第11話 初クエストと発異常
「インフちゃん、安心してください。平原や森で俺らを襲うモンスターが出てきたら、俺が全部やっちまいますからね。こう見えて、それなりに腕はたちますから!」
僕との差を知らしめるべく、傭兵用の装備の下から覗く力こぶを見せつける。
確かによくよく見れば僕の何倍も鍛えられた肉体で、筋骨隆々とした男の身体といった感じだ。
などと彼の図体を確認していた僕に対し、サロムは唐突に僕の肩に腕を回し、声のトーンを落としてインフに聞こえぬよう呟いた。
「……おいウタ、妹の手前があって余計なこと言わなかったが、本当に大丈夫なんだろうなぁ?」
「大丈夫、といいますと……?」
「誤魔化してんじゃねぇよ。まさか、俺の妹にまで手を出してんじゃねぇだろうなって意味だ!?」
「手を出すって、僕がレビンさんにですか? そんなはずないですよ!」
「そ、そうか、だったらいいが。それにしてもキサマ、いつの間にインフちゃんを! 返答次第では地獄行きだ」
「ですからそれも誤解ですって。彼女は、……そう、彼女は僕のお付きの者で、僕の身の回りの世話をしてくれているんです」
「……身の回りの? となると、……お前、どっかの国のボンボンか?」
「じ、実はそうなんです。でも色々と人に話せない事情があって。あ、でもこの話は皆さんには内緒に」
僕の顔を見つめ、何か考えを巡らせた彼は、しばらくすると納得したように頷き、一つ確認した。
「だとすると、インフちゃんは、その……。お前の彼女、ではないんだな?」
「え、ええ。僕らはそんな関係じゃ――」
言い終わらぬうちに満面の笑みへと変わったサロムは、バンバン僕の背中を叩き、上機嫌に「そうかそうか」と喜んだ。離れた後方を歩いていたインフは、心底呆れたように「はぁ」とため息をついた。
「よぉし! そうとなれば、早速薬草採取に取り掛かりますか。まずはそうだな、この辺りだと……」
「あ、これレビンさんが言ってた三年草じゃないですか。それに見てください、あっちの木には確かポイポの実でしたっけ?」
「え? あ、そ、そうだな」
「あそこにはジクロ草もあるみたいですよ。きっと採取する人が少なかったせいで、沢山自生してるんですね!」
「な、なんだよウタ、随分と手慣れた感じじゃねぇかよ……」
「そんなことないですよ。でも実は、昔から草花の種類や植物には興味があって……、ってガボブッ!」
突然足元が抜け、何かに掴まれたように身体が沈み込んだ。冷静に確認すると、身体半分ほどが地面に埋まっており、僕を見たサロムが大笑いしていた。
「アハハハ、悪い悪い言うのを忘れてた。実はこの辺り、足場が悪いせいで小さな沼地のような窪みが多いんだ。薬草も多いが、窪みも多いから気をつけてくれ!」
「それを先に言ってくださいよって、ウボッ! 僕はガボッ! ただでさえ、アガッ! 人より落ちやす、ダバッ! んですからボダッ!」
連続で足を踏み外し、全身泥まみれになった僕を見て、サロムがひっくり返って笑っている。インフも平静を保っているようにみせて、ぷるぷると肩を震わせている。……人の不幸を喜ぶとは、この外道ども!
その後も僕は川に落ちたり、実を採るために登った木から落ちたり、睡眠草の催眠効果で眠りに落ちたりと、散々な目にあいながら、なんとか初めての薬草採取クエストを終えるのだった。
「ハァハァ、こ、これで、クエストは、達成ですよね!?(どうして僕ばかりこんな目に!)」
「だ、だな。しっかしウタは注意力散漫というか、ツイてないというか、お、面白い奴だな。こんな賑やかな採取クエストは俺も初めてだったぞ、く、ククク」
「わ、笑いを隠しながら言わないでくださいよ。ああもう、全身泥だらけでグシャグシャだ。どこかで洗わないと」
完全に打ち解けた僕らを横目に見ながら、インフはずっと僕らと一定距離を保ったまま退屈そうに明後日の方向を見つめていた。どうやら僕がサロムと行動を共にすることをよく思わないらしく、不機嫌そうにずっと爪などをいじっている。
「しっかしおかしなこともあるよな」
「おかしなことですか? ……って、また僕のこと馬鹿にする気でしょ」
「いや、違うよ。ウタも聞いたと思うが、今日はレビンに食料調達も頼まれてたろ?」
「そういえばそうですね。でもキノコや木の実が沢山採れましたよ!」
「それはまぁそうなんだが。肝心な肉が一つも取れてないだろ」
モンスター、兼採取用に準備した武器を背中から取り出したサロムは、全く出番がなかったそれを手慣れた様子で振るいながら付け加えた。
「どうにも森の様子がおかしい。あれだけウタが騒いだのに、モンスターどころか野生動物の一つも姿を見せなかった。それどころか、いつもはウヨウヨ湧きやがる低ランクモンスターすら姿をみせねぇなんて異常事態だぜ。全くどうなってやがる」




