君への愛を世界に叫ぶ
7
――ついに、輸送機は螺旋の陸地の上を飛んでいる。鬱蒼とした森が広がっているのが、モニターに映っていた。
まるでお伽噺に出てくる魔女の髪の毛のようだ、と思うのは暗闇を畏れるヴァンの心理のせいだろうか。
突然、アンジェラが身体を反転させる。何か小さな物音を聞き分けようとしているように顔を険しくし、外の様子を窺った。
次いで、彼女は壁に設置された内線の受話器を手に取った。その行動まで数秒。
「回避しなさい!」主語を省略し、彼女は内線でパイロットを怒鳴りつけた。
グン、と鮫を避ける青魚の群れのような動きで機体が急旋回する。突然床が傾ぎ、ヴァンはベルトに身体を強く締め付けられた。
――モニターが一瞬、ホワイトアウトする。その寸前、紫電が画面を横切っていた。
「この気配は魔導兵器!」アンジェラが鋭い目をしてヴァンとパガニーニに見遣る。
何故!? ――この輸送機は、かつて人類が使用していた技術「光学迷彩」が施されているから、敵に発見される危険はないはずだった。
アンジェラはシートに身体を固定しているベルトを外す。
「何してるんですか!?」とヴァンは目を瞠る。嫌な予感がした。
「外に出るわよ」彼女は立ち上がって、後部胴体のスペースを大きく占めている「大荷物」へと近寄った。
全長四・八メートル、幅二・四メートルの双尾翼を持った漆黒の飛行装置だ。
二人乗りのそれに、アンジェラは風防を開け放ち搭乗する。
彼女は、目顔でヴァンに後部座席に乗り込むようにと告げていた。それは有無を言わせぬ表情だ。エンジンと各種装置を作動させる。
ヴァンも、状況が逼迫していることは理解していた。諦めの境地で、彼は後部座席に飛び込んだ。
パガニーニは、二人が乗った機体の後ろに収容されている方に搭乗する。
アンジェラが無線で操縦席と交信した。
「スカイフィッシュで魔導兵器を惹きつけるわ。扉を開けなさい」
彼女が告げると、扉から床面に繋がるランプが点灯する。
「スカイフィッシュα(アルファ)出る」
アンジェラの言葉に応え、カタパルトが作動する。軽いGが掛かり、鳩尾に氷を突っ込まれたような感覚に襲われた。降下、稲妻が飛来した方向へ。
斜め後方に、パガニーニのβ(ベータ)機も続く。
ヴァンは、回転台機構を作動させる。
攻撃的な重低音――狭い機内に発動旋律が流れた。
光芒一閃――飛び散る火花のようなものが宙へ舞い上がってくる。雷が何かの間を這い回っているのだ。
眼を凝らすと、四足の獣の角に稲妻が走っているのが判る。その姿は牡鹿に似ていた。
雷光の束が荒れ狂う龍の如く宙を飛ぶ。間一髪、アンジェラとパガニーニの操縦する垂直離着陸移動装置スカイフィッシュは躱した。
その間に、ヴァンは回転台機構の操作を終えている。魔術が顕現する場所に細心の注意を払って、発現させた。
極大衝撃。衝撃波が発生する――が、牡鹿はそれを紙一重で回避。
「魔力の気配に敏感らしいわね。輸送機の位置もそれで割れたのかしら」
アンジェラが冷静な声で推測した。
が、ヴァンはそれどころではない。師がスカイフィッシュを急上昇させたせいで、内臓を掻き回され吐き気に襲われる。
一寸前まで機体の存在した空間を、雷が貫いた。
アンジェラは機体を急降下させ魔導兵器の背後を取ろうとするが、相手はこちらなど比べ物にならないほど小回りが利く。蝶が子供の手を逃れるように機敏に回避。
ヴァンは酷い吐き気をこらえ、恐怖に耐えながら回転台機構を操作、衝撃波を連発した。
が、ことごとくそれは避けられる。
「――だったら」アンジェラが凶暴な笑みを浮かべた。彼女は無線機で何やらパガニーニに指示を伝える。
そして「ヴァン、あたしが合図したら魔術を放ちなさい」と言った。
「……はい」とヴァンは弱々しい声で了解の意を伝える。
――再度、機体が牡鹿に似た魔導兵器の背後を取ろうとした。
「今!」アンジェラの叫びを合図に、ヴァンは衝撃波を敵の鼻先に放つ。そろそろ、相手の動きを予測できるようになりつつあった。
が、それでも躱される。
刹那、魔導兵器の頭部が高い所から落下した果実のように破裂した。
「動力に魔術を遣っていても、オートマータの武器の使用そのものは完全な物理攻撃だからね」
アンジェラは自慢げにニヤリと笑う。
しかし、ヴァンに勝利の昂揚はない……
「うう……」と彼は口もとを押さえながら顔を青くする。
「わ、馬鹿弟子!? ここで吐かないで!」そんな彼を見て、アンジェラは悲鳴を漏らした。




