君への愛を世界に叫ぶ
12
飛翔発動、アンジェラの意志に応え己の魂という記憶装置にして演算装置が、宇宙の法則に割り込む。
ロラッドから投げ出された彼女の身体が、重力を無視して宙に停滞。
アトラスが四肢に力を込め咆哮した。アンジェラが墜落しなかったことを怒るように。
あるいは、そう易々と死なれて堪るか、想像を絶する苦痛を与えてやると喜ぶように――突如、その全身から突起が飛び出した。まるで海栗のような有様だ。
――ッ! アンジェラは舌打ちしたい気分になる。突起の一つ一つが、戦車の主砲に匹敵する直径を持った砲身だったからだ。
銃口火が線香花火に思えるほどの焔が、全身から噴出。火山の噴火に匹敵する光景だ。砲弾がアンジェラに目掛け殺到する。
急上昇してそれらを回避。避け切れない分は、手のひらから衝撃波を放って破壊する。
敵は攻撃の手を弛めない。肩から腕にかけて、砲身とは別に穴が空いた。そこから、無数のミサイルが射出される。
それはかつて超大国が他国を蹂躙するときに見せた圧倒的な火力を連想させる。
たった一人の人間――「だった者」を殺すために尋常ならざる量の火器を投入していた。
そんなにあたしが憎い……?――アンジェラは縦横無尽に空を駈けて回避しながらも、愛する人がかつて造ったオートマータに胸のうちで問いかける。
届くはずがない。口に出した言葉さえ、相手は聞き入れないのだ。それでも、発さずにはいられない問いだった。
彼女には、ベルフェゴールの気持ちが理解できる。解消することのできない負の感情に苛まれながら生きることの苦しさが。
――躱し切れたのは最初の数分だけだった。轟音が途切れることなく響き、まるで世界そのものが焔に包まれてしまったかのように紅く染まる、それだけアトラスの攻撃は苛烈だ。
――砲弾の爆発の焔に、アンジェラの右二の腕が巻き込まれた。
「ヒ、ぐッ!」苦痛の呻きが食い縛った歯の間から漏れる。
例え不死であっても、苦痛を感じない訳ではない。倉庫の戦闘では、弟子を心配させまいとそんな様子をおくびにも出さなかったのだ。
更に砲撃の爆発で膝下を吹き飛ぶ。常人ならとうにショック死している程の苦痛を味わいながらも、彼女は飛翔を続行。
アンジェラはベルフェゴールを救いたい。殺すことで、憎悪の呪縛から解き放つ、そのつもりでいる。
「そのために、あたしは死ねないのよ!」彼女は雄叫びを上げ、自らを鼓舞した。
だが、それから数分後……
大量の出血で、アンジェラは視界が暗くなりつつ事実を認める。骨や肉に比べ、血液の再生速度は遅い。だから、怪我を負い続けると血が足りなくなってくるのだ。
このままでは拙い。早晩、動きが鈍り敵の手に捉えられてしまう。
そこで、彼女は戦法を変えた。飛来するミサイルと砲弾の群れへと突進。弾丸の如き勢いで飛び、すれすれのところで凶弾を免れた。
そのまま、アトラスへと接近しようとする。刹那、アンジェラの視界は影に覆われていた。
その瞬間になって気づく。アトラスの平手打ちが自分を捉えようとしているのだと。それ故、視界が影に包まれた。
直後、全身の骨という骨が粉砕され、内臓が軒並み破裂する。激痛に意識が飛んだ……
「――ッ!」闇に沈んでいたアンジェラの意識が急浮上する。
彼女を目覚めさせたのは、苦痛の嵐だった。焼きごてを肩から指先にかけて押し当てられているような痛みが彼女を襲っている。
瞼を開けたアンジェラの視界に飛び込んできたのは、自分の腕をアトラスがゆっくりと力を込め引き千切ろうとしている光景だ。
子供が虫の手足を引き抜こうとするように、執拗さと残酷さをもってその行為は行われている。そこから、ベルフェゴールの偏執的な憎悪が透けて見えた。
「――ァァアアアアアアアアアアアアアアアァ!」
アンジェラの口から悲鳴が漏れる。逃げようにも、腕を引っ張るのとは反対の手で、身体がガッチリと固定されていた。
――彼女は自らを巻き込み、衝撃波を発生させる。発狂した訳ではない。相手の拘束から逃れるための苦肉の策だ。
飛びそうになる意識を意思の力で必死に繋ぎ留め、アンジェラは飛翔で落下を阻止、更に迫りくる死の腕を避けた。
空を切るアトラスの腕――そこに備わった無数の砲身から炎が吹く。
衝撃が腹部を突き抜けた。砲弾が彼の肚を突き破ったのだ。
再生しかかった臓腑が宙に撒き散らされる。アンジェラの上半身と下半身は、辛うじて背骨で繋ぎ留められている状態に陥った。
血が喉もとへと出口を求め殺到、彼女は大量の鮮血を吐く。激痛に翻弄され、魔術の操作が一時滞った。
それをアトラスが見逃すはずがない。再び、その手で彼女を掴む。更に破壊された孔から数多のケーブルが飛び出し、アンジェラに巻きつく。
彼女は埋葬される木乃伊の如き様相となった。そして、ジワリジワリと、ケーブルがアンジェラの身体を締めつける。
再生する端から骨が砕かれていった。無間地獄とはこのことだ。大蛇が獲物をジワジワとしめ殺すように執念深い。
ヴァン……――それでも、彼女はお人好しの弟子のことを信じていた。




