第41話 全てを裏返す
振り下ろされる巨大鈍器。
突き立てられる鋭利な刃物。
撃ち込まれる名も知らぬ魔法たち。
そのどれもが僕の心臓を貫こうと、一撃必殺の意思を込めて放たれる。それを僕は、この細腕だけで受け止め、反撃する。
相手の攻撃が強大であればあるほど、沢山のモンスターが千切れて宙を舞った。そして僕のステータス値が落ちれば落ちるほど、その勢いもまた増していく。
HP : 64047 / 98123
MP : 5047 / 109121
音を奏でるように減っていく数値。
このデジタルの値がなくなった時、果たして僕はどうなるのだろうか。
今度こそ死ぬ?
それとも、また別の世界へ移動する?
「もしかして……、元の世界に戻れたり……」
脳裏を過る甘い誘惑。
しかし僕の信念は知っている。
本当に手に入れたいものがあるとして、手を伸ばすことを諦めた先に何が待っているのか。
「辛ければさっさと逃げろ、辛いならやめてしまえなんて、そんなこと簡単に言うなよ。それが簡単にできないから、みんな必死に頑張ってるんじゃないか。世の中なんて理不尽ばかりなのに、それに抗って、必死で生きて何が悪いんだよ!?」
あの人はいつも言っていた。
どんな人間も、失敗や間違いを繰り返す。……だけど
『 真剣に藻掻いたこともない人間が、ここぞという時に藻掻けるはずないだろ! 』
藻掻け、足掻け、動き続けろ!
無駄だとわかっていても、最後の最後までやり続けろ!
考えるより先にやれ、その先にしか、お前の求めるものはないだろう!?
「うるさいな、わかってるよ。僕だって、そんなのわかってるんだよ!」
ここで死んだら元の世界に戻れる?
ここで死んだら楽になれる?
どうせみんな、やられて死ぬ?
全部殺してしまえばいい?
心底僕はツイてない?
だから今回もダメに決まってる?
「……違うだろ、ずっと否定してきただろ。どれだけ世界が僕に厳しくても、ずっと抗ってきただろ。ずっと信じてきただろ、僕は!」
最初から決めていた。
必ず裏返す。
僕は僕自身の運命を、必ず逆転させるって。
「だってその方が絶対にーー」
HP : 38129 / 98123
MP : 647 / 109121
『 最高に決まってる! 』
決めた。
僕は全てを裏返す。
世界の常識も。
僕の思う常識も。
何もかもを裏返して、全て変えてやる。
何もかもをやり遂げて、僕はまたあの世界に挑戦する。
帰れないなんて誰が決めたよ。
僕の一生を、勝手に誰かが決めるなよ!
『 あああああああああああ!!!! 』
巨人が全身を震わせるように、まとわりつく全てが弾けてちぎれ飛ぶ。むしろ集団の中で最も小柄なはずのこの僕が、全てを蹂躙し、最悪の猛威を振るっている。
全部、全て、一切総べて変えてやる。
見るもの全て、絶対に!
……なのに、
「動け、動けよ身体!」
HP : 8044 / 98123
MP : 7 / 109121
MPが尽きた。
しかし急激な体力低下で大落下は発動したまま。
面白いくらいの勢いでモンスターが爆散していく。僕が視線を動かすだけで、触れた全てが暴力的にその姿を消していく。
だけど、身体はもうまともに動かない。
五体満足だとしても、息をするのも辛くなってきた。それでも――
『 やるんだよ、最後まで! 』
ムチのように振るう右腕が、周囲10メートルのモンスターを一瞬にして命ごと刈り取った。血が吹き出す時間すら我慢できず、僕は最後のMPを使って飛び上がり、眼下に広がる集団へ向け、最後の一撃を撃ち込んだ。
MPが足りず、落下した距離はほんの数メートルだったに違いない。
それでも先程の倍近く、そこにいたであろう者たち全てを塵にした。
HP : 62 / 98123
MP : 1 / 109121
全部使い果たした。
もう残っているものは一つもない。
横になったまま、もう一歩も動けない。
足掻いて、藻掻いた先の景色を見上げながら、僕はそこにあるかもしれないものに手を伸ばした。
「あ、……う」
見えていたはずの景色が陰る。誰かが僕の顔を覗いている?
モンスターだろうか。
そりゃそうか、今は戦っている真っ最中なんだから……
だけど、僕には一つの後悔もない。
必死でやった結果が失敗なら、それはそれで仕方ない。
そうして全てを受け入れ、先へ進むしかないんだから。
差し出した手を誰かが掴んだ。
引き起こされて殴られるかな?
あれだけのことをしたんだから仕方ないよ。バラバラにされたって、文句の一つも言えやしない。
でもどうしてだろう……
その手は酷く震えていて、ものすごく温かかった気がする。
「よくぞ生きていた。あとは俺たちに任せろ、ウタ!」
誰だろう?
一人、二人、いや三人か?
喋ってる気がするけど、もうそれすらわからない。
ダメだ、もう考えるのも、
つか、れ、……たーー
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