EP 12
敗北者たちと熱狂〜炎上神の台パン、親父の絶望、そして神々の狂喜乱舞〜
ガンッ!!
天界の薄暗いモニタールームに、激しい打撃音が響き渡った。
新入りの男神、炎上神ワイズが、愛用のノートPCが置かれたデスクを力任せに殴りつけたのだ。
「ふざけんなァッ! なんだあのデタラメな氷結魔法はッ!?」
ワイズは目を血走らせ、モニターに映る映像を睨みつけていた。
画面の中には、彼がけしかけたはずの最凶の生物兵器『死蟲機』の群れが、一匹残らず青白い氷のオブジェと化している。
切り札だった『合成死蟲将軍機』の自爆熱線すら、あの気弱な農夫が放った『絶対零度』の斬撃によって、空間ごと真っ二つに凍結させられていた。
「ありえねえだろ! 数千度の熱量を凍らせるだと!? 物理法則も魔法の概念もガン無視じゃねえか! それに……なんだこの同接数は!」
ワイズの視線の先、ユリウスの配信チャンネルの同時接続者数は、驚異の『5億人』を突破していた。
悲劇の村が炎上し、後から勇者が駆けつけるというワイズの脚本は完全に破綻した。
代わりに全宇宙の神々が見せられたのは、『圧倒的な力を持つ気弱な農夫が、愛する畑のために無双する』という、最高にカタルシスのある英雄譚だったのだ。
『ヤバすぎワロタwwww』
『ただの包丁が聖剣になったんだが!?』
『しかも本人は装甲を壊したこと気にしてて草。どんだけいい子なんだよ!』
『ユリウスきゅん尊い! スパチャ投げまーす!』
コメント欄は爆速で流れ、虹色のスパチャ(魔力還元)が画面を埋め尽くしている。
「クソがぁぁぁっ! 俺の……俺の企画が、ただの農夫のプロモーションビデオになっちまったじゃねえかッ!」
ワイズは頭を抱え、絶望と怒りのままに再びデスクを殴りつけた。
彼の目論見は、完全に、そして無惨に打ち砕かれたのだった。
◇ ◇ ◇
同じ頃、ルナミス帝国。
将軍邸の執務室で、猛将ガレオンは再び床に膝をつき、真っ白に燃え尽きていた。
「……終わった。我が帝国の……いや、全人類の損失だ……」
傍らで震える副官が持つ魔導通信盤には、先ほどの『絶対零度』の映像がリプレイ再生されている。
「将軍……ユリウス様は、神話のバケモノさえ一太刀で……」
「わかっている! 言わなくていい!」
ガレオンは血を吐くような声で叫んだ。
「あのような規格外の怪物を、私は『甘ったれ』と罵り、帝国から追放してしまったのだぞ!? もし……もしもあやつが、帝国に恨みを抱いて攻め込んできたらどうなる!? 魔導戦車も、防衛フィールドも、あの氷結剣の前では紙切れ同然だ!」
ガレオンは両手で頭を抱え、ガタガタと震え始めた。
「私はなんという愚か者だ……。あやつがその気になれば、帝国など三日で滅ぼせる。なのに私は、あやつの『優しさ』に気づけず、みすみす手放してしまった……。ああああっ、すまないユリウス、許してくれぇぇっ!」
帝国最強の将軍が、己の失態と、息子に生かされていたという事実に押し潰され、執務室でボロボロと涙を流す。
実家の全自動ざまぁは、ここに極まっていた。
◇ ◇ ◇
一方、そんな天界や帝国の阿鼻叫喚など知る由もないポポロ村。
「えっと……皆さん、本当に怒ってないですか? 弁償しなくていいんですか?」
僕は、氷の森と化した村の広場で、おずおずと尋ねた。
いまだにポカンとしている村人たちの中で、真っ先に動いたのは村長のキャルルさんだった。
「ユリウス君っ!!」
「わっ!?」
ドンッ!と、ウサ耳のキャルルさんが僕の胸に凄い勢いで飛び込んできた。
タローマン製のオーバーオール越しにも、彼女の柔らかな感触と、ドクドクと高鳴る心臓の音が伝わってくる。
「すごい……すごかったわ、ユリウス君! 村を……私の居場所を守ってくれて、本当にありがとう……っ!」
「き、キャルルさん、苦しいですっ。でも、みんな無事でよかったです」
「ううん、離さない! ユリウス君は、一生この村で私と一緒に暮らすのよ! 絶対逃がさないんだから……♡」
キャルルさんの瞳に、うっすらとハイライトの消えたヤンデレ特有の光が宿っている気がしたが、気のせいだろうか。
すると、横からリーザさんが割り込んできた。
「ズルいですわキャルル! ユリウス様は私のご飯係にして、私の永遠のスポンサーなんですのよ! Love & Moneyですわ!」
「お前たち……ユリウスを困らせるんじゃない。……ユリウス、私からも礼を言う。お前がいなければ、村は全滅していた。お前は……私の、いや、この村の英雄だ」
顔を真っ赤にしたマンミアさんが、照れ隠しのようにそっぽを向きながら言う。
村人たちからも、次々と「ありがとう!」「すげえよアンタ!」と歓声が上がり始めた。
「マスター……アンタ、マジで底が知れねえな」
ネギオがため息をつきながら、氷漬けになった死蟲機をネギカリバーでツンツンと小突く。
「でも、これどうすんだ? 村の周りが氷のオブジェだらけで、通行の邪魔だぞ。……ん?」
ネギオが突っついた死蟻機の氷の一部が割れ、中から白い身のようなものがポロリとこぼれ落ちた。
「あ、それ」
僕は前世の知識(ネットのオカルト掲示板の知識)と、農学部の好奇心から、あることに気づいていた。
僕は氷の欠片からその『白い身』を取り出し、マジックボックスから取り出した携帯コンロと油で、サッと素揚げにしてみた。
ジュワァァァッ。
香ばしい、海鮮特有の良い匂いが広がる。
「おいおいユリウス様!? まさかそのバケモノの肉を食べる気ですの!?」
「リーザさん、死蟲機の装甲の中身って、実は甲殻類に似てるらしいんですよ。しかも僕の『絶対零度』で一瞬で凍らせたから、鮮度は抜群です。……うん、やっぱりエビの匂いだ」
僕は軽く塩を振り、サクリと一口かじってみた。
「……うん! プリプリで甘くて、めちゃくちゃ美味しいエビ天ですねこれ!」
「「「ええええええええっ!?」」」
村人たちの悲鳴が響き渡る。
古代の最凶生物兵器を、まさか『エビ天』として美味しくいただいてしまう男。
「マスター……アンタの常識、どうなってんだよ……」
「ネギオさんも食べますか? あ、みんなの分もすぐに揚げますからね! これだけ数がいれば、村中のみんなでお腹いっぱい『エビ天』が食べられますよ!」
絶望の死地から一転。
僕の提案により、ポポロ村は突如として『死蟲機(エビ味)の天ぷら大宴会』へと雪崩れ込んでいった。
ルチアナたち天界の神々が『やっぱりこの農夫、最高すぎるww』と抱腹絶倒し、さらにスパチャの雨を降らせていることなど、僕が知るはずもなかった。
そして、この大宴会の最中。
僕の身に『最大の勘違い(トラブル)』が降りかかろうとしていることも――。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「ワイズの台パン&親父の大絶望」
「キャルルのヤンデレ抱擁からの、ヒロインたちのラブコメ!」
「最凶の生物兵器、まさかの『エビ天』として美味しく消費されるww」
と少しでも笑っていただけましたら、
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(皆様の星とブックマークが、死蟲機(エビ天)を揚げる油の温度になります!)
次回、第一章完結!
「第13話 神格化〜空から落ちてきたシステムウインドウ『祝!あなたを神様に任命します!』〜」。
明日も更新予定ですので、ぜひ【ブックマーク】をしてお待ちください!




