EP 9
遅れてきたミリタリー天使と、三者三様の溺愛〜「何のために変身したのよこの手羽先天使!」〜
上空から降り注ぐ神々しい光の粒子。
オーケストラ調の壮大なBGMがクライマックスを迎え、村の広場に、眩いばかりの黄金聖騎士アーマーをまとったトップゴッドチューバーが舞い降りた。
「さあ! 愛と正義とマネーの為の黄金聖騎士、ゴッドチューバー・キュララ参上! 全宇宙のみんな、スクショの準備はいい!? 撮れ高のために、悪い魔獣はキュララちゃんが退治しちゃうぞっ☆」
キュララさんは、フリフリのスカートの上から白銀と黄金の重厚な装甲を着込み、カメラ(水晶玉)に向かってバチンッと見事なウインクを決めた。
そして、聖騎士の鎧にはおよそ似つかわしくない、近代兵器である『Glock 19』を胸元から素早く抜き放ち、さらに背中から対戦車ロケット『RPG-17』を肩に担ぎ上げたのだ。
「ターゲット、ロックオォォォンッ! さあ、どこからでもかかってきなさい!」
キュララさんが、ドヤ顔で引き金に指をかけ、周囲をぐるりと見渡す。
だが。
「……あれ?」
彼女の視線の先にあるのは、見事に縦真っ二つに両断され、一切の血を流さずに綺麗な断面を晒して転がっている、死蟷螂機の無惨な残骸だけだった。
広場に流れる、気まずいほどの沈黙。
「えっ……? うそ、敵は……? ねえ、さっきまで超音速で飛び回ってたヤバい魔獣は!?」
「何のために変身したんですのよ、この手羽先天使ぃぃぃっ!!」
静寂を打ち破ったのは、リンゴをかじりながら待機していた芋ジャージの極貧アイドル、リーザさんの魂のツッコミだった。
「あんたが空中でピカピカ光ってモタモタお着替えしている間に、ユリウス様がとっくの昔に一刀両断してしまいましたわよ!! 見事に綺麗に! 私のカニ肉(特大サイズ)のために!」
「えええええええっ!? ウソでしょ!? 私の……私の最大の見せ場がぁぁぁっ! これじゃただの出オチじゃないのぉぉっ!」
キュララさんがRPG-17を地面に放り出し、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「キーッ! そもそもあんたのその重そうな鎧、銃を撃つだけなら絶対必要ないですわよね!? 動きにくそうですし!」
「な、何よ貧乏魚! 『聖騎士の鎧を着た美少女天使が重火器を乱射する』から画面映えしてスパチャが飛んでくるんじゃない! 配信者はビジュアルが命なのよ!」
「でも出番ゼロでしたわよね! バカですの!? アホですの!?」
ギャーギャーと、またしても月収二億のゴッドチューバーと月収数千円の地下アイドルの、不毛な言い争いが始まってしまった。
僕は、氷剣を霧散させた『三徳包丁』を腰のホルダーにしまいながら、苦笑して二人の間に割って入った。
「まあまあ、二人とも喧嘩しないで。誰一人怪我がなくて、本当に良かったですから」
僕が優しく微笑みかけると、キュララさんとリーザさんの動きがピタリと止まった。
「ユリウス……様……」
「ユリウス……君……」
二人の顔が、みるみるうちに林檎のように真っ赤に染まっていく。
どうやら、僕の背後を浮遊しているキュララさんの水晶玉のコメント欄も、とんでもないことになっているようだ。
『うおおおおおおおおっ!!』
『ユリウス君の絶対零度、カッコよすぎだろ!!』
『超音速の敵を真っ二つ!? 神域の剣技じゃねえか!』
『しかもカニ肉を傷つけないための手加減とかエグいww』
『からの、「怪我がなくてよかった」のイケメンボイス!!』
『尊い……っ! ユリウス君に赤スパチャ連打ぁぁっ!』
キュララさんのエンジェルすまーとふぉんからは、チャリンチャリンとスパチャの通知音が鳴り止まない。
どうやら、今回の戦闘(という名の料理の下ごしらえ)の『撮れ高』は、すべて僕の無自覚な剣技が持っていってしまったらしい。
「あ、あの……ユリウス様っ!」
リーザさんが、モジモジとしながら僕のジャージの袖を摘んできた。
普段は食い意地が張っているだけの彼女だが、今は上目遣いで、どこか乙女のような潤んだ瞳を向けている。
「私……ユリウス様のあの剣捌きを見て、確信しましたわ。ユリウス様は、私の永遠のスポンサー様(ご飯の神様)ですの! 一生、お仕えしますわぁ……♡」
「えっ、スポンサー? いや、僕はただの農夫で……」
「ズルい! ユリウス君は私が先に見つけたコンテンツなんだから!」
今度は、黄金の鎧を着たキュララさんが、僕の反対側の腕にギュッと抱きついてきた。
「ユリウス君……すっごく強くて、イケメンボイスだわ……♡ それに、私の配信の『最高のバズ要素』でもあるし……もう、私とコンビ組んで、ずっと一緒に配信しようよ! ギャラは七対三で分けてあげるから!」
「キュ、キュララさん、鎧が当たって痛いですっ。それに配信って……僕は静かに農業がしたいだけで……」
右からは極貧アイドル、左からはトップ配信者の天使に挟まれ、身動きが取れなくなってしまう僕。
すると、正面から、ウサギの耳をピンと立てた小柄な影が、ものすごい勢いで突進してきた。
「ちょっとおおおぉぉぉぉっ!! 二人とも、私のユリウス君から離れなさいよぉぉっ!!」
特注安全靴のドロップキック(寸止め)を放ちながら飛び込んできたのは、村長のキャルルさんだ。
「ユリウス君は、このポポロ村の村人であって、私の……私の大切なナイトなんだからね! さっきだって、私を庇ってあんなにかっこよく剣を振るってくれたんだから! ねっ、ユリウス君!?」
キャルルさんが、僕の正面から首に抱きつき、熱烈なハグを見舞ってくる。
タローマン製のオーバーオール越しに、彼女の柔らかい温もりと心臓の鼓動が伝わってきて、僕は恥ずかしさで爆発しそうだった。
「キャ、キャルルさん!? あの、みんな見てますから……っ!」
「いいの! ユリウス君は絶対誰にも渡さないんだから……♡」
ウサ耳村長のヤンデレ気味な溺愛。
極貧アイドルの胃袋をつかんだ(物理)執着。
トップ配信者からのバズ(と好意)を狙う熱烈なアピール。
気弱な農夫が求めた平穏なスローライフは、今や三者三様のヒロインたちによる『熱烈な好意(とカネの気配)の奪い合い』へと発展してしまったのだ。
「あの、マンミアさん……助けて……」
僕が視線で自警団長のマンミアさんに助けを求めると。
「ふ、ふんっ。だ、誰がお前なんか……っ。さ、さっきの剣術だって、まあ、少しはやるようだなと思っただけだ! 勘違いするなよバカユリウス!」
なぜか顔を真っ赤にしてパイルバンカーを背中に隠し、完全にツンデレのテンプレのような反応を返されてしまった。
……どうしてこうなった。
僕はただ、美味しい野菜を育てて、平和に暮らしたかっただけなのに。
なぜか無自覚に神様見習いにされ、全宇宙に配信され、女の子たちから奪い合われている。
「はぁ……。とりあえず、あのカニ(死蟷螂機)を茹でましょうか。みんなでお腹いっぱい食べれば、喧嘩もおさまりますよね」
僕は、深く長いため息をつきながら、見事に両断された超音速の暗殺兵器(の残骸)へと歩き出すのだった。
この『大バズり』の配信を、天界でモニターを破壊しながら血の涙を流して見ている神や、ルナミス帝国で絶望のどん底にいる父上がいることなど、僕の知る由もなかった。
読んでいただきありがとうございます。
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