第一章 追放された気弱な氷剣士、祠へのお供えで神界配信バズり中
気弱な氷魔法剣士は実家を追放される〜でも内心は農業がしたくて大歓喜! 愛用の包丁で魔獣を凍らせたら、なぜか王子様扱いされました〜
「ユリウス。貴様の剣は甘すぎる。戦場に出たら、真っ先に死ぬだけだ」
ルナミス帝国、将軍邸の広間。
帝国軍の猛将として名を轟かせる父ガレオンの怒声が、ビリビリと空気を震わせる。
「ひぃっ……! す、すみません父上……っ」
僕はビクッと肩を震わせ、小さく身を縮めた。
僕の名前はユリウス・レオパルド。
このファンタジーな異世界に赤ちゃんとして転生してきた、元日本人の農業大学生だ。
武門の名家であるレオパルド家に生まれた僕は、幼少期から父にスパルタ教育を施されてきた。
けれど、僕には前世の記憶と、大人としての知性がある。
本気で剣を振って、もし大好きな父さんに怪我でもさせてしまったら……そう思うと、どうしても寸止めをしてしまい、常にわざと負け続けてきた。
その結果が、これである。
「お前のように殺気を放てん臆病者は、我がレオパルド家には不要だ。辺境のポポロ村で、泥でもすすって惨めな余生を過ごすがいい!」
「は、はいっ! わかりました父上! 今までお世話になりました、どうかお元気で!」
僕は深々と頭を下げた。
声が震えていたのは、決して悲しかったからじゃない。
(やったぁぁぁぁぁぁっ! これでやっと農業ができるぞおぉぉぉ!)
歓喜のあまり、顔がにやけそうになるのを必死に堪えていたからだ。
怪我をさせずに済んで、本当によかった。
僕は心の中でガッツポーズを決めながら、早々に屋敷を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
ルナミス帝国から数日歩き、緩衝地帯に位置するポポロ村の近郊までやってきた。
僕の荷物は多くない。
タローマン(帝国で大人気のホームセンター兼衣料品店)で買った丈夫なオーバーオールに、長靴。
そして腰のホルダーに差した、使い込まれた一本の『三徳包丁』だけだ。
僕には【豊穣の神】というユニークスキルがある。
前世から愛してやまない農作業に、これほど適したチート能力はない。
一刻も早く村に着いて、土を耕して、美味しい野菜を育てたい!
そんなふうにウキウキしながら荒野の道を歩いていた、その時だった。
「ひえええええっ!? だ、誰か助けてええぇぇ!」
前方の岩陰から、悲痛な叫び声が響いた。
慌てて駆けつけると、そこには異様な光景が広がっていた。
ルナミスデパートのワゴンセールで売っていそうな芋ジャージ姿で、足元は健康サンダルという謎の格好をした美少女が、地面を這いつくばっている。
そして彼女の背後には――岩のように硬い角を持つ牛型魔獣『ロックバイソン』が、荒い鼻息を吹き鳴らして突進の構えを見せていた。
「ああっ! 私の大事なパンの耳が泥にぃぃっ!」
少女は魔獣の脅威よりも、地面に落ちたパンの耳を拾おうと必死に手を伸ばしている。
ダメだ、このままじゃ轢き殺される!
「あ、危ないっ!」
僕は咄嗟に地面を蹴り、少女とロックバイソンの間に割って入った。
『ブモォォォォォォッ!!』
僕という邪魔者が現れたことで、ロックバイソンはさらに激昂し、地響きを立てて猛突進してくる。
重量数トンの岩の塊が、時速数十キロで迫り来る恐怖。
「ひぃぃっ……! こ、来ないでください……!」
僕は涙目になりながら、腰のホルダーから『三徳包丁』を引き抜いた。
魔獣の赤い瞳が、僕の握るみすぼらしい調理器具を見て、あからさまに嘲笑の色を浮かべた。
――けれど、次の瞬間。
僕の覚悟が決まり、心の底から『怯え』が消え去る。
(……この人を、死なせるわけにはいかない)
指先から柄へ、全身の魔力を一気に流し込む。
大気中の水分が、僕の魔力に呼応して急激に温度を奪われていく。
パキッ……。
甲高い氷結音が、静寂を引き裂いた。
パキパキパキパキィンッ……!!
大気中の水分が白煙を上げて凝固し、包丁の刃先から幾重もの氷の結晶が花咲くように連鎖していく。
瞬く間に伸び上がったのは、透き通るような白銀の刀身。
陽光を浴びて神々しく輝く、一振りの美しいロングソードだ。
「……フリーズ」
周囲の気温が絶対零度へと叩き落とされる中、僕は静かに剣を一閃させた。
氷結抜刀術――『霜華』。
青白い閃光が、突進してくるロックバイソンの巨体をすり抜ける。
肉を断ち切る音もしなければ、血の一滴すら流れない。
『ブモ、ォォ…………?』
ロックバイソンは突進の姿勢のまま、ピタリと動きを止めた。
見れば、その足元から鼻先まで、完全に透き通った極厚の氷に覆われている。
傷一つつけず、痛みすら与えず、ただ細胞の活動を完全に停止させる、絶対的な生殺しの氷像。
「ふぅ……よしっ」
魔力の供給を止めると、サラサラ……と氷の刃がダイヤモンドダストとなって霧散し、僕の手元にはただの濡れた包丁だけが残った。
「……すみません、驚かせちゃいましたよね」
僕は包丁をホルダーにしまい、へなへなと腰を抜かしている芋ジャージの少女に手を差し伸べた。
「ひぃぃ、魔獣とはいえびっくりしました……。お怪我はありませんか?」
本当によかった。
もし普通に斬り捨てていたら、魔獣の血や内臓が飛び散って、彼女の服(やパンの耳)を汚してしまったかもしれない。
それに、こんな巨大な魔獣を傷つけたら、後で村の人から『器物損壊』とかで弁償を求められるかもしれないし。
不殺(氷漬け)が一番平和だ。うん。
そう思って安堵の笑みを浮かべる僕に対し、少女は目を丸くして、ぽかーんと口を開けていた。
やがて、彼女の瞳にキラキラと星が輝き始める。
「お、王子様あああああああっ!?」
「……えっ?」
芋ジャージの少女は、なぜか両手を組んで、僕を拝むように見つめてきたのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
追放された気弱な農夫(最強の氷魔法剣士)ユリウスと、
極貧地下アイドル人魚姫リーザの出会いでした。
「包丁が氷の剣になるのカッコいい!」
「主人公、無自覚にエグいことしてるww」
「続きが気になる!」
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次回、「ただのステーキ丼を作っただけなのに、村長が襲来してきました」。
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