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はるかかなたのエクソダス  作者: 風庭悠
第1章:見えざる鎖~護衛体技(ガード・アーツ)品評会編
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第9話 せっかくのご褒美である休日が水の泡と消えた件

 俺たちの優勝がきまった。

 「みんなよくやってくれた。今日、そして週末はゆっくり休んでもよい、という許可が下りた。ぜひ英気を養ってほしい。」

調教師の「休養」という言葉に俺はいたく感動した。


 品評会には、戦った俺たちに直接賞品や賞金は出ないのだ。ひどい話だが、表彰式すらない。俺たちの所有者にすべてその栄誉は帰せられる。それが俺たちが奴隷である、ということなのだ。まあ、数少ない「ご褒美」っぽいものあげるとすれば、それはわずかながらの「休暇」、そしてもう一つ、アマレク人専用区画への入場券であった。何ら腹の足しにもならないものではあるが。


 「ゼロス、よーくやったわ。これで『競技会』ね。」

マリアンが俺の手を両手で握りぶんぶんと振る。久しぶりに触れたマリアンの手は幼いころの温かさはなくなり、女性らしいひんやりした感触であった。俺は彼女の成長に驚いていたが、養父母はマリアンの実家における俺への態度と今見ている光景のあまりのギャップに驚愕どんびきしているようにも見えた。まあ、少なくとも家の外では良識的な態度をしているのを見て安心したとは思うのだが。


 さて、競技会に女子校のチーム、もしくは奴隷のチームが出場するのは双方、史上初めてのことらしい。 「快挙」なのである。仲間チームメイトたちも家族から祝福を受けていた。俺たちが思い思いに勝利の余韻に浸っていると、SPやら取り巻きを連れた若い男が俺たちのほうに近づいてくる。反射的に通路みちをあけると、その男はどうも俺たちに用があるようだった。


 養父のリーバイは男と面識があるらしくつかつかと近寄ると帽子をとって一礼した。

「これはこれはアモン様。ご無沙汰いたしております。こんなところにお出ましとは。」

若い男がサングラスを外す。セミロングにしている金髪ブロンドが揺れた。俺は突然の有名人の登場にびっくりした。


「アモン・クレメンス…。」

驚きのあまり心の声が漏れてしまったようだ。


 アモン・クレメンス。大統領ラムセス・クレメンスの三男で護衛体技ガード・アーツの学生チャンピオンである。俺たちが出場権を手にした今度の「競技会」にもエントリーしていて、ダントツの優勝候補である。とりわけ射撃の腕は群を抜いており、卒業後、どこのチームに入ろうが、コネぬきに英邁するだろうといわれている。彼も俺と同じく選手兼チーム参謀であるが、主将まで兼ねている。(No.1[主将]+N0.6[作戦参謀]でウルトラ7というらしい。)さらにその作戦が華麗にして「エグい」。できれば一生敵に回したくはないタイプである。


 アモンに気が付いた周りの女子生徒たちが色めきだった。スターを目の当たりにしても黄色い声を上げないのはお嬢様学校ゆえの躾が行き届いている証であった。ただ、ささやき声がだいぶ「黄色」がかってはいたのだが。


 「僕のことを知っているとはさすがは参謀君。確かゼロス君といったね。まさか、リーバイの家の子とは思わなかったよ。君たちの試合を見せてもらったが楽しませてもらったよ。ハンデはあると思うが、君たちを競技会に歓迎するよ。」

思わず呼び捨てにしてまったのだが、彼の対応はきわめて紳士的である。

「はい、もちろん存じ上げております。アモン様。殿下のお心にお答えできますよう精進いたします。」

今度はきちんと「様」をつけ、なんとか模範「回答」を口にできた俺にアモンはふと微笑むと歩き出し、すれ違いざまに俺の肩を軽くたたくと

「頼んだよ。」

とさわやかな感じで去って行った。


 俺たちの視界からアモン「様」が消えた後、養父母を含め俺たちがカチンコチンになった筋肉をほぐすのに5分ははかかっただろう。

「しかし、なんであんなボンボンなのに護衛体技ガード・アーツなんてやってんだ?立場的には守られる側じゃん。」

ジョシュアが俺も思っていた疑問を口にする。

「彼は護衛士ガードマンにはならないよ。護国官ガーディアンになるのさ。」

カレブは理由を知っていた。


 護国官ガーディアンとはアマレク共和国を守る9つの陸戦騎士団エネアード、もしくは8つの空戦騎士団オグドアッドの団長のことである。国防は貴族の義務で、特定の軍隊を構成するというよりは貴族が私費で持つ騎士団がその役割を担っている。その大貴族の中でもクレメンス家とグレゴリウス家は筆頭格で、それぞれ「陸のクレメンス」、「空のグレゴリウス」として騎士団を束ねているのだ。将来大統領を目指すものは、まずその第一歩として、護国官ガーディアンになることが求められていた。

 「凄いね。俺たち、未来の大統領から好敵手ライバル宣言されちゃったよ。」

ジョシュアがうっとりとした顔で言う。

「ライバルというのは実力が拮抗したもの同士を表すのに用いる表現だ。俺たちはただの格下さんしただ。この場合は『激励』というのが正しい表現だ。」

ラザロの冷静なツッコミに俺はうんうんとうなずく。たまには本当に良いこともいうんだなあ。

「でも人がつまづくのは小さな石ころよ。やってやろうじゃないの。」

エリカ姐さん(同い年だけど)、前向きすぎ。

「…アモン様…。かっこいい。」

マリアンはあくまで乙女だ。目がハートになってんぞ、義妹いもうとよ。

「よし、『勝って兜の緒を締めよ』というしね。早速、これから帰ってみんな、トレーニングだ!」

主将。熱血ですね。…え?何かお忘れではありませんか?


皆のボルテージが上がる中、

「あの…休養は?俺の英気の源は…」

俺の声はかき消されていくのであった。


第1章:品評会編完了です。次回から第2章:競技会編始まるよー。

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