EP 8
【帝国視点】実家の全自動ざまぁ〜無能と勘当した息子が、神々を平伏させるバケモノだったと知った父の絶望〜
ルナミス帝国、将軍邸の執務室。
豪奢な革張りのソファに深く腰掛け、帝国軍の猛将ガレオンは、クリスタルグラスに注がれた赤ワインを優雅に揺らしていた。
「……ユリウスの奴め。今頃、辺境の泥に塗れて泣きべそをかいているだろうな」
ポツリと、かつて息子だった青年の名を口にする。
ガレオンの顔に浮かんでいるのは、冷酷な軍人としての顔だ。
「あやつには失望した。どれだけ厳しいしごきを与えようと、決して決定的な反撃をしてこない。あの底知れぬ魔力を持ちながら、闘争心も殺意も皆無……。あのような甘ったれ、戦場に出れば真っ先に敵の餌食になるだけだ。勘当はあやつのためでもある」
自分を正当化するようにワインを煽った、その時だった。
「ガ、ガレオン将軍ッ!! 緊急事態であります!!」
執務室の重厚な扉がバンッ!と開き、副官が血相を変えて飛び込んできた。
その手には、帝国の最新技術であるタブレット型の『魔導通信盤』が握りしめられている。
「騒々しいぞ。なんだ、レオンハート獣人王国の連中が国境を越えてきやがったか?」
「ち、違います! これをご覧ください! 神々が運営する動画配信サイト『ゴッドチューブ』の、急上昇ランキング第一位の映像です!!」
「ゴッドチューブだと? 下らん、私がそのような俗悪な娯楽を見る暇があると――」
眉をひそめるガレオンの目の前に、副官が無理やり画面を突きつけた。
「ユ、ユリウス様が……映っておられるのですッ!!」
「……なに?」
ガレオンは訝しげに画面へ視線を落とした。
そこに映っていたのは、タローマン製の安っぽいオーバーオールを着て、荒野に立つ息子の姿だった。
そしてその目前には、狂暴な岩の角を持つ巨大な牛型魔獣『ロックバイソン』が、地響きを立てて突進してきている場面だった。
「馬鹿者ッ! ロックバイソンは装甲車すら容易く粉砕する突撃力を持っているのだぞ! 逃げろユリウス、轢き潰されるぞ!」
思わず親としての顔が覗き、身を乗り出すガレオン。
しかし、画面の中のユリウスは逃げなかった。それどころか、腰からみすぼらしい『三徳包丁』を抜いたのだ。
「包丁!? あやつ、狂ったか!」
だが、次の瞬間。
ガレオンの眼球が、限界まで見開かれた。
『――パキパキパキパキィンッ……!!』
画面越しに甲高い氷結音が響き渡り、三徳包丁の刃先から、凄まじい密度の冷気が白銀のロングソードへと変形したのだ。
「な、なんだあの神々しい魔力剣は……ッ!?」
「将軍、まだです! 次を!」
『……フリーズ』
ユリウスが静かに一閃する。
その太刀筋を見た瞬間、幾多の死線を潜り抜けてきたガレオンの全身から、ドッと冷や汗が噴き出した。
「(な……なんという、無駄のない……完璧な剣の軌道だ……!?)」
それは、ガレオン自身すら到達していない、神域の剣技だった。
斬撃がロックバイソンの巨体をすり抜ける。血の一滴も流れず、突進の勢いのまま、魔獣は完全に分厚い氷のオブジェへと変わった。
細胞を破壊せず、痛みすら与えない『絶対零度の生殺し』。
「(あ、あんな技……私は教えていないぞ!? そもそも、あの速度の突進を完璧に見切り、空間ごと凍結させるなど……人間の業ではない!)」
愕然とするガレオンに、追い討ちをかけるように副官がスワイプして次の映像を再生する。
「こ、こちらの映像も……っ!」
次に映し出されたのは、見慣れたルナミス帝国のファミレスの店内だった。
ユリウスが、三人の男女の前に『ただのサラダ』を置いている。
「ファミレス……? 一体何の真似だ」
「将軍、ユリウス様の前に座っている三人を、よくご覧ください……!」
「ん? 赤髪の女に、銀髪の男、それに恰幅の良い男……ハッ!?」
ガレオンは、帝国の最高機密資料で見たことのある『神々の肖像画』を思い出した。
「ば、馬鹿な……っ! 世界を管理する三柱の『調停者』!? 不死鳥フレア様に、狼王フェンリル様、竜王デューク様だとォッ!?」
神話の存在が、なぜファミレスにいるのか。
混乱するガレオンの目の前で、調停者たちはユリウスの作ったサラダを一口食べ――。
『な、な、何よこれえええええっ!?』
ズドォォォォォォンッ!!
三柱の神々の全身から、制御不能に陥った神気が太陽のフレアのように爆発したのだ。
「ヒッ……!?」
画面越しでも伝わってくる、致死量の魔力圧。ガレオンは思わずソファの上で悲鳴を上げた。
しかし、さらに彼を絶望の淵へと突き落としたのは、その直後の映像だった。
『……お口に合ったのなら、良かったです。また明日も納品に来ますので、よければ食べてくださいね』
『……あ、ああ。楽しみにしている』
『アンタの野菜、また買わせてもらうぜ』
あの、世界の絶対者である神々が。
気弱そうに笑うユリウスに対し、居住まいを正し、冷や汗を流しながら、ペコペコと頭を下げているではないか。
「……………………」
パリンッ。
ガレオンの指先から力が抜け、握りしめていたクリスタルグラスが床に落ちて粉々に砕け散った。
赤ワインが、まるで血のように絨毯に染み込んでいく。
「将軍……」
「……私は、なんということを」
ガレオンは、両手で顔を覆い、ガタガタと震え始めた。
すべてが繋がった。
なぜユリウスが、自分との訓練で決して反撃をしてこなかったのか。
なぜ彼が、常に怯えたような、手加減をしたような態度をとっていたのか。
――臆病だったからではない。
「(あやつは……本気で剣を振れば、父親である私を一瞬で『殺して(凍らせて)しまう』とわかっていたから……ただ怯えたふりをして、手加減をしてくれていたのだ……っ!)」
自分は、息子を無能だと見下していたのではない。
息子という名の底知れぬ『バケモノ』に、ただ生かされていたという事実に気づけなかっただけの、愚か者だったのだ。
「あ、あああああっ……! 俺は……俺は、帝国最大の戦力を、自ら辺境に捨ててしまったというのかぁぁぁっ!?」
将軍邸の執務室に、自らの失態に気づき、すべてを失った男の絶望の叫びが虚しく響き渡った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「ガレオン父さん、すべてを悟って大絶望(全自動ざまぁ)!」
「ユリウスの手加減の理由が、エグすぎるww」
「親父のワイングラスが粉々になるテンプレ、最高です!」
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次回、「炎上神ワイズの陰謀〜平和な村に迫る最悪の危機〜」。
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