君への愛を世界に叫ぶ
6
アンジェラは、幼なじみに背を向けた弟子が、自分の方向へ歩いてくるのを見つめていた。
(とりあえずは守り切ったわね……)
親しい者に死人を出し、周囲の者に大きな傷を負わせることになったが、こんなものは彼女の知る絶望に比べれば序の口だ。
(けど、すべてを失うことになるかもしれないわよ、ヴァン)
彼女は、心の中で弟子に語りかける。――手が届く距離までヴァンが近づき、足を止めた。
「人が攫われたっていうのに悠長なことね?」
アンジェラは胸のうちの忠告ではなく、代わりに皮肉を口にする。
「『そんな場合じゃない』で片づけられるものじゃないですよ」
ヴァンが不満気に鼻を鳴らした。だが、すぐに表情を改める。
「アンジェラ師匠、お願いです。彼女を奪還するのを手伝って下さい」
彼は深く頭を下げた。その後頭部を見つめるアンジェラの胸が疼痛を訴える。
「魔導兵器を呼び寄せたのは彼女よ、解ってるでしょ? あたなの手には余る。国家の手に委ねた方がいいんじゃない?」
それが残酷な言葉であると知りながら、彼女は真摯な口調で告げる。
ヴァンの肩が僅かに震えた。「魔導兵器を呼び寄せたのは彼女」というフレーズに動揺したのだ。
「それでも助けたいんです!」と彼は頭を下げたまま大きな声を出した。
「私からも頼む」それにパガニーニが加わる。
結果、二人の人物が低頭しているという光景が目の前に広がった。
……っ、アンジェラの心情は複雑だ。脳裡にかつての悲劇の光景が甦る。人間が次々と異形と化し、そうでない者を虐殺した。
それ以後、間違いを犯すことが恐くて、ただ見守ってきた。
そんな彼女が気紛れで育てた弟子が、再び悲劇の引き金に指をかけているかもしれない状況の中にいる。だが、アンジェラが協力せずとも、ヴァンは『眠れる森の魔女』を求めて行動を起こすだろう。
「あたしは首都には同行できない」
彼女の返答に、ヴァンの表情が悲しげに歪んだ。
「だけど、手助けはしてあげる」と言葉を接ぐと、彼の表情が「?」と訝しげなものに変化する。
「足を――車を貸してあげる。それに、首都への潜入を手引きする者を紹介するわ」
「ありがとうございます」ぶっきらぼうな彼女の言葉に、弟子は歓喜して再び頭を下げた。
「分かったから頭を上げなさい、鬱陶しい」
シッシッ、と手を振りながらアンジェラは応えた。
ヴァンが、明るい表情で顔を上げる。
そんな彼に、アンジェラは尋ねた。表情には恐いほどに真剣な色を浮かべている。
「覚悟は出来てる? 命をかける覚悟じゃないわよ。そんなものは当たり前。自分が過ちを犯したときに、その責を負う覚悟はある?」
あたしには背負えなかった――、胸のうちで彼女は独語を吐く。
「はい」とヴァンは真っ直ぐのこちらの眼を見て言った。
「なら、いいわ」アンジェラはそっと目線を外し請け負う。




