て見ぬふりすんのが一番楽なんだよ」


 俊が、ポケットに手を突っ込みながら続ける。


「自分も同じ穴のムジナだし〜って顔しときゃさ。誰も本気で責めねーし」

「なのに、お前はわざわざ白黒つけに突っ込んでったからな」


 亮が、ウチの頭をぽん、と軽くはたいた。


「そういうの、マジ嫌いじゃない」

「褒めてんの、それ」

「褒めてるって」


 車のエンジンが、また低く唸る。


「送ってく。今日はもう、変なとこ顔出さなくていいだろ」

「うん」


 素直にうなずけた。

 助手席に乗り込むとき、ちらっとコンビニの中を振り返る。

 店長と目が合った。

 さっきより、ほんの少しだけ柔らかい顔になってた気がする。


 桐沢先輩がいたレジの前。

 からあげ棒のケース。

 ホットスナックの湯気。

 全部が、少しだけ違って見えた。


(……ウチは、どっち側なんだろうね)


 フロントガラスの向こうで、夜のネオンが流れ始める。


 「不良側」とか、「真面目側」とか。


 そんな雑な二分けじゃ切り取れないところに、自分が立ってるのを、嫌でも意識させられた夜だった。

 車が角を曲がるとき、コンビニの黄色い看板が、小さくなっていく。

 心のどっかで、小さく呟いた。


(あの店、もう、どうでもいいって言えないな)


 口には出さない。

 出したら、負けた気がするから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ