第10話 おかしな三角関係
「え、そうなんですか!?(ギロリと兄を睨む妹)」
「は、はい、そうなんです(ごめんなさいサロムさん!)」
さらに落胆し肩を落とすレビン。
聞けば彼女は村のギルドに勤めている職員だそうで、底を尽きかけた薬草などの採取を依頼できる冒険者を探していたのだという。
「最近はカーズルインの賊が発生する頻度も高く、薬草採取のクエストを受けていただける冒険者の方々が全く集まらなくて……。なのに怪我人は増えるばかりだし、何よりこのままでは村の者が外へ出ることすらできなくなってしまいます」
「あの……、その薬草の採取って、僕みたいな駆け出しの冒険者? でもお手伝いできるんですか?」
「え?」と不思議そうな顔をするレビンは、恥ずかしそうにしている僕の質問の意味がわからないようだった。
「その、僕がちゃんとした冒険者になれば、僕でも手伝いができるのかなって。昨晩はご厚意で泊まらせてもらっちゃったし、僕で良ければ手伝わせてもらえないかなって……」
「本当ですか!?」と立ち上がったレビンは、こうしちゃいられないと僕の手を握り、「行きましょう!」と鼻息荒く言った。意味がわからない僕とインフは、いきり立つ彼女に引きずられるまま、中央広場の近くにあるほかより少しだけ大きな建物へと連れ込まれた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 突然どうしたんですか!?」
「どうもこうもありません。早速冒険者登録していただき、早速お手伝いいただければとッ!(逃げられる前に!)」
兄のサロムに負けず劣らず鼻息荒くウンウン頷く彼女は、手早く所定の制服に着替え、事務手続き用のカウンターに入るなり営業スマイルで「ようこそパパス村冒険者ギルドへ」と挨拶した。
「は、はぁ……」
「それでは冒険者登録をしてしまいましょう。ちなみに再度の確認ですが、登録は今回が初めてですね?」
「え、あ、はい」
「ではこちらの用紙に必要事項を記入してください。もしわからないことがあればお聞きくださいね♪」
促されるまま差し出された紙を受け取った僕は、わけもわからぬままそれを見てみた。すると不思議と知らないはずの文字も理解できるし、普通に文字を書くこともできる。なんで?
「どうなってんの、これ……」
「記入できましたか? でしたら次は、レベルの登録と魔法ランクの登録になります。そちらの魔法石に手を触れていただけますか?」
レビンの案内したカウンターには、彼女の頭大の水晶玉のようなものが置かれており、僕は言われるまま、透明な玉の上に手を置いた。
「……うん? あらら?」
しかしどうにも要領を得ない。
というより、彼女の視線が、これ以上なく厳しい気がする……。
「あの、どうかしましたか……?」
「ウタさんって、これまでずっと旅をしてきたんですよね?」
「ええ、そうですね……。それがなにか……?」
「旅の道中、モンスターを倒したり、魔法を使ったりは……?」
「あ、あの、ええと、僕はですね、戦うのも、魔法? を使うのも苦手でして……(そもそも使えないし)」
明らかに落胆した彼女は、サラサラと紙に何か書き加え、最後にポンと魔力印を押した。すると微かに光が漏れ、ポンとカードに変化した。
「はい、ではウタさん。こちらが作成したギルドカードとなります。言いにくいのですが、ウタさんのレベルは1、魔力ランクも同じく1の駆け出し冒険者となります。ですので、初期ランクGクラスからのスタートとなります」
レビンの言葉に、僕の後ろで素知らぬ顔をしていたインフがプッと吹き出す。どうやら皆が皆、僕のことを不憫に見ていることを察し、顔が赤くなった僕は、慌ててカードを受け取ってポケットにしまった。
「そ、それで、依頼を受けるにはどうしたら……?」
「通常はそちらにあるボードに貼られた依頼書をこちらへ提出いただければ構いません。今回は私の方で用意した、こちらの依頼をお受けいただければと思います」
取得する薬草が書き込まれた用紙を渡された僕は、それを上から読み上げた。見たこともない文字にも関わらず何事もなく理解できてしまう異常さ。う~ん、謎だ。
「ジクロ草は町の南の草原に、三年草は南西の森に、ポイポの実も同じ森に自生しています。周辺に強いモンスターはいませんが、不安でしたらパーティーを組んで行ってみるのが良いかと思います」
「でも村にはクエストを受けてくれる冒険者がいないって……」
「ま、まぁそうなのですが。ただ全くいないというわけでもありませんし、他のクエストを受けていただいている冒険者さんに手伝っていただくことも可能だと思いますよ。例えば……」
と言いかけたところで、彼女の視線が僕の背後に振れた。振り返り建物の入口を見ると、何やら影に隠れてこちらをチラチラ見ている人影が。
「お兄ちゃん、隠れてないで出てきなさい!」
どうやら諸々心配してついてきたサロムが険しい目をしてこちらを窺っていた。渋々姿を現したサロムは、どうやら状況を察したように「仕方ねぇなぁ」と相槌を打った。
「どうせ今日は非番なんだし、ウタさんと一緒に薬草の採取に行ってきて。ついでに今晩の食料も手に入れてきてくれると助かるんだけど」
「ちっ、相変わらず兄使いが荒い妹だぜ。仕方ねぇ、一緒に行くか、女たらしさんよ」
どこか目の芯が笑っていない笑顔で僕の肩に手を回したサロム。早速行くかと言いかけたところで、レビンが呼び止めた。
「あ、あの、インフさん、でしたっけ。貴女の冒険者登録は……」
「不要だ。私は主様の向かう先にお付きするだけの存在。そんなものは必要ない」
「え、あの、ですが……」
ぷいとレビンを無視するインフ。
そしてインフの言葉にますます怒りを募らせて僕を睨むサロム。
おかしな三角関係を引きずった僕らは、そのまま装備(採取用の袋など)を整え、村の南門を出発した。
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