EP 10
ルナキンでの大宴会〜古代の暗殺兵器は、極上のタラバガニの味がした〜
超音速の暗殺兵器『死蟷螂機』の襲撃という、ポポロ村存亡の危機。
しかし、その絶望的な脅威は、僕の『食材を綺麗に捌くため』という極めて個人的な理由による一刀両断によって、あえなく幕を閉じた。
「店長ー! 特大のカニ(?)が獲れたんで、厨房と大鍋貸してください!」
「おう、新入り! ……って、なんだその巨大な鉄の塊はァッ!?」
僕たちは死蟷螂機の残骸をリヤカーに載せ、村の中央にあるファミレス『ルナミスキング・ポポロ支店(通称・ルナキン)』へと運び込んでいた。
ルナキンの店長は、綺麗に真っ二つにされた緑色の機体を見るなり目を剥いたが、「装甲の中に絶対美味しい身が詰まってるんですよ」と僕が説得すると、持ち前の料理人魂に火がついたらしい。
「よしわかった! お前さんの目利きを信じよう! 野郎ども、巨大鍋に湯を沸かせェ!」
厨房の裏手で、僕と店長、そしてネギオ(変異ポーン)が協力し、死蟷螂機の太い前脚の関節部分から、ツルリと純白の身を引きずり出すことに成功した。
「おおおっ……! こいつはすげえ!」
店長が感嘆の声を上げる。
僕の『アイス・エッジ・フィニッシュ』による絶対零度の切断面のおかげで、鮮度は完璧。
大人の腕の太さほどもある巨大な白身を、沸騰した特大の鍋に放り込み、少しの塩で茹で上げる。
数分後。
ルナキンの貸切状態となった客席フロアに、大皿に山盛りにされた『茹でたての白身』が運ばれてきた。
「はい、お待たせしました! 死蟷螂機の特大茹でガニです!」
モワァァァッ……と、湯気と共に立ち上る、強烈な磯の香りと濃厚な甘い匂い。
それは紛れもなく、前世の記憶にある極上の『タラバガニ』そのものだった。
「わぁぁぁぁっ! カニですわぁぁぁぁっ!!」
真っ先に飛びついたのは、もちろん芋ジャージ姿のリーザさんだった。
彼女は両手で巨大なカニ身を掴むと、熱さも気にせずガブリと食らいついた。
「ふはふはっ! あつっ、でも、んんんんんっ! 身がプリップリで、噛むほどに濃厚な甘みと旨味が口いっぱいに広がりますのぉぉぉっ! 私、生きててよかったですわぁぁっ!」
「こらリーザ、一人で独占しないの! ……あむっ。んーっ♡ 本当に美味しい! ユリウス君が育てたカボスを絞ると、さらにさっぱりして最高ね!」
ウサ耳村長のキャルルさんも、満面の笑みでカニを頬張っている。
自警団長のマンミアさんは、最初は「古代兵器を食べるなど……」と渋っていたものの、一口食べた瞬間に瞳孔が開き、「こ、こんな旨いものがこの世にあったとは……っ! ユリウス、おかわりだ!」とパイルバンカーを放り出してカニに夢中になっていた。
「いやー、本当に極上ね! 私、高級料亭で時価十万円のズワイガニ食べたことあるけど、こっちの方が全然美味しいわ!」
フリフリのアイドル衣装に戻ったキュララさんが、カニ身をカメラ(水晶玉)に向けながら実況している。
死蟷螂機襲撃事件の顛末は、キュララさんの配信を通じて全宇宙に生放送されていた。
コメント欄は、完全なるメシテロ映像に阿鼻叫喚となっている。
『深夜にその映像は犯罪だろ!』
『超音速の暗殺兵器が、ただの極上タラバガニにww』
『ユリウス君の包丁捌き(物理)のおかげだな』
『カニ食いてええええええっ!』
「ふふふっ、リスナーのみんなも食べたいよねー? でもこれは私と村のみんなの特権なのだ!」
キュララさんが悪戯っぽく笑い、ふと、ルナキンの伝票を手にとった。
この大宴会、村人全員で飲み食いしているため、お会計はとんでもない金額(金貨数十枚レベル)になっている。
「あ、店長さん! お会計お願いしまーす!」
「お、おう。まいどあり! だが、キュララちゃん。これ払えるのか?」
「大丈夫だよっ! はい、リスナーのみんなー! 今日の祝勝会の代金、奢ってくれる太っ腹な神様はいるかなー?♡」
キュララさんが、カメラに向かってルナキンの『お会計用QRコード』を映し出した。
すると。
『ピッ』『ピピッ』『ピロリンッ!』
たった数秒。
カメラにQRコードが映った瞬間、天界の神々(主にオリン主神やルチアナ女神)からのスパチャ決済が殺到し、ルナキンのレジから「決済完了」のファンファーレが鳴り響いた。
「はい、お会計全額支払い完了でーすっ♡ みんな、ごちそうさまチュッチュッ♡」
「「「おおおおおぉぉぉぉっ!!」」」
村人たちから、キュララさんとリスナー(神々)へ向けて万雷の拍手が送られる。
自分の財布は一ミリも痛めず、画面の向こうのファンに数十万円の飲み代を秒で決済させる。
これが、月収二億を稼ぐトップゴッドチューバーの恐るべき他力本願(錬金術)の生態であった。
「(……エンタメの世界って、本当にすごいなぁ)」
僕は、巨大なカニ肉を頬張りながら、ワイワイと騒ぐポポロ村のみんなを見渡した。
右ではリーザさんがカニの殻ごと丸呑みしようとしてキャルルさんに怒られ、左ではキュララさんが配信画面に向かってファンサをしている。
正面では、ネギオとマンミアさんがジョッキをぶつけ合ってイモッカ(芋酒)を煽っていた。
「うん。美味しいご飯があって、愉快な仲間がいて。やっぱり、この村での農業生活は最高だな」
僕は心からの笑顔を浮かべた。
実家の帝国から追放された時はどうなることかと思ったけれど、僕の求めていた『平穏なスローライフ』は、確かにここにあったのだ。
……まあ、自分が神様見習いに任命されていたり、全宇宙に無自覚無双を配信されていたりすることには、極力目を背けながらではあるけれど。
◇ ◇ ◇
その頃。
天界の薄暗いモニタールーム。
「……アァァァァァァァァァッ!!!」
ガシャァァァァァンッ!!!!
炎上神ワイズの怒号と共に、数百万円する天界製の最新型モニターが、粉々に砕け散った。
「カニだァ!? 俺の……俺が解き放った最凶の暗殺兵器が……タラバガニ(極上)になっただとォォォォッ!?」
ワイズは頭を抱え、床を転げ回りながら血の涙を流していた。
彼が企てた『村人全滅の絶望展開』は、気弱な農夫の『食材を傷つけないための神域の一刀両断』によって、完全に防がれた。
それどころか、敵の死骸は村の祝勝会の豪華なメインディッシュとして、みんなの胃袋へと美味しく収まってしまったのだ。
「ふざけるな……ふざけるなああああっ! 俺のプロデュースした『死蟷螂襲来』の恐怖映像が、なんで『ルナキンでのカニ鍋メシテロ配信』に上書きされてんだよォォォッ!!」
キュララが映したQRコードの決済に、自分と同じ天界の神々が群がって数百万のスパチャを投げている事実が、ワイズのプライドをさらにズタズタに引き裂いた。
「クソがぁ……ッ! 絶対に許さねえ! あの農夫……ユリウス! そしてあの手羽先天使! 次こそは、次こそは絶対に絶望のどん底に叩き落としてやるからなァァァッ!!」
天界の片隅で、炎上神の怨嗟の声が空しく響き渡る。
そんな彼の黒い企みも、ポポロ村でカニ鍋を満喫している気弱な農夫(神様見習い)の耳には、全く届いていなかった。
「あ、キャルルさん、そっちのカニの爪取ってもらえますか?」
「はい、ユリウス君! あーんしてあげるね♡」
圧倒的な力と無自覚な優しさで、世界と神界を巻き込んでいくユリウスの『(自称)平穏なスローライフ』は、まだまだ波乱の予感に満ちているのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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