表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/48

君への愛を世界に叫ぶ

   6


 アンジェラは、幼なじみに背を向けた弟子が、自分の方向へ歩いてくるのを見つめていた。

(とりあえずは守り切ったわね……)

 親しい者に死人を出し、周囲の者に大きな傷を負わせることになったが、こんなものは彼女の知る絶望に比べれば序の口だ。

(けど、すべてを失うことになるかもしれないわよ、ヴァン)

 彼女は、心の中で弟子に語りかける。――手が届く距離までヴァンが近づき、足を止めた。

「人が攫われたっていうのに悠長なことね?」

 アンジェラは胸のうちの忠告ではなく、代わりに皮肉を口にする。

「『そんな場合じゃない』で片づけられるものじゃないですよ」

 ヴァンが不満気に鼻を鳴らした。だが、すぐに表情を改める。

「アンジェラ師匠、お願いです。彼女を奪還するのを手伝って下さい」

 彼は深く頭を下げた。その後頭部を見つめるアンジェラの胸が疼痛を訴える。

「魔導兵器を呼び寄せたのは彼女よ、解ってるでしょ? あたなの手には余る。国家の手に委ねた方がいいんじゃない?」

 それが残酷な言葉であると知りながら、彼女は真摯(しんし)な口調で告げる。

ヴァンの肩が僅かに震えた。「魔導兵器を呼び寄せたのは彼女」というフレーズに動揺したのだ。

「それでも助けたいんです!」と彼は頭を下げたまま大きな声を出した。

「私からも頼む」それにパガニーニが加わる。

 結果、二人の人物が低頭しているという光景が目の前に広がった。

……っ、アンジェラの心情は複雑だ。脳裡にかつての悲劇の光景が甦る。人間が次々と異形と化し、そうでない者を虐殺した。

 それ以後、間違いを犯すことが恐くて、ただ見守ってきた。

 そんな彼女が気紛(きまぐ)れで育てた弟子が、再び悲劇の引き金に指をかけているかもしれない状況の中にいる。だが、アンジェラが協力せずとも、ヴァンは『眠れる森の魔女』を求めて行動を起こすだろう。

「あたしは首都には同行できない」

 彼女の返答に、ヴァンの表情が悲しげに歪んだ。

「だけど、手助けはしてあげる」と言葉を接ぐと、彼の表情が「?」と訝しげなものに変化する。

「足を――車を貸してあげる。それに、首都への潜入を手引きする者を紹介するわ」

「ありがとうございます」ぶっきらぼうな彼女の言葉に、弟子は歓喜して再び頭を下げた。

「分かったから頭を上げなさい、鬱陶しい」

 シッシッ、と手を振りながらアンジェラは応えた。

 ヴァンが、明るい表情で顔を上げる。

そんな彼に、アンジェラは尋ねた。表情には恐いほどに真剣な色を浮かべている。

「覚悟は出来てる? 命をかける覚悟じゃないわよ。そんなものは当たり前。自分が過ちを犯したときに、その責を負う覚悟はある?」

あたしには背負えなかった――、胸のうちで彼女は独語を吐く。

「はい」とヴァンは真っ直ぐのこちらの眼を見て言った。

「なら、いいわ」アンジェラはそっと目線を外し()()う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ