君への愛を世界に叫ぶ
6
螺旋に連行されたメディアは、高い塔――オートマータは研究塔と呼んでいた――の最上階へと足を踏み入れていた。
円錐形の空間に無数のケーブルが血管のように這い回っている。無数のダイオードの光がウミボタルのように仄かに照らすだけで他に照明もなく薄暗い。
最上階で対面したのは、どこか淋しい面差しをした老人だ。その姿に、肩透かしを喰らった気分になる。
(何を考えて、老人の姿にしたのかしら?)
オートマータの姿は発注者の意図が反映されるのが常だから、そこには何か意味がある。
手枷を嵌められた状態で、部屋と一体化した機王ベルフェゴールの前に連れていかれた。そこには、シンプルな椅子が一脚用意されている。
螺旋でイグネイシャスから彼女を引き取り、ここまで導いたオートマータが一礼して退室した。
……メディアは一瞬、呆気に取られた。
確かにオートマータなのだから、老人の外見だろうが侮れない。だが、指導者を小娘が相手だからといって部外者と二人きりにしていいのか?
訝しがる彼女を余所に、ベルフェゴールは寂寥感の宿った視線を注ぐ。まるで、生き別れた肉親の顔立ちを重ねているような……
……? 正体の判らない相手の感情を不審に思う。そして、無言で目線を向けられ続けることに圧力を感じた。
やがて、長い沈黙を破り「名前は?」と相手は質問を発する。
「メディア」隠し立てすることでもない、と彼女は質問に応えた。
「年齢は?」尚も老人は淡々と質問を続ける。
「十七歳」メディアも少し緊張した顔で簡潔に応えた。まるで、何かの面接だ。
だが、その奇妙なやり取りに変化が現れる。
「以前の職業は?」という問いが投げかけられた。
「オリュンポスに所属する魔術研究者」答えを聞いた直後、相手の表情が激変した。眼を瞠り、信じられないものに出くわしたかのような顔をする。
「……何を研究していた?」今度の質問には静かな熱がこもっていた。
「……」その質問に、彼女は言葉を詰まらせた。それを明かすことは、罪を告白することに等しい。
「悪疫という魂に感染するウイルスの研究を」
黙り込むことで危害を加えられることを危惧し、質問に答える。
「なぜ、研究者として働いていた?」とベルフェゴールは強い語調で訊いた。それは、何かを責めているように思える。
「家族を養うため、生きていくため――」彼女は相手の雰囲気に怯みながらも口を開いた。
「何故、人間はこうも過ちを犯す……」と相手が何か独り言を呟く。
「え?」質問されたかのと思ったメディアは訊き返した。
「それで犠牲が出るとは思わなかったのか?」
ベルフェゴールは哀切の表情を浮かべる。
「――犠牲を少なくするために手を加えるつもりだった。でも、間に合わなくて……」
彼女は言葉を濁す。――ここにきて、初めて悪疫開発のことの責を問われたのだ。
言葉が酸の如く胸を灼く。
……あっ! 気づくと、目頭が熱くなり泪が零れていた。
それを見て、ベルフェゴールは茫然となる。やがて「……悔いているのか?」と訊く。
「……ッ」メディアは悲しみで喉が詰まって言葉を発することが出来ない。代わりに、何度も首を縦に振る。
「そうか――」その反応を前に、ベルフェゴールは遠い眼をして肯いた。




