EP 2
木々から家具を生み出し、魔獣を絶品ステーキ丼に変える男〜ヤンデレ気味なウサ耳村長が突撃してきました〜
「お、王子様あああああああっ!」
芋ジャージ姿の少女――リーザさんは、地面にへたり込んだまま僕を拝み倒していた。
「い、いや、ただの農夫ですよ、僕は。怪我がなくて本当によかったです」
「謙遜しないでくださいませ! あんな恐ろしいロックバイソンを一瞬で氷の像に変えるなんて……! 私、感動しました! お礼にポポロ村までご案内しますわ!」
鼻息を荒くして立ち上がるリーザさん。
しかし、彼女が力強く胸を張った瞬間。
きゅるるるるるるぅぅぅぅ……。
荒野に、悲しい腹の虫の音が響き渡った。
「あぅ……。すみません、ここ数日、パンの耳と野草しか食べていなくて……」
顔を真っ赤にしてうつむくリーザさん。
なんだか可哀想になってきた。僕もちょうどお腹が空いていたし、せっかくだからお昼ご飯にしよう。
「村に行く前に、少し食べていきましょうか」
「えっ? でも、こんな荒野に食べる場所なんて……」
リーザさんが首を傾げる中、僕は地面に手を触れた。
ユニークスキル【豊穣の神】。
僕の魔力が大地に流れ込むと、足元の雑草や木の根が意思を持ったように蠢き始める。
メキメキと音を立てて絡み合い、瞬く間に立派な『木製のテーブル』と『二脚の椅子』が組み上がった。ついでに日よけのパラソル状の葉っぱも生やしておく。
「な、なんですのおおぉぉっ!? これえええっ!?」
「え? ただ椅子とテーブルをセットしただけですよ。立って食べるのは行儀が悪いですし」
「いや、ただの植物操作のレベルを超えてますわよ!?」
目をひん剥くリーザさんを椅子に座らせ、僕は腰の『三徳包丁』を抜いた。
先ほど一瞬で凍らせたロックバイソン。あの氷結抜刀術のおかげで、血抜きも完璧、細胞も壊れず、鮮度は最高の状態で冷凍保存されている。
僕は包丁で凍った巨体から極上の霜降り肉を切り出し、手持ちのマジックボックスから携帯用の魔導コンロとフライパンを取り出した。
さらに、異世界の主食である『米麦草』と、調味料の『醤油草』を用意する。
熱したフライパンにバイソンの肉を乗せると、ジューッ!という食欲をそそる暴力的な音が響いた。
サシの入った肉が焼け、脂の甘い香りが広がる。そこに醤油草を絞り入れると、焦がし醤油の香ばしい匂いが周囲を包み込んだ。
「はわわ……! いい匂い……!」
「はい、お待たせしました。特製・ロックバイソンのステーキ醤油丼です」
ほかほかに炊き上がった米麦草の上に、分厚いステーキを豪快に乗せた一品。
リーザさんは受け取るなり、猛烈な勢いでかき込み始めた。
「んんんん〜〜〜っ! 美味しいいぃぃっ♡」
芋ジャージの少女は、涙をポロポロとこぼしながら肉を頬張る。
よっぽどお腹が空いていたんだな。喜んでもらえて、料理を作った甲斐があった。
僕も自分の分のステーキ丼を食べようと箸を持った、その時だった。
ドドドドドドドドッ!!
突如、彼方から猛烈な土煙を上げて、何かがマッハの速度で突っ込んできた。
「リーザアアアァァッ!!」
凄まじい急ブレーキと共に土煙の中から現れたのは、ウサギの耳と尻尾を生やした、ラフな現代風パーカー姿の可愛らしい女性だった。
足元には、タローマン製の特注安全靴を履いている。
「あ、キャルル! お疲れ様ですの!」
「お疲れ様じゃないわよ! あんたが魔獣に襲われてるって聞いて、すっ飛んできたのよ! 怪我は……って、なんで優雅にステーキ丼なんて食べてるのよ!」
ウサ耳の女性――キャルルさんは、リーザさんの無事を確認してホッと息を吐いた後、テーブルの上の料理を見て眉を吊り上げた。
「ちょっと! しかも二人前じゃない! 私を差し置いて、こんなところでデートのランチタイム!?」
「ち、違いますの! これはユリウス様が作ってくださって……!」
キャルルさんが、ギロリと僕を睨みつける。
ひぃっ。すごい目力だ。怒らせちゃったかな。
「あら、貴方は?」
「は、はじめまして! ポポロ村で農業をやりたいと思って来ました、ユリウス・レオパルドと申します! あの、勝手に村の近くで料理してすみません!」
僕は慌てて立ち上がり、オドオドしながら右手を差し出した。
キャルルさんは訝しげな顔をしながらも、その手を握り返してくる。
「……ポポロ村の村長、キャルルよ。よろしく……って、え?」
握手をした瞬間、キャルルさんの目の色が変わった。
「(……何、この手。泥にまみれてるけど、これは『剣ダコ』? それに、オドオドしてるように見えて、身体の軸が全くブレてない。どんな体勢からでも反撃できる、完璧で隙のない構え……!)」
キャルルさんのウサギの耳が、ピクピクと動く。
「(それに……心音。すごく落ち着いていて、優しくて、嘘の欠片もない。私のためにわざと怯えたふりをして、警戒を解こうとしてくれてるの……?)」
なんだろう。急にキャルルさんが黙り込んでしまった。
顔がどんどん赤くなっている気がするけど、熱でもあるんだろうか。
「あ、あの、キャルルさん?」
「…………や、やだ。どうしよう」
「えっ?」
キャルルさんは、潤んだ瞳で僕を見つめ上げ、両手で僕の右手をギュッと握りしめた。
「好きになっちゃう……♡」
「…………はい?」
とろけるような甘い声。
あまりの急展開に僕が呆然としていると、横からドンッ!とテーブルを叩く音がした。
口の周りを醤油だらけにしたリーザさんが、目を吊り上げて立ち上がっている。
「きぃぃぃっ! ダメですわキャルル! ユリウス様は、私の大事なスポンサー(ご飯係)になっていただくんですからね! 泥棒猫! じゃなくて泥棒ウサギ!」
「はぁ!? あんたこそ何言ってるのよ! ユリウス君は私の村の住人(予定)よ! 村長である私が面倒を見るに決まってるじゃない!」
バチバチバチッ!
なぜか、初対面のウサ耳村長さんと、芋ジャージのアイドルさんが僕を挟んで火花を散らし始めた。
「あ、あの……喧嘩はよくないですよ? お肉、まだありますから……」
僕がオドオドしながら肉を追加で焼き始めると、二人は同時に「食べます!」と元気よく返事をした。
なんだか騒がしい人たちだけど、悪い人じゃなさそうだ。
追放された時はどうなるかと思ったけど、この村なら、平穏な農業ライフが送れるかもしれないな。
僕は呑気にそんなことを考えながら、絶品のステーキ丼を追加で盛り付けるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「植物から家具を錬成するチート!」
「ステーキ醤油丼、普通に美味しそう……」
「キャルル村長のチョロイン化(ヤンデレの素質)が最高ww」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に押して、ユリウスの農業ライフを応援していただけると嬉しいです!
作者の執筆速度が『超神速育成』されます!
次回、「気弱な剣士の模擬戦と、ケンタウロス娘への無自覚な口説き文句」。
明日も更新予定ですので、ぜひ【ブックマーク】をしてお待ちください!




