第42話 嬉しいこと
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あの時、僕が目を覚ました瞬間も、こんなに穏やかだったのかな?
静かな朝。
鳥の囀りが聞こえる。
薄手のシーツに、硬い枕。
それになんだか、妙に眩しい。
眉をひそめ、少しだけ目を開ける。
埃っぽいのは、僕が外で寝ているからかな。
「おい、……起きた、起きた、ウタが起きたぞ!」
誰かが大きな声で僕の名前を呼んだ気がする。
そしてどこからか大きな足音がする。
一つ?
二つ?
いや、なんだか沢山な気も……
「モガプェッ!」
何か柔らかいかたまりが僕の顔に抱きついた。そしてその柔らかさをこれでもかと押し付け、おんおん泣きながら良かった良かったと喜んでいる。
「目を覚ましたか、ウタ。良かった、ひとまずこれで安心だな」
抱きついていたのはレビンで、その兄であるサロムが安堵したように笑いかけた。「ここは?」と尋ねた僕に対し、サロムは一旦返答を保留し、僕の隣に腰掛けた。
「まずは先に言わせてくれ。済まなかった、そしてありがとう」
「……え?」
ぽかんとする僕の肩に腕をまわすサロム。その隣では、ビータ、エリル、カッセの姿もある。どうやらみんな無事だったみたいだ。
「お前が谷に落ちちまって、あれから俺らも必死でお前のことを探したんだ。しかしその途中で緊急要請を受けていた王都の討伐隊と遭遇しちまってな、俺らもメルビンの町へ行かざるを得なくなっちまった」
「王都の、討伐隊?」
「ウチの村に先駆けてメルビンの町から要請を受けていた王都本国が、モンスター討伐に兵を派遣していたんだ。俺らはそれに吸収されちまった形だな。ウチはメガリースト王国領内の小自治区で、上の決定には逆らえねぇ……。俺もこいつらも必死で掛け合ったんだがどうにもならず、それで……、本当に申し訳なかった」
深々と頭を下げるサロム。そんなそんなと取り繕った僕に、ビータが続けた。
「討伐隊に合流することになった我々は、その足でメルビンへと向かうことになってしまった。しかし相手はあれだけのモンスターの数だ、兵力が揃うまで迂闊に手を出すことができず、少々時間がかかってしまってね」
「そう、……だったんですね」
「どうにか落とされず保っていた北門ルートから全勢力を注ぎ、今に至るというわけだ。しかし本当に安堵したぞウタ。あの高さから落下して果たして無事でいるのかと気が気でなかったが、まさかこうしてメルビンで会えるとは思ってもみなかった。一体何があった?」
僕は川に落下してからのことを掻い摘んで話をした。
川に落ちてもどうにか生きていたこと。
戻る道がわからず川沿いの道を彷徨ったこと。
戻るよりメルビンへ向かう方が皆と合流できる確率が高いと考えたこと。
そして町で起こったこと。
「そうだったのか、それは大変だったな。しっかしまさか町の真ん中に、ウタが倒れてるとは思わなかったぞ。モンスターがワラワラ湧いてる中で戦ってる冒険者がいたなんて噂を聞いたから、誰かと思えば、まさかそんな場所にウタがいるなんてな。結局どんな情報伝達ミスだったのかは知らないが、俺たちがお前を見つけた時には他の誰かが相当数のモンスターを倒したあとだったらしい。にしても、レベル1の冒険者で戦闘はからっきしなんて言ってた癖に、お前もあそこで必死に戦ってくれてたんだな。見直したぜ!」
カッセが微笑みながら僕の肩に拳でちょんと触れる。「うん、そう」とエリルも僕のことを褒めてくれた。同じように僕の頭をくしゃくしゃと撫でたサロムは、「話を戻そうか」と前置きした。
「ここはメルビンの町の外に拵えた簡易の宿泊場ってとこかな。今は王都の奴らとメルビンの衛兵と協力して、怪我人の救護や残ったモンスターの討伐を進めてる」
「宿泊場……。そうですか。そ、それで、メルビンの人たちは!?」
慌てて起きようとした僕を押さえたビータが、まだ寝ていろと簡易のベッドに押し戻しながら言った。
「安心しな。メルビンの民衆の大半は北の門から脱出して無事だ。それに大挙していたモンスターたちも、今はあらかた討伐が完了している。それにしても、何があったか詳しいことは知らないが、町にはかなりのモンスターを排除した形跡があった。衛兵たちが相当に尽力したんだろう。そのおかげもあって、どうにか討伐隊の力で町を取り戻すことができた」
「そうですか、……良かった」
噛みしめるように呟く僕の肩に手を置いたレビンは、「それはこちらのセリフですよ」と涙ながらに言った。
「ギルド経由でお兄ちゃんからウタさんが谷に落ちたと聞かされて、私たちがどれだけ心配したと思ってるんですか。でも無事で良かった。生きていてくれて、本当に良かった」
一斉に頷くみんな。
こんな僕のことを心配してくれる人たちがいる。僕を思って泣いてくれる人がいる。まだ知り合って数日ぽっちでしかない僕のことを。
思わず笑みが溢れてしまう。
こんなに嬉しいことはあるだろうか。いいや、きっとない。
「本当にありがとうございます。皆さんも無事で本当に嬉しいです!」
「それはこっちのセリフだっつーの」と皆が頭を撫でてくれる。しかし妙だ、僕は何かとてつもなく重要なことを忘れている気がする……。
そんな話をしていると、突然周囲が騒がしくなった。
何事だとサロムが様子を見に行くなり、「ウワッ!」と声を上げた。




