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君への愛を世界に叫ぶ

第五章暗転する未来、囁く欲望


   1


 森の中の街道を走行する車列の中央、軍用ジープの車内。

ヴァンに正体を尋ねられ「中央の軍に所属する人間だ」と応えた男が、助手席にが座っていた。鉄面皮という言葉がこれほど似合う者はいない、実直そうな顔立ちの中年の男だ。

名前をルーテルといい、血族(ブラッド・リレイション)の諜報組織「知恵(グノーシス)」に所属するエージェントだ。

 彼はミラー越しに後部座席を窺う。そこには、気を失っている少女の姿があった。

 ただの少女ではない――人間だ。

 まだ、あどけさを残す顔立ちをしている。彼女が世界の混乱の原因だというのが信じられないくらいだ。

 彼女を、ルーテルは奪ってきた。そのことが、罪悪感となって彼の心を重くしている。

大きくなっていたな……――脳裡に誰何(すいか)の声を上げる少年、ヴァンの姿が思い浮かぶ。

 ルーテルは、彼の両親と友人だった。研究の幾つかが機密の領域にまで食い込んでいた夫妻の研究のことで、ルーテルは偶然を装って接近し監視した。

 だが、人の()い彼らと交流するうちに、ルーテルはついに友人となってしまった。そういった付き合いの中で、ヴァンとキャッチボールをすることもあったのだ。

 そんな最中、オートマータに敵視された夫妻は爆弾テロに()い他界する。

 以後、ルーテルはヴァンと接触することはなかった。

 ヴァンが夫妻と同じ道を歩み、彼ら以上の才能を示しているという噂は聞いていた。だが、自分が係わることになるとは思っていなかった。

 しかも、彼のもとから、親しくしている少女を攫ったのだ。運命の皮肉としかいいようがない、が……

これでいいんだ――彼が上に取り合ったお陰で、ヴァンは始末されずに済んだ。

 ホムンクルスの中には、オートマータとの戦争の継続を望む者がいる。軍需産業とその利権のおこぼれに預かる者たちだ。

 そういった連中が、今回の『眠れる森の魔女』を目覚めさせたという一件を盾に、ヴァンは危険な存在と声高に叫び抹殺を望んだ。

 ルーテルは、それを何とか阻止するために動いた。それに『眠れる森の魔女』を手もとに置いておけば、魔導兵器を引き寄せることになる。

 どちらにしろ、ヴァンと『眠れる森の魔女』は一緒にはいられない運命(さだめ)だ。

 彼は気絶している『眠れる森の魔女』を見つめた。上手く情報を引き出せればいいが、そうでなければ彼女は危険な存在だ。

 最悪の場合、「始末」されるかもしれない。

 ルーテルは、胸のうちに湧き上がる苦いものを静かに呑み込んだ。汚い仕事を担ってきた自分が、今更同情など浅ましい。

 車が轍に乗り上げ大きく跳ねた。その衝撃で揺り起こされたのか、後部座席で身じろぎする気配があった。

 ミラーで確認すると、薄っすらと『眠れる森の魔女』の眼が開けられる。

 その視線が車内を一巡し、鏡越しにルーテルと眼が合った。

 びくり、と『眠れる森の魔女』が身を縮こまらせた。横になった姿勢で、怯えた眼をこちらに向けている。

「逃げようとは考えないことだ。魔導兵器がお前を追っている。そして、逃げようとしたなら――」

 胸の痛みを覚えながらも、ルーテルは感情を押し殺した声――長年の訓練の成果で、その声は聞く者には胸の裡は僅かばかりも露見することはない――で告げた。

彼は自動拳銃をホルスターから抜き、身体を捻って『眠れる森の魔女』に向けた。

髑髏の眼窩を思わせる空虚な空洞――銃口と対面し、相手の眼は限界まで見開かれた。

「――殺す。解ったな?」

 ルーテルは口から剃刀の刃を吐き出すような気分で告げる。あくまで表面上は、冷たい意思を宿して……

 単なる少女にしか見えない『眠れる森の魔女』は、表情を凍りつかせたまま機械的に首を何度も縦に振った。


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