EP 7
【神界視点】ゴッドチューブの大バズり〜気弱な農夫の日常配信で、天界の神々がスパチャを投げまくる〜
「ね、ねえ、ちょっと! これヤバいんじゃないの!?」
天界直轄領・セレスティア。
大宇宙行政組織『GOD』のオフィスの一角にある、生活感溢れるコタツ部屋。
芋ジャージに健康サンダルという、およそ神格とは思えない怠惰な格好をした女神ルチアナ(第3種惑星創造神格公務員)は、エンジェルすまーとふぉんの画面を食い入るように見つめながら絶叫した。
「どうしたのよルチアナ、大声出して。私は今、月人君のライブDVDの尊さにむせび泣いてる最中なんだから邪魔しないでよね」
隣でコタツに潜り込み、箱ティッシュを抱えながら画面のアイドルに黄色い声援を送っているのは、魔王ラスティア(自称17歳)だ。
彼女たち二人は、仕事もそこそこにオタ活に精を出す、いわゆる『ダメ神』の筆頭であった。
「月人君は一旦置いておいて! これ見てよ! ゴッドチューブのアナスタシア大陸チャンネル、急上昇ランキング1位!」
ルチアナがスマホの画面をラスティアの顔の前に突き出す。
【配信中】ポポロ村の新人農夫、調停者たちにメシテロをかます【神回】
◆同時接続数:1億2,305万人突破!
「……はぁ!? 同接一億超え!?」
「そうなのよ! 全宇宙の神々が、たった一人の人間の配信に釘付けになってるの!」
画面に映し出されているのは、先ほどの『ルナミスキング・ポポロ支店』の映像。
端っこの席でメロンソーダをちゅうちゅうと吸う、気弱そうな青年の姿。
そして、彼の作ったサラダを食べて魔力を大暴走させ、ドン引きしながら彼に頭を下げる『調停者』三柱(フレア、フェンリル、デューク)の姿だった。
動画のコメント欄(天界掲示板)は、凄まじい勢いで滝のように流れている。
【全宇宙神ハジマリ】『フォフォフォ、あの若者、ただの人間でありながら神格級の生産権能(豊穣の神)を無自覚に垂れ流しておるぞ』
【銀河神カケル】『しかもあの剣ダコと重心のブレなさ。戦闘力も絶対ヤバいだろこれ。ギャップ萌えが凄すぎる!』
【見習い女神リリス】『ユリウスさんの作ったステーキ丼、画面越しでも美味しそうですぅぅ! お腹空きましたぁ!』
「な、なんなのよこの人間は……っ。それに、この投げ銭の額!」
ルチアナが画面をスクロールすると、チャット欄の右側に、神々から投げられた『魔力還元スパチャ』が、虹色に輝きながら次々と飛んでいる。
『銀河神カケルが 金貨10万枚相当の魔力 を提供しました!』
『月の女神カグヤが 月光石100個 を提供しました!(あら、いい殿方じゃないの。私の月世界にスカウトしたいくらいだわ♡)』
「カグヤのヤツまで! あいつ、裏垢で私をボロクソに叩いてるくせに、私の管轄世界の人間で勝手に推し活始めてるじゃない!」
「ちょっとルチアナ、あんたのクレジットカードの限度額(100万円)、このスパチャのおかげで上限突破してるわよ!? 予算がジャブジャブ入ってきてる!」
ラスティアの言葉に、ルチアナはハッと息を呑んだ。
ゴッドチューブのPV(視聴回数)とスパチャは、そのまま彼女たちの『世界運営予算』に直結する。
普段は予算不足でピーピー言っているアナスタシア世界の台所事情が、このたった一人の青年の『無自覚な日常』によって、一瞬にして潤い始めていたのだ。
「……や、やったわ。これなら、月人君の全国ツアー全公演のプラチナチケットが買える!」
「最高じゃない! ねえ、この『ユリウス』って農夫、もっと映しなさいよ! 彼が何かするたびに、全宇宙から魔力が集まってくるわ!」
コタツから身を乗り出し、目を円や魔力マークにして興奮するダメ神二人。
◇ ◇ ◇
同じ頃、天界の執務室。
アナスタシア世界管理チームのリーダーである主神オリンは、胃薬をボリボリと噛み砕きながら、モニターに映るユリウスの映像を見ていた。
「(胃が……胃が痛い……っ。なんだこの青年は。彼が動くたびに、世界のバランスが根底から覆っていく……)」
オリンは薄くなった頭髪を撫でながら、震える手でキーボードを叩く。
「(だが……このPVの伸びは異常だ。銀河神への昇任試験に受かるためには、このユリウスという特異点を、最大限に利用するしかない……!)」
オリンは、自らの『第3種惑星創造神格公務員』の権限を使い、ユリウスの配信チャンネルに【公式バッジ】を付与し、さらにトップページに固定する設定をポチリと押した。
「よし……。これで、彼はもう天界の監視から逃れられない。いけ、ユリウス君! 君のその無自覚な行動で、もっと私に視聴率(予算)を稼がせてくれ!」
◇ ◇ ◇
そして、その様子を天界の暗がりから憎々しげに睨みつけている男がいた。
新入りの男神、炎上神ワイズだ。
「……チッ。なんだこのふざけた配信は。ただの農夫がサラダを作っただけで、なんでこんなにPVが稼げるんだよ」
ワイズは専用のノートPCを叩きながら、忌々しそうに舌打ちをした。
「なろう……いや、ゴッドチューブの基本は『絶望』と『ざまぁ』だろうが。平和な日常配信なんて、俺の『炎上マーケティング』の邪魔でしかねえ」
ワイズの口角が、歪に釣り上がる。
「お前が平和な村でスローライフを満喫しているなら……その村ごと、俺が用意した最悪の『炎上コンテンツ』で焼き尽くしてやるよ。俺の契約勇者の、引き立て役にしてな」
ワイズはキーボードを叩き、アナスタシア大陸の暗部――天魔窟に眠る『死蟲王サルバロス』の端末に、密かにアクセスコードを送信した。
気弱な農夫の平和な村に、神界からの悪意が、音もなく忍び寄ろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「天界の神々、ユリウスの日常に夢中ww」
「ルチアナ、予算ゲットで月人君のライブへ(ダメ神)」
「そして、炎上神ワイズの黒い影が迫る……!」
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次回、「【帝国視点】実家の全自動ざまぁ(初期段階)〜勘当した息子の無双動画を見てしまう父〜」。
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